表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神さまの奉公人  作者: 彩瀬あいり
巻ノ弐
25/25

【小噺】午睡のあとで

 ふと目を覚ますと、その部屋には誰の姿もなかった。

 紅丸はぼんやりとした思考のまま、ぐるりと視線を巡らせる。


 自分はなにをしていたのだったか。

 いつものように小豆を洗い、絲に頭を撫でられ、ともに部屋に戻った。身体を休めなさいと言われて畳の上に横になり、背中を優しく叩かれているうちに、目を閉じて――。

 そうしていま、こうして独りきりでいるのだと悟る。



 火の気がない室内は、どこかひんやりとしている。食事の時刻にはまだ早いこともあるのか、長屋の住人の声も聞こえないし、通りを売り歩く棒手振りの声も届かない。

「……いと?」

 発した声は虚空に消える。

 常なら返ってくる優しい声はどこにもなくて、紅丸はぐっとちいさな拳を握った。

 立ち上がって外へ出ようとして、足を止める。



 危ないから、ひとりでお外へ出ては駄目よ。



 声が、脳裏に木霊したせいだ。

 ほんのすこし声を尖らせて、けれどいつものように優しく頭を撫でながら絲がそう言ったから、紅丸は約束を違えてはならぬと己に戒めている。




 絲はどこへ行ったのだろう。団子屋へ戻ったのだろうか。

 あちらの家も嫌いではないけれど、姿を現すことができない紅丸だ。他の家族がいる際には、絲と自由に話すこともままならず、寂しくなってしまうこともある。


 ならば、佐田彦はどこへ行ったのだろう。

 小豆を洗って戻った時にも不在であった。やはりどこかへ出かけてしまっているのだろう。


 そのこと自体は、あまり珍しいものではない。

 絲と佐田彦と、二人ともが傍に居ないのだということも、絶対にないとは言い切れぬことである。

 お留守番できるわよね、と微笑まれると、幼いながらも奮い立つ心があるのだ。

 いま感じている切なさは、覚悟がないゆえの空虚感か。

 目が覚めた瞬間に感じた孤独さゆえの、寒々しさなのだろう。



 ひとりきり。

 なんの温もりも感じない空気に、心が冷えていく。

 忍び寄る冷気に、じわりと涙がこみあげてきた時、ストンと軽い音とともに声が届いた。


「ついさっきまで、とぼけた顔で寝ておったくせに、目覚めおったか小豆丸め」

「…………」

「――な、なんであるか。俺様はほんのすこし場を離れただけであって、べつに言いつけを破ったわけではないのであるぞ!」


 どこかばつが悪そうに、二又の尾を下げた雷獣が吠えるなか、紅丸はそっと手を伸ばす。

 常ならば即座に逃げ出す白旺であるが、耳を伏せたまま睨みをきかせ、じっとしているのは自責の念なのか。

 紅丸はそのまま雷獣の身体を抱えあげると、灰色の毛並みに顔を埋めた。

 短いながらも柔らかく、しっとりとした手触りの体毛が頬にあたる。てのひらから感じる体温が、じんわりと心も温めていく。


 にゃー、あったかい。


 知らずこぼれた笑み。

 ぎゅっと力を入れて、抱きしめる。


「にゃー、あったかいね」

「ええい、力をいれるでない。にゃーではないのである」


 途端、じたばたと足掻きはじめた雷獣を抱きしめ、紅丸はふたたび笑みを浮かべた。



挿絵(By みてみん)




exa様(https://mypage.syosetu.com/351361/)がTwitterで「よその子を描く」という趣旨のタグをつけていたのをお見かけしたので、

「紅丸と白旺が見たいです」と直球を投げて描いていただきました。


あまりのかわいさにもんどりうって、許可を頂いて色を塗ったのが上記の絵となります。


飾るついでに、小噺をつけてみました。

可愛いは正義!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロで匿名メッセージを送る⇒マシュマロ
― 新着の感想 ―
[良い点]  ひとりぼっちはさみしいよね。  ぬくもりが欲しい、わかるわかる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