第三章 9 エレカ・ヤヒメ
エレカは夢を見ていた。身体が寝台に固定されていて、視線の先には大きなレーザーの射出口が黒々とこちらを見据えている。視線を巡らせるとガラス窓の向こうには女と、顔の見えない老人が立っている。エレカにはそれが何故か、ヤグとダルタイン=ライゴーとわかる。
『生まれた罰を与えなければね……』
老人はそう呟いてスイッチを押す。瞬間、視界が真っ白に染まった──射出された強力なレーザーはエレカの身体を引き裂き、細胞膜を破壊し、ミクシアを焼き尽くす。エレカの肉体は六十兆個の細胞と数億個のミクシアに分断されて、宙を舞う。
不思議なことに、バラバラになってもなお意識があった。
寸断された身体になって空間を揺蕩いながら、エレカはもの思う。
ああ、私はこの世界のどこにいればいいんだろう……。
「っ!」
エレカが夢から覚めると、すぐ目の前にスマートデバイスが転がっているのが見えた。どうやら、机に突っ伏して寝落ちていたらしい。
身を起こすと、社長椅子に座ったフーロが彼女を見た。
「あ、起きた。珍しいね、エレカちゃんが居眠りなんて」
「え、うそ……ご、ごめん、業務中に……」
「いいて、いいて。かわいい寝顔も拝めたし〜♪」
フーロはニコニコと手をもみ合わせてみせる。普段なら、恥ずかしさに声を上げるところを、そんな気持ちも起こらなくて「うう……」と俯くことしかできない。
ふと、エレカは自分の肩に毛布がかかっていることに気がつく。フーロがかけてくれたのだろうか。そのお陰で身体は冷えていない。
「あ、フーロさん、これ……」
「あれぇ? 中央ゲートでもこんな感じかあ」
エレカのお礼の声が届く前に、フーロがテレビを見て声を上げた。画面はミクシアンたちの集まるゲートを映し出している。
「今日、エクスワードが布告出してたよね、すんごい抗議やるよって。一番規模が大きくなるって聞いてたから、どんなものなのかなあって思ったのにいつもと変わんないじゃん」
その言葉に、ドクドクとエレカの心臓が高鳴る。ついに、その日が来てしまったのか。
ノイスと面談した時、彼女自身が言い放った台詞がリフレインする。
──私が仮にミクシアンを指導する立場だとしたら、その団体が最大勢力に達した段階で全ての船を持ち出して、大人数でトロポスに乗り込むようにします。
「ま、この分にはトロポス行ってるリズ様も、今回は変なのに絡まれたりしないかな」
のんびりと言うフーロから視線を逸らし、エレカは静かに祈った。
「リズカードさん……どうか、無事で……」




