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第五話:魔王と死神

 暗闇の中で、唐突に光が点滅した。

 それは、僕の携帯電話の光であり、着信を報せる虹色の光だ。

 現在、僕は寝室に居る。

 花奈はまだ帰って来ていないから、一人だ。

 緊急の会議が、かなり長いものになっているらしい。

 だから、待っている。

 大きな鏡が立てかけられている、寝室と繋がった小部屋でソファに座りながら。

 明かりも付けずにね。

 ……おっとそうだ、着信着信っと。

 折りたたみ式の携帯をカチャリと開き、ディスプレイの光に目を細めながらも、通話ボタンをポチっとな。






『やっと出たか。お前にしては珍しく遅かったな』

「こんばんは、社長さん。久方ぶりですね」

『阿呆、昨日も電話しただろうが。……まぁ良い。花奈は居るのか?』

「居ませんよ。花奈は現在、会議中です」

『なら良かった。――おっとそうだ。とりあえず、日本制圧お疲れ様な。圧倒的だったじゃないか』

「ありがとうございます。ですが、貴方の技術支援が無ければ、まず決起自体起こせませんでした。感謝しますよ、世界規模の超有名企業FMP社の社長さん」

『あ~……出来れば、俺を特定可能な単語は出さないようにして欲しいんだがな。妻が怒る』

「真顔で言わせて貰います、嘘付けっ。天然要素全開なあの奥さんが、怒るなんて想像出来ません。嘘吐き! 妹さんに言いつけます」

『何故そうなるのか、意味が分かんねぇよ。それにお前、妹に会った事無いだろうに』

「ありますよ? 手料理をご馳走にもなりました。本当、天才通り越して秀才ですね。花奈担当のシェフにしたい位ですよ、いや本当」

『お前いつの間に……』

「あ、すみません。そろそろ閑話休題としませんか?」

『……しょうがない、分かったよ。それじゃ、本題に入るか。お前、神無月翁に初めて会ったのは、数年前にアメリカが行った、テロリスト虐殺作戦、死のクリスマスの前日だったよな』

「あぁ、あれですか。そうですよ。戦場に放り出された僕達少年兵を、神無月翁が保護して回っていて、僕と出会ったんです」

『あぁ、そこだ。つい最近になって、やっとその少年兵についての情報が手に入った。何でも、アメリカが極秘に収集した素質ある孤児を訓練させて、死のクリスマス前日、イヴの日の夜にテロリストの砦に降下させ、殲滅させたんだってな』

「よく、その情報が手に入りましたね。神無月翁が保護した少年兵の内、生きて帰って来たのは僕だけだというのに」

『いやまぁ、会ったからな。あの日の、お前以外の生き残りに』

「……嘘、ですよね? だって僕はあの日、神無月翁に言われたんですよ? 君達で全員だ、他は全滅したって」

『生きてたんだよ。っというか、保護されてたんだ。神無月翁よりも先に来ていた奴にな。で、そいつらは現在傭兵をやっていた、と。まぁ、これが本題の前置きな。俺が聞きたいのは、この傭兵達が今何処に居るか、なんだ。お前にとっては問題な存在だから、さり気無く情報が入ってるかなと思って聞いたんだが……どうだ?』

「僕にとって問題、ですか。何で皆そう言うんですかね。確かに少年兵だったあの頃の事は思い出したくも……あ、あぁ、あぁ~……。そうか、そうだった、そうでした。スパイさんが、アメリカで見たって言ってました。大統領のボディーガードをやってたとか。……そういう意味だったんですか……」

