第97話 綾瀬碧の未完成な気持ち
ありきたりのシチュエーション。
だからこそ……、
――告白されるなんて、そんな上手い話はない。
俺はそう思っていた。
しかし、本当に告白をされてしまった。
綾瀬と出かけるのは今日が初めてで、存在は知っていてもちゃんと話すのは体育祭から。
まだ一ヶ月の付き合いだ。
まともに会話するのが二回目だった時に告白してきた夏海ちゃんよりも付き合いは長いが、俺はまだ綾瀬という人物をよく知っているわけではなかった。
知ろうとしている最中だ。
そんな中での告白に戸惑いを隠せない。
ただ、綾瀬は綾瀬であっさりとしていた。
「大丈夫。別に付き合ってほしいわけじゃないから」
その言葉で、俺の頭の中はさらに『はてな』でいっぱいになる。
「……どういうこと?」
「んーと……なんて言うのかな? 付き合いたいは付き合いたいけど、それ以上に友達でいたいって思うんだ」
気持ちは伝えたい。ただ、恋人関係以上に友達関係でいたいからこその、言葉だったのだろう。
「青木くんが付き合ってもいいって思うんなら喜んで彼女にしてほしいけど、青木くんって私のこと恋愛対象として見てないでしょ?」
「……そうだけど。なんで?」
「だって、かのんちゃんとか、二年の春風さんとかとも仲良いし、どう見ても私よりお似合いじゃん。そんな二人と付き合ってないなら、私が青木くんと付き合えるなんて思えないよ」
綾瀬は乾いた笑い声を上げながらそう言った。
花音は噂をされたこともあるためわかるが、何故双葉が出てくるのだろうか?
周りの目からはそう映るのかもしれない。
ただ、誰とも付き合わない理由に二人は関係なかった。
そして、俺はどうも、自分で思っているよりも他人から評価されているらしい。
その嬉しさを噛み締めながらも、綾瀬の言葉に首を振った。
「いや、綾瀬の気持ちも嬉しいし、俺の方が綾瀬に見合ってないと思う。……付き合えないけど、綾瀬は素敵な人だと思うよ」
俺らしくもなく、キザなセリフを吐いた。
それが嬉しかったのか、綾瀬の顔はさらに赤くなる。
……耳まで真っ赤だ。
「そう言ってくれると嬉しいよ。……でもまあ、私よりもお似合いの子がいるなって思って、そしたら友達として仲良くなりたいって思ったの。その程度の気持ちなのかもしれないって思われるかもだけど、仲良くなれるなら関係の形は何でもいいって思っちゃったんだ」
綾瀬は赤くなった顔を手で仰いでいる。
「……その気持ちはわからなくもないよ。多分俺も、そうなのかもしれない」
好きになった人と付き合いたい。
そう思っているが、何故そう思ったのかというのは答え辛い。
好きでもない人と付き合ってみて、それが苦痛になれば後悔するだろう。
付き合った結果好きになっていくことがあっても、好きにならない可能性もある。
結局、好きな人と付き合えたら、後悔をしてもまだ納得できるだろうと考えられた。
そして好きな人がそもそもできない理由は、綾瀬の言うように『仲良くなれるなら関係の形は何でもいい』と思っているからかもしれない。
……自分のことなのに曖昧なのは、自分でもわかっていないからだ。
初恋がまだで、恋愛という感情がわからない。
恋愛感情だったとしても、俺は気付けない。
どこかで一線を引き、気持ちに蓋をしてしまっているのだ。
「私ね、リレーの時に青木くんに庇ってもらったのが嬉しかったの。単純かもしれないけど、それで好きになった」
綾瀬はそう言い、続けた。
「男の子と付き合ったこととかないんだ。告白されたこととかあったけど、なんか違うなって思って付き合わなかった。でも、青木くんに庇ってもらってドキッてしちゃったんだ」
「そう、なのか」
「うん。……それで、男の子に免疫がないからなのかもしれないけど、これが恋愛感情なのかなって思った。好きだなって思ったの」
俺とは真逆の考えだ。
ドキッとして緊張する場面は多々ある。
しかし、特定の相手にではなく、女子に対してであれば似た感情を抱くのだ。
それは男としての性だと思っている。
だからこそ、……俺は勘違いしないのだ。
「ねえ、青木くん。私のこの気持ちは、これからも残っちゃうかもしれない。なくなるかもしれないけど、ずっと好きかもしれない。……そんな私だけど、仲良くしてくれる?」
恋愛感情を抱いたまま、友達関係でいるのは辛いだろう。
美咲先輩のように『諦めきれない』とハッキリしていれば、まだいいのかもしれない。
ただ、諦められるのか諦められないのか、それすらも……綾瀬自身ですらわからないのだ。
しかし、俺の答えは決まっていた。
「綾瀬……。俺も綾瀬と仲良くなりたいと思ってる」
付き合うのは無理だ。
しかし、お互いに納得して、仲良くなりたいという気持ちを持っていた。
友達は数人なんて決められているわけではない。
花音や虎徹、若葉も大切だが、綾瀬とも気は合うと感じたため、仲良くしたいのだ。
「これからも、よろしく」
「……うん、よろしく」
綾瀬はそう言うと、目に涙を浮かべていた。
元から付き合うことは期待していなかった綾瀬だが、失恋ということには変わりない。
そう考えると、この涙も自然なものだった。
俺はそれ以上、綾瀬に声をかけない。
中途半端に優しくすれば、かえって綾瀬のことを傷つけるからだ。
綾瀬の涙が止まるまで……観覧車が一周して地上に戻るまで、俺はゴンドラの外に目線を向けた。
夕焼けが綺麗だ。
淡く散った未完成な綾瀬の気持ちは、太陽と共に地平線へと沈んでいった。
はっきりしないけど伝えたい。
後悔したくない気持ち。
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