第5話 狙撃手とドラゴン
窓から離れた位置のソファに陣取り、小さな矢を弄びながら外の警戒をしながらサクラは尋ね人を待つ。やはり、特徴的な鏃だなとぼんやり見つめる。
少し待つとオオカミの耳を持つギルド長が室内に入ってきた。その表情は怒りで真っ赤になっている。
「サクラ、テメェ何揉め事運んできやがった!?」
「おー、やっぱり攻めてきたか。お相手ありがとー」
サクラは鏃をポケットにしまいながら笑顔で手を上げる。その様子にギルド長のこめかみがピクリと動く。
煽ったように聞こえちまったかなーと思いながらサクラは立ち上がる。そして言い訳を始めた。
「いやぁ、違うんだよ。ギルドに入ろうとしたら視線を感じたんだけど、もう扉に手をかけちまったからさ」
「本当か? 知った上で連れてきたんじゃないだろうな」
「まっさかー」
そう言いながらもギルド長の鋭い瞳から逃げるように視線を窓に向けた。その時だった。サクラの視界が向かいの建物の屋根からキラリと光る何かを捉えた。
そして反射的に体が動く。ギルド長の頭を押さえながら床に転がる。
「ーーっ!」
ギルド長がいきなり押し倒されたことに驚き、声にならない悲鳴を上げたと同時に先程までギルド長の頭があった位置を何かが通過する。そして、窓ガラスと壁に穴が穿たれていた。
「流石にこれは巻き込んじゃいけないやつだったな」
サクラは撃ち込まれた銃痕を見て顔を顰める。かなり組織的な犯行だ。それだけこの特殊な鏃の矢は重要なものだったようだ。
ただドードー鳥に悪戯で放たれたものだと思ったが違ったのかとサクラは状況の悪さに口内で舌打ちをする。
「おい、サクラ! どういうことだ!?」
ギルド長が叫ぶように状況を確認する。サクラはゆっくりと体をギルド長からどかし、匍匐前進で窓の隣の壁まで移動する。
「わりぃ、俺も状況は全くわからん。だが昨日拾った矢が特徴的な鏃でそれの出所を探ってたから、それ関係だと思う」
「おい、なんつうもん持ってきてんだよ!」
「いや、こんな事になるとは思わなかったんだよ! こんな銃持ってる奴らだってわかってたら、最初っから自衛団の団長にぶん投げて帰った!」
少し距離があるからか、焦りや怒りからか自然と2人の声は大きくなる。しかし、責任の所在を探そうにも今はいつまた銃撃されるかわからない。こんなくだらない事で言い争いをするわけにはいかない。
ギルド長もそう思ったのか、サクラを一度睨むと視線を窓の外に向ける。
「敵はどこだ?」
「多分屋根の上だ。そこが一瞬光ったからな」
「なるほど、ちなみに迎撃は?」
「悪い、手ぶらだ」
「くそっ、俺もだよ」
サクラの言葉にギルド長は舌打ちをする。そしてゆっくりと窓の外への警戒を忘れずに、部屋の扉へと向かった。幸いなことにギルド長への狙撃はなかった。
「とにかく、先に下を片付けてくる。お前はまあ、なんとか生き延びておけよ!」
「悪い!」
さっきの狙撃は威嚇だったのか? と考えながらサクラは窓の外に視線を向けて警戒する。その時、サクラの脳内に若い女の声が響いた。
『大変そうだな? 妾が助けてやろうか?』
「ノアか! 近くにいるのか?」
サクラに念話で話してきたドラゴンのノアは楽しそうに言葉を紡ぐ。サクラは思わぬ伏兵に叫ぶ。するとコロコロと鈴を転がしたような笑い声が頭の中をこだまする。
『ふふふ、お主が面白そうな物を持っていたからな。子供達の安全を確認してから来てやったぞ。今は狙撃者の後方に透明化して飛んでおる。懐かしい国の紋章が見えるぞ』
「……まさか、オウカ国か!?」
『そうじゃ、極東のオウカ国じゃ』
楽しそうなノアの声に、サクラは色々と聞きたいことがあったが、まずは刺客をどうにかするのが先だ。
「その狙撃手を無効化することは可能か?」
『ふっ、誰に言っておる。妾にとっては造作もない』
「そうだったな。最近は小型化して飯をたかってるマスコットだと思ってたわ」
『誇り高きドラゴンである妾になんてことを言うのじゃ。妾は可愛いマスコットにもなれる最強のドラゴンなんじゃぞ?』
「自分でマスコットは認めるのな」
ノアの発言に状況も忘れてサクラは呆れてしまう。
『ふむ、手伝わなくてもいいということじゃな。なら頑張るんじゃな、サクラ』
「マジですみませんでした。ノア様助けてください!」
拗ねたような声に、まずいと思いその場にノアがいないのにサクラは土下座した。額が床板に擦れるぐらい強く押し付ける。
『わかれば良い。妾に任せてのんびりしてるといい』
「マジで神様、仏様、ノア様だ。ノア様万歳!」
床から顔を上げたサクラは両手をあげてガッツポーズをする。余裕ができると下の階から争う音が聞こえてくる。まだケリがついていないということは複数名いたのだろうとサクラは当たりを付ける。
危険な外の狙撃手はノアが、ギルドに攻め入ってきた敵はギルドの構成員が片付けてくれる。サクラは何もやらなくていい。
それだけで踊り出したいほど嬉しかったが、ギルド長が戻ってきたら面倒だ。
サクラは真剣な顔をして窓の外の様子を窺うことにした。しかし緩む口角は抑えきれない。結果ニヤニヤとしてしまうが、仕方がない。
狙撃手がいると思われる場所に赤い巨大なドラゴンが姿を現す。普段のような小型化はせずに本来の姿で透明化を解いたようだ。そして、屋根の一点に向かって炎を吐き出す。
「おい、弁償しないといけなくなるんだから焼くなよ?」
『わかっておる。妾も美味しいご飯が食べられなくなるのは嫌じゃからちゃんと幻の炎じゃ。まあ、脳が幻と理解できずに人間は本物だと認識するんじゃがな。狙撃手は気絶したぞ? ギルドの前に運べばいいか?』
「助かる。ついでに中の制圧も手伝ってくれないか」
窓を開けて外に体を乗り出してノアを見ながらサクラは頼む。少し離れた距離にいたが、すぐに視線に気づいたノアがサクラを見た。
『嫌じゃ、妾は十分働いたぞ?』
「帰りに、スノーリリーのケーキでどうだ!」
『本当か? それなら話は別じゃ。すぐに制圧してこよう』
その言葉と共に狙撃手を咥えてノアはギルドの入り口まで飛ぶと、狙撃手を中に投げ入れる。そして、建物に入れる大きさに縮むと鼻歌をうたいながらギルド内に入っていった。
「食い意地の張ってるドラゴン万歳」
サクラはそう呟き、窓を閉める。そしてソファに座り騒動が落ち着くまでまったりと過ごしたのだった。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、金曜日20時更新予定です。
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