EP88 崩れゆく過去と、流れる涙
押し寄せる数百年前の絶望と献身の記憶――その圧倒的なノイズが霧散し、現実の崩壊しかけた地下空間へと意識が引き戻された。
足元の石畳は砕け散り、周囲は先ほどよりもさらに濃い黒ずんだ液体で満たされている。しかし、それ以上に重かったのは、その場を支配する空気の冷たさだった。
「――っく……」
マキマがその場に膝をつき、震える両手で自身の顔を覆っていた。彼女の目から、止めどなく大粒の涙が零れ落ちる。
「なん……でありますか、これ……。みんな、あんなに必死に……自分たちの誇りも、命も、未来も、全部捨てて……こんな暗い底へ……。ただのデータや歴史じゃない、あそこにあったのは、生きていた人たちの……あまりにも理不尽な絶望じゃないでありますか……っ」
普段は理路整然と科学や演算で物事を捉えようとするマキマが、過去の住民たちが味わった救いのない結末の感情の奔流に耐えきれず、子供のように声を上げて泣いていた。その傍らで、ヒナもまた、膝をついたまま地面に拳を強く叩きつけていた。
「ふざけんなよ……なんだよ、これ……」
ヒナの瞳が濡れ、悔しさと怒りが入り混じった震える声が空間に響く。彼女は腰の短剣にそっと触れながら、歯をくいしばった。
「こんなの……酷すぎる……。誰かを守るために、国を救うためにって……なんで、あんな真っ暗な底に自分たちを閉じ込めて、誰も知ることもないまま消えなきゃいけないわけ……? 命を懸けて戦った結果が、こんな報われない犠牲だなんて、あんまりじゃない……!」
その言葉に、アイフェリスは動けなくなっていた。
彼女は我が祖国であるエルフ王国の高貴な歴史、そして誇り高い先祖たちの伝説を信じて生きてきた。だが、その実態が「世界の歪みを正すための、あまりに孤独で悲惨な身代わりの歴史」だったと知ってしまったのだ。
「私の……祖国が……」
アイフェリスは両手で胸元を押さえ、全身を小刻みに震わせる。気高いエルフの戦士として誇りを持って立っていた彼女の足元が、崩れ落ちていくようだった。
「先祖たちは……誇りのために散ったのではなかったの……? すべてを隠し、誰にも知られぬまま、この暗い澱みの中で何百年も呪いに縛られ続けていたなんて……私たちが守り誇ってきた祖国の正体は、こんな、哀しい犠牲の積み重ねだったというの……?」
誰もが言葉を失い、重く冷たい絶望の空気が彼女たちを押し潰そうとする。
あまりにも重い過去の真実と、目の前に広がる不気味な歪みの胎動。仲間たちが心の底から打ち砕かれ、立ち上がれなくなっている中――カイエンは、静かに一歩、前へと踏み出した。
王国の過去が明らかになり、次回から激しい戦闘へと・・・
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