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追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!  作者: 黒崎隼人


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第3章:噂は王都へ、そして招かれざる客

 神獣フェンリルとの契約は、私の農業に革命をもたらした。

 加護を得た聖域の土は、どんな作物でも驚くべき速さで、そして信じられないほど豊かに育て上げた。瑞々しいカブ、拳よりも大きなジャガイモ、蜜のように甘いニンジン。前世の知識を活かした有機肥料作りや連作障害を避ける工夫と、神獣の奇跡的な力が合わさり、私の農園はもはや「豊作」という言葉では表現できないほどの恵みをもたらすようになった。

 収穫物は一人で食べきれる量では到底なく、私は村の市場にこっそりと置き、物々交換の形を取ることにした。最初は訝しんでいた村人たちも、一度その野菜の味を知ると、目の色を変えた。

「なんだこの野菜は!?」

「ただ美味いだけじゃない……食べると体の内側から力が湧いてくるようだ!」

 私の作る作物は、フェンリルの魔力的な加護を受けているせいか、食べた者の魔力をわずかに増強し、疲労を回復させる効果があったのだ。

 噂はあっという間に広まった。辺境の村に、驚くほど美味で、不思議な力を持つ作物を育てる女がいる――。

 やがて、その噂は行商人の耳に入り、彼らを通じて近隣の街へ、そしてついには王都にまで届くことになった。

「辺境の奇跡の作物」。そう呼ばれるようになった私の野菜や果物は高値で取引され、それを求めて辺境の寂れた村に、商人や、さらには魔力の源泉を求める魔術師たちまでが訪れるようになったのだ。

 私は彼らに直接会うことは避け、村の協力者を通じて作物を卸した。得た収益で新しい種や農具を買い揃え、さらに農園を拡大していく。村は活気づき、かつて私を冷たい目で見ていた村人たちも、今では「レイナ様」と呼び、敬意を払ってくれるようになった。もちろん、私の隣にはいつもフェンリルがいて、その神々しい姿が、私を不埒な輩から守ってくれていた。


 一方、その噂は当然、皇太子カイルの耳にも届いていた。

「辺境の荒れ地で、魔力を帯びた作物が採れるだと?馬鹿な、あそこは呪われた土地のはずだ」

 側近からの報告に、カイルは眉をひそめた。そして、その中心にいるのが、彼自身が追放した元妃、レイナであると知り、彼は言葉を失った。

(あの女が、一体何を……?追放された後、絶望して朽ち果てているのではなかったのか?)

 彼はレイナを「傲慢で何もできない女」だと思っていた。いや、そう思うようにしていた。しかし、報告される内容は、彼の知るレイナ像とはかけ離れている。

「何かを隠しているに違いない。あるいは、良からぬ者と手を組んでいる可能性も……」

 疑念と、ほんのわずかな好奇心。そして、心の奥底で疼く、忘れたはずの後悔。カイルはいてもたってもいられなくなり、護衛も最小限に留め、身分を隠して辺境へ向かうことを決意した。


 数日後、私の農園に、フードを目深にかぶった一人の男が訪れた。旅の商人風の、地味な出で立ち。しかし、その立ち姿や雰囲気からは、一般人ではないことが窺えた。

「素晴らしい農園だと聞いて、見学させてもらいに来たのですが」

 男はそう言ってフードを取り、顔を上げた。

 そこに立っていたのは、まぎれもなく、私の元夫、カイルだった。

 息を呑むほど整った顔立ちは変わらない。けれど、その蒼い瞳には、以前にはなかった戸惑いと焦りのような色が浮かんでいた。

 心臓が、一瞬だけドクリと跳ねた。しかし、私はすぐに表情を消し、内心の動揺を押し殺した。隣でうたた寝をしていたフェンリルが、カイルの存在に気づき、グルル、と低い唸り声を上げる。

「フェンリル、大丈夫。お客様よ」

 私がそっとフェンリルの首筋を撫でると、彼はおとなしくなったが、黄金の瞳は鋭くカイルを射抜いたままだった。

 私は、カイルが変装していることにも、彼の正体にも気づいている。けれど、私は知らないふりをすることに決めた。

「ようこそ、旅の方。見ての通り、ただの畑ですが、どうぞごゆっくり」

 私はにこりともせず、淡々とそう告げた。あくまで「見知らぬ客」として接する。それが、今の私にできる、彼に対する最大の拒絶だった。

 カイルは、私の平然とした態度と、彼の想像を遥かに超えて広がる緑豊かな農園、そして何より、私に寄り添う巨大な神獣の姿を目の当たりにして、ただ呆然と立ち尽くしていた。

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