きっとこれはハッピーエンド
運転席から降りて、伸びをする。外は快晴。きっと今日一日、よく晴れることだろう。
「いいね。おめでたい日にふさわしい」
腕時計を確認すれば、約束の時間よりも一時間近く早い。気が急いて、出発時間に余裕を持ちすぎたようだ。
柄にもなく緊張しているらしい。いつもより早い心臓の鼓動を誤魔化すように、首を回す。
ぐるり、回った視線の先には、純白のチャペル。屋根の上に白い十字架が見える。
最後にもう一度、と車のミラーでネクタイをチェックしてから、元姫さまは十字架を目指して歩きだした。
かつん。慣れない革靴のたてた音が、チャペルの高い天井に響く。
数時間後に行われる式のために、室内は花で飾り立てられていた。華やかだけれど、壁やブーケに添えられたロウソクはまっさらで、自然光だけの室内は少し薄暗い。
綺麗なステンドグラスにやっていた視線をおろすと、こちらに背を向けて立つ男の姿が見えた。
早く着きすぎたのは、自分だけでは無かったようだ。
口の端だけで笑って、声をかける。
「待たせたか」
「…いいえ」
応えて、元騎士が立ち上がる。
隣に並んで立つと、元騎士は微笑んだ。
「来てくださってありがとうございます。…あなたに、最後の誓いを」
膝をつこうとする元騎士に、元姫さまが呆れた声を出す。
「そうじゃねえだろ」
笑いながら、元姫さまが右手を差し出す。
「俺の生涯の友となってくれるか?」
元騎士も笑って、その手を握った。
「あなたの生涯の友となることを、誓います」
握手したまま、肩を抱く。
「結婚、おめでとう」
「…はい。ありがとう、ございます」
返事をする元騎士の顔は見えないが、元姫さまはその声を聞いてくすりと笑った。
「おいおい、泣くのは早いだろ、花婿さん」
体を離して、握った手にぎゅっと力をこめた。そっと離して、元騎士の背中を押す。
「お前の『姫』への誓いは、これからだろう?さあ、行ってこい。」
* *
久しぶりに会う友人などに肩を叩かれながら、喧しいロビーを出る。
「あー、良い式だった」
一人、車の鍵をくるくる回しながら歩いていく。
「俺もそろそろ、結婚してえなあ」
ぼやきながら車に乗って、携帯電話を取り出す。
メールを作成する。本文に打ち込んだのは、たった一行。
『ありがとう』
宛先は、元騎士。
元姫さまから、元騎士へ。
送信ボタンを押して。
これで『姫』と『騎士』の物語は、おしまいだ。
おわり
おわりです。
どうも、お付き合い頂きありがとうございました。