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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season9 ― 見えない影と、暴かれる真実 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season9 ― 見えない影と、暴かれる真実 ―
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第12章 波多野の仮面 ― 計画が揺らぐ音がする ―

午後3時すぎ。

リンクル社内は夕方前の落ち着きを取り戻しつつあったが——

その中に、ただひとりだけ呼吸のリズムを崩した男がいた。


波多野樹はたの いつき


彼のデスクだけが妙に静かで、

それは“集中”ではなく“乱れ”を隠すための沈黙だった。


(……おかしい。

 こんなはずじゃない……)


自分が敷いたレールを、

誰かが静かに剥がしはじめている。


そして——

その “気配” が確かに近づいていた。



◇◇◇



その頃、アークシステムズの仮設作業室。


しゅうなぎたまき蒼真そうまの4人が端末を囲んでいた。


凪が画面に表示されたログを指しながら言う。


「……これ。波多野さんの端末から出てきた“不可解なログ”です。」


蒼真が椅子に腰掛け、腕を組む。


「不可解というより……“無理がある”ですね。」


環が目を瞬かせる。


「無理が……ある……?」


凪は頷いた。


「はい。

 たとえばこの日付の部分、

 本来は“経理処理のログ”だけが動くはずなんですが——」


凪が矢印で示す。


「同じタイミングで、

 不自然に“ネットワーク遮断の準備コード”が動いてるんです。」


柊が眉を寄せた。


「……経理のログと、ネットワーク遮断……?

 つながらないな。」


「つながらないはずなんです。

 本来なら絶対に関連しません。」


蒼真が静かに補足する。


「つまりこれは——

 “横領の処理と、証拠隠しの準備”を

 同時に行ったログ……ということになります。」


環は資料を握りしめた。


「……証拠を消すために……?」


凪が苦い顔で言う。


「そうです。でも……ここで問題があります。」


柊が凪を見る。


「なんだ?」


凪は画面をスクロールし、波多野のログを示した。


「波多野さんは……技術者じゃない。

 このコードの意味すら、本来なら“理解できない側”です。」


環は息をのんだ。


「じゃあ……誰が……」


蒼真が続ける。


「“誰かが波多野さんに書かせた”。

 もしくは“書かせたように見せかけた”。」


柊の目が鋭さを帯びる。


「宮野……か。」


環は唇をかむ。


宮野の“揺れた表情”が胸をよぎる。


(……利用されていたのは……宮野さんのほう……?

 それとも……)


凪が冷静に言った。


「どちらにせよ、波多野さんは動揺しています。

 これは……“自信を崩した人間のログ”です。」


蒼真が静かにモニターの1行を指でなぞる。


「そして。

 こういうときの波多野さんは——

 必ず、“余計なこと”をし始めます。」


柊が短く息を吸った。


「……動揺の隠蔽行動だったな。」


「はい。

 自信家の人ほど、“完璧さ”を装いたくなる。

 でもそれが逆に、ミスとして現れるんです。」


そのとき。


環の端末が“ピッ”と音を立てた。


メールの受信——

差出人は、リンクル社内の共有アドレス。


環が画面を開いた瞬間、

顔色がさっと変わった。


「柊……凪くん……蒼真さん……

 これ……リンクル全体へ向けた“緊急通達”です……。」


凪が環の肩越しに覗き込み、目を見開いた。


「……これ……!」


柊がメールを読む。


《本日15時30分より全社員のネットワークアクセスを一時遮断します

 (原因:システムメンテナンスのため)

 担当:波多野》


環は震える声で言う。


「波多野さん……

 “隠そうとしている”……?」


蒼真の瞳がわずかに光る。


「いえ。

 “計画が揺らいだ時、彼は必ず動く”。

 これは……その“第一歩”です。」


柊はすぐに凪へ指示を送る。


「凪、すぐにバックアップを取れ。

 蒼真、波多野の端末へのアクセス準備を。」


凪は椅子を強く蹴って動き出した。


「了解です、柊先輩!」


蒼真は端末を立ち上げ、手を止めずに言う。


「……波多野さんは、もう“隠しきれない”。

 追いつめる必要はありません。

 彼自身が、自分で暴きます。」


環は胸に手をあてた。


(……結月ゆづきさん……早く助けたい……

 だれも……壊れてほしくない……)


その願いが、静かに胸の奥で揺れ続けた。


波多野の仮面は——

今、確かにひび割れ始めていた。

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