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第34話:(後編) 新しき柱と案内人の合流

 実家アークライト家が地下深層に秘匿していた設計局を物理的に解体し、帝都再開発にまつわる汚職の全容を記した裏帳簿を確保したリアムは、泥とオイルにまみれたカミラとニーナを伴い、宿舎へと帰還した。

 深夜の静寂に包まれているはずのロビーには、既に夜会潜入から戻っていたベアトリスに加え、留守を守っていたアストレア、セレスティア、エルナの全員が、ただならぬ緊張感を漂わせて待ち構えていた。


 その中心で、リアムが持ち込んだ高級ソファを勝手に陣取り、山積みの魔導書に埋もれて欠伸を噛み殺しているのが、大賢者ルナマリアであった。

 これまでは特定のメンバーとしか顔を合わせていなかった彼女たちを一堂に会させ、帝都編の最終決戦に向けた建付けを完成させるため、リアムは中央に立ち、一同を見渡した。


「みんな、お疲れ様。帝都の大掃除もいよいよ大詰めだ。ここで改めて、これからの実家解体工事において、不可欠な専門職として協力してもらう二人を正式に紹介させてほしい」


 リアムがまず、カミラの背後に隠れて震えているニーナの肩を、優しく、けれど頼もしく叩いた。


「彼女はニーナ。これまでの地下調査で僕を導いてくれた、最高に筋の良い案内人だ直。スラムの過酷な環境で培われた彼女の感性は、建物の微かな軋みを聴き分け、構造的欠陥を最短で見抜くことができる。地下の子供たちの居場所をリフォームするために、僕にその才能を貸してくれることになった」


 ニーナは、神々しいまでの光を放つアストレアや、威厳に満ちたセレスティアたちの視線を浴び、逃げ場を求めるようにカミラの白銀の鎧に身を寄せた。

 セレスティアによるお風呂の洗礼を受け、カミラと共に深夜の警備に就いた経験はあるものの、こうして全住人が揃う場に出るのは初めての経験だった。


「よろしく、お願いします。あたし、おじちゃんに言われた通り、一生懸命、ネジの声を聴くから」


 消え入りそうな声で頭を下げるニーナに対し、セレスティアが即座に鋭い鑑定の眼差しを向けた。


「ニーナさん、挨拶の声が小さいですわよ。それに、その指先のオイル。リアム様が整えたこの神域を歩くなら、まずは徹底的な聖女流メンテナンスが必要なようですわね」


 セレスティアの慈悲深い宣告に、ニーナの肩がびくりと跳ねる。続いて、リアムはソファで横柄に本をめくっているルナマリアを指差した。


「そして、あそこの本の山に埋まっているのが、塔をリフォームした際に出会った大賢者ルナマリアさんだ。彼女の魔導演算能力は、帝都全体の歪んだ魔力回路を最適化するための、最高級のメインフレームとして機能してもらう」


 ルナマリアは眼鏡の奥の瞳を僅かに動かし、手に持っていた古文書をパタンと閉じた。

 彼女はベアトリスによって無理やり全身美容洗浄を施され、ニーナと同じ狭い隙間に逃げ込むという奇妙な縁を経ていたが、公式に紹介されるのはこれが初めてであった。


「勝手に装置扱いしないで。私はただ、この宿舎の静寂の建付けが気に入ったから、一時的に管理を代行してあげているだけよ。あぁ、でもそこのサキュバス。あんたがこの間無理やり施した美容術式のせいで、肌の魔力伝導率が上がりすぎて落ち着かないわ。責任取って、もっと眠れる香合でもリフォームしなさいよ」


 ルナマリアがベアトリスを指差して毒づく。ベアトリスは艶然とした笑みを浮かべ、ルナマリアのズボラな寝癖を指先で弄んだ。


「あらぁ。あんなにボサボサだったのをリフォームしてあげた恩を忘れるなんて。ルナ、あんたには生活習慣の基礎工事からやり直してあげる必要があるみたいねぇ」


 新しく加わった二人の異質な才能。路地裏を生き抜くための野生の勘を持つニーナと、数千年の叡智を誇る不遜なルナマリア。

 それまで古参としてリアムを支えてきたエルナは、ニーナの持つ精霊に近い感受性と、ルナマリアの放つ圧倒的な魔力の質を冷静に査定していた。


「なるほど。リアムが選ぶだけあって、どちらも一癖ある素材ね。ニーナ、貴女の耳に響く地脈の音、後で詳しく聴かせて。ルナマリア、貴女の演算が私の精霊魔法を邪魔するなら、その思考回路ごと風で吹き飛ばしてあげるわ」


「ふん。エルフの公女様は相変わらず建付けが堅苦しいわね。望むところよ」


 一触即発の空気が流れる中、リアムは満足げに大きく頷いた。彼にとって、これら個性豊かな住人たちの反発や主張さえも、一つの家を構成するための重要な摩擦に過ぎなかった。


「いい顔だ。みんな、これからの戦いは、一人の力ではリフォームできないほど巨大なものになる。カミラさんは外壁、セレスティアさんは浄化、エルナさんは空気の循環、ベアトリスさんは外装、そしてニーナは地盤の案内、ルナマリアさんは構造の維持。君たちがいて初めて、僕の設計図は完成するんだ」


 リアムが全員の手を順番に握り、職人としての熱い信頼を注ぎ込む。その無自覚な情熱の前に、セレスティアも、ルナマリアも、誠実に怯えていたニーナさえも、抗えない居心地の良さを感じて顔を赤らめた。


「了解した、主殿。この新しいパーツたちも含め、私が一ミリのズレも許さず、防壁として機能させてみせよう」


 カミラが重厚な金属音を立てて跪き、全員の意志が一つに集約された。リアムはニーナに、地下で見つけた孤児院設立のための裏帳簿を渡し、ルナマリアには彼女専用の魔導デスクの設計図を提示した。


「さあ、明日は実家アークライト家を、根こそぎ更地にしてあげよう。みんな、最高の手入れをして、明日に備えてくれ」


 宿舎を包む空気は、かつてないほど強固な建付けへとリフォームされていた。リアムという唯一無二の主を支えるため、神も、騎士も、魔女も、少女も、それぞれの矜持を胸に、静かな決戦の夜を共有するのだった。


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