第10章 波紋の中心へ ― アークシステムズ、核心の調査 ―
リンクル会議室。
壁に貼られたネットワーク図、システム構成図、ログ一覧。
3人の視線が交差し、室内の空気は緊張と集中で満ちていた。
凪が椅子をくるりと回し、モニターを環と柊へ向ける。
「……柊先輩、環さん。
これ、見てもらっていいですか?」
画面には、トリガーが仕掛けられたスクリプトの断片。
昨日まで不明だった“もう1つのコード”が浮かび上がっていた。
柊が腕を組んだ。
「……手口が2種類混ざっているのは、この部分か。」
凪は頷く。
「はい。
ここだけ“別人の癖”なんです。
本来の仕掛けに、あとから“誰か”が手を入れてます。」
環は身を乗り出した。
「……つまり、仕掛けたのは宮野さんだけじゃない?」
「ええ。
宮野さんのコードは、確かに綺麗です。
構造も読みやすくて“技術の美意識”が出てます。」
柊が微かに笑う。
「つまり、“誇りのある書き方”だな。」
「そういうことです。」
凪はマーカーを取り、スクリプトの1行を指した。
「でも、ここだけ違うんです。
ロジックの回し方が荒い。
変数の命名も雑。
“急いで書いたコード”です。」
環は息を呑んだ。
凪は画面を閉じながら、静かに言った。
「波多野さん……ほぼ確実です。」
柊の目が鋭く光った。
「宮野さんの能力を知っていて、
その“癖”を利用した、か。」
環は手に持っていたペンをぎゅっと握った。
「……宮野さん……利用されていたんですね……。」
凪がうなずく。
「はい。でも彼女はまだ気づいてません。
“自分が仕掛けたJOKER”だと思っている。」
柊は椅子から立ち上がり、会議室の窓際に歩く。
「波多野の目的……それがまだ見えないな。」
凪は資料をめくりながら眉をひそめた。
「犯人なら普通……
“漏洩したデータ”を使いたいはずなんですが——
今回はその形跡がどこにもないんです。」
環がそっとつぶやく。
「……じゃあ……
情報漏洩は“目的そのもの”ではなかった……?」
柊が振り返る。
「そうだ。
目的は別にある。
漏洩は“そのための煙幕”だ。」
凪の声が低くなる。
「……横領。
それが濃厚です。」
環の胸がざわついた。
「横領……?」
凪は静かに説明を続ける。
「リンクルの経理ログを少し見たんですけど……
微妙に数字が合わない部分があって。」
柊が補足する。
「データ漏洩の混乱に紛れて、
裏で金を動かすつもりだった可能性が高い。」
環の目が大きく開く。
「じゃあ……
芦野さんのキー操作は……
“横領を隠すための事件”として使われた……?」
凪はうなずき、静かに言う。
「はい。
“トリガーを引いた犯人”に見せかけられるよう、
最初から仕組まれてました。」
柊は深く息を吸い込み、言った。
「波多野は……自信家の宮野さんをそそのかし、
わざと“JOKER”を仕掛けさせた。
調査する誰かが来ることも読んで。
それがたまたま俺たちだった。」
環は手を胸に当てた。
(……波多野さん……
どれだけ、結月さんを……
そして宮野さんを……利用したんだろう……)
凪はパソコンを閉じ、柊と向き合う。
「柊先輩。
“あの人”に協力を仰ぎたいんですが……
波多野はうち(アークシステムズ)の
システムも狙うはずです。」
柊は微笑む。
「……ああ。そうだな……
そろそろ出番だな。」
環が驚く。
「あの人……?」
凪が目を細めて笑う。
「天才リブーター桐生蒼真さんです。」
環の胸に微かな緊張と希望が灯る。
(……蒼真さん……Blue_echo……)
波紋の中心へ、
アークシステムズは確実に進み始めていた。




