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第17話:聖域要塞化計画(リフォーム・フォートレス)


「……兄さん、相変わらず無駄なことばかりしているんだね。壊すためにあるものを直すなんて、構造的に無意味なのに」


 リアムの手元にある、アークライト家からの親書。そこには、次男であり「解体師デモリッシャー」として名を馳せる弟、カインの冷徹な魔力がこびりついていた。

 来月、帝国軍の一部を伴い、この館を「更地」に戻しに来るという。


 リアムは静かに手紙を畳んだ。

 その指先から、普段の柔和な熱量とは正反対の、絶対零度の魔力が漏れ出す。


「……リアム様? そんなに怖いお顔をなさって、どうされましたの?」

 セレスティアがおずおずと差し出した紅茶のカップが、リアムの放つ威圧感で微かにカタカタと震えた。


「セレスティアさん。……僕のを、壊しに来る連中がいるんだ。しかも、僕が一番嫌いな『解体』という手段を使ってね」


「解体……。壊すことが目的の、あのアークライト家の本業ですわね」


 リアムは立ち上がり、テラスから広がる「難民の村」と、その先の「浄化された森」を見渡した。

 そこには彼が心血を注いで修復した家があり、彼を信頼して住み着いた人々がいる。

 職人にとって、完成した作品を壊されることは、自らの魂を否定されることに等しい。


「……許せないな。建付けが悪いなら直すべきだ。古くなったなら補強すべきだ。なのに、ただ『壊す』ためだけにここへ来るなんて。……そんな不法投棄ゴミみたいな考え、僕がリフォームしてあげるよ」


 リアムの瞳に、職人としての「狂気」が宿る。

 彼はすぐさま、五人のヒロインを館の中央ホールに招集した。


「みんな、聞いてほしい。これからこの領地全体を『完全要塞仕様』にフル・リフォームする。……君たちには、この巨大な『家』を守るための『柱』になってほしいんだ」


「パパ、本気だね! わかった、私の根っこ(地脈)を全部解放するよ! 好きに使って!」

 コレットがリアムの影から飛び出し、館全体を共鳴させる。


「面白そうじゃない。……リアム、あんたが本気で庭をいじるなら、私の精霊魔法も『防衛用』にリフォームしていいわよ」

 エルナが不敵に微笑み、魔導弓を構える。


 リアムは頷くと、まずはコレットと魔力を同期させ、領地全体の「図面」を脳内に展開した。


「スキル――【万全の住空間オール・アメニティ】・広域展開ワイド・エリア!」


 ドォォォォォォォォォン!!


 館を中心に、大地が生き物のようにうねり始めた。

 リアムの魔力が地脈を伝わり、森の境界線に沿って「見えない壁」を構築していく。


「まずは『玄関(森の入り口)』のリフォームだ。悪意を持って踏み込んだ者は、自動的に空間が反転し、元の場所へ戻される『開かないドア』の術式を組み込む」


 続いてリアムは、各ヒロインの元へ歩み寄り、その肩や手にそっと触れた。

 それは単なる接触ではない。彼女たちの魔力特性を、館の防衛システムへと「配線」し直す、精密な同期作業メンテナンスだ。


「セレスティアさん。君の慈愛の魔力を、館の『空気清浄機能』に繋ぐよ。侵入者の戦意を削ぎ、味方の傷を癒やす『聖域の霧』を展開してほしい」


「お任せください、リアム様。……私、あなた以外の者にこの聖域を汚されるのは、死ぬよりも嫌ですわ」


「エルナ。君の植物魔法で、森全体を『生きた生垣』にしてくれ。侵入者を絡め取り、優しく(物理的に)敷地外へ射出するんだ」


「……ふん。あんたに頼まれたら、断れないじゃない。……最強の迷宮庭園を見せてあげるわ」


 リアムの手が、次はカミラの白銀の鎧に触れる。

 熱い魔力が鎧の隙間を通り、カミラの肌に直接浸透していく。


「カミラさん。君は要塞の『防衛壁』の司令塔だ。僕が作った移動式の防壁を、君の剣気で操ってほしい」


「承知した、主殿。……この家を傷つける者は、私の盾が、そしてこの家そのものが許さぬだろう」


 最後に、ベアトリスの妖艶な翼に触れる。


「ベアトリスさん。君の幻惑魔法で、敵に『間違った間取り(死路)』を見せてあげて。……一度迷ったら、二度とキッチン(中心部)へは辿り着けないようにね」


「あらぁ、いいわねぇ。……うふふ、彼らを素敵な『押し入れ』に閉じ込めてあげるわよぉ」


 五人との同期が完了した瞬間、領地全体を黄金色の半球状の結界が覆い尽くした。

 それは、一軒の館が「都市」へと、そして「生きた神殿」へと進化した証だった。


「……よし。リフォーム・フォートレス、完成だ。……コレットさん、敵の様子は?」


「うん、パパ! 森の境界線の向こう側に、鉄の匂いがする大きな機械が来てる。……『解体用魔導重機』っていうのかな? すごく物騒な形をしてるよ」


 リアムはバルコニーへ出ると、遠くの森の端を見据えた。

 そこには、アークライト家の紋章を掲げた巨大な鉄の杭を打ち込む重機と、数百人の解体兵団が布陣していた。


 その先頭で、弟のカインが冷笑を浮かべて拡声の魔法を使う。


『――聞こえるかい、無能な兄さん。そのボロ館と一緒に、君の夢もろとも粉砕してあげるよ。……解体開始まで、あと三十分だ』


 リアムは怒るどころか、フッと短く笑った。

 その笑みは、完璧な「家」を作り上げた職人が、不出来な客(壊し屋)を迎える時の不遜なものだった。


「……カイン。三十分も待たなくていいよ。……壊せるものなら、壊してみなよ。……その代わり、うちの床を傷つけたら、代金(命)は高くつくからね」


 リアムが指を鳴らすと、要塞化した森が静かに、けれど確実に牙を剥き始めた。

 

 聖域都市を巡る、最初で最後の「防衛リフォーム」の幕が上がる。

 職人リアムの逆鱗に触れた帝国軍が、自分たちがこれから「リフォームされるゴミ」であることを知るまで、あとわずか。


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