『おぉ! そうか、アメリカか。だったら問題は、無いな』

「あ、解決ですか。結局、神無月翁と何の関係が?」

『いや、神無月翁の事は別件で、死亡理由を急に知りたくなってね。お前が言う、死神だからなんて理由は、どうも納得出来ない。だから、だよ』

「そういう……事でしたか……。てっきり、移民計画に関係してるかと」

『おいおい、そういうトップシークレットな情報も駄目だって。盗聴の可能性を考えろよ』

「宇宙移民計画。貴方がたFMP社全面協力の下、地球上に住まう全人類を宇宙へと移民させる計画。それは同時に地球再生計画の開始を意味している、でしたよね」

『人の話を聞け! まだこれは、俺とお前と花奈しか知らない計画だろうが! 容易に口に出すな!!』

「あ~あ~、分かりました分かりました。分かりましたから黙って下さい、五月蝿いです」

『それはお前がわる……あ~、もう良い。まぁ、本題は済んだ。後は、世間話といこうじゃないか』

「嫌ですよ面倒臭い。何で貴方と世間話なんて」

『硬い事言うなよ~! 今日、娘が小学校で初めての運動会だったんだよ~! もうめちゃくちゃ可愛くてなんかもう、うわぁ~! ってな感じでな――って、その運動会をお前らの侵略に邪魔されたんだよ、どうしてくれんだ!』

「……父親は娘が生まれると性格が変わるって言いますが、その通りですね。初めて貴方に会ったあの頃の第一印象は、冷静でかっこいい学生さんだったというのに」

『そうだったのか? まぁ、お前は初め、俺に敵意剥き出しだったからな。まさか、そんなお前とこうして普通に電話してるなんてな』

「花奈を救ってくれた恩人ですからね。その感謝の意を持って、貴方の計画に手を貸しているようなものですから」

『嬉しい事言ってくれるねぇ。まぁ、確かに――おっと、来客だ。それじゃ、これからも色々とよろしくな』

「はい、もちろんです」






 通話が切れた。

 故に今、耳に聞こえるのは、ツーツーという音だけだ。

 ……胸が、まだ軋む。

 話の最中に、神無月翁の死という言葉が出て来た辺りから、胸が軋み始めていた。

 携帯を持っていない右手で、胸に指を立てて必死に堪えていたが、耐え切れない。

 ……僕は、死神だ。

 少年兵として訓練を受けていた頃、子供達が死ぬのはしょっちゅうだった。

 だから、与えられた名前はアルファベット一文字を頭に置いた五桁の数字。

 けれどもそんな中で、僕に近付いて来る者は、本名を教えてくる。

 初めは嬉しかった。

 知人なんて、一人も居ない状況で友達が出来たのだから当然だ。

 名前は……少年A?

 でも、少年Aは目の前で死んだ。悲しかった。

 次は……少女Aだった。

 でも死んだ。

 どんどん、名前を知って親しくなった者は死んでいった。

 もちろん、疑問だった。

 けれど、名乗らなかった少年……あ、もうアルファベットは良いや。

 とりあえず、その少年は死ななかった。

 その時、確信した。

 僕が名前を知った者は、死ぬんだと。

 思い込みかもしれないけど。

 それでも、怖かった。

 死のクリスマスの時も、そうだった。

 僕は神無月翁に保護された。

 案内された輸送ヘリには、既に保護されていた少年兵達がいて、ここに居る者以外全滅したと言われ、僕らを乗せたヘリは飛び立った。

 神無月翁は優しかった。

 僕の恩人でもあり、僕に〝鏡華〟という名前を与えてくれた名付け人でもあった。

 神無月翁は面白い人だった。

 嬉しそうに、孫の面白い話を聞かせてくれたり、笑い話をしてくれたり。

 けれど、名乗った。名乗ってしまった。

 それから少し経ち、ヘリは墜落した。

 落ちた。堕ちた。墜ちた。

 あぁ、軋みが強くなる。

 身体が前のめりになる。

 痛いイタイ居たい遺体いたい異体itai……。

 脳裏に浮かぶ、息が絶え絶えな神無月翁。

 僕のせいなのに、僕のせいなのに。

 あの人は、笑っていた。

 大丈夫だ、と。

 唯一、生きていた僕に、死にそうな神無月翁は言葉を放つ。

 僕のせいなのに、僕のせいなのに。

 頼みがある、と。私の代わりに孫の傍に居てやってくれ、と。

 死神の僕に頼んだ。

 僕の、せいなのに……。

 軋む。

 吐き気がする。

 胃液が、込み上がる準備を始めた感じがした。

 頭痛頭痛頭痛。

 名前なんて知りたくなかった。

 名前なんて……。

 人の名前を覚えられないのはそのせい。

 一日経つと、忘れてしまう。

 花奈の名前でさえも、最近になってやっと少しずつ定着してきたけども、完璧じゃない。

 だから彼女は、毎朝自分の名を名乗る。

 僕に自分が誰なのかを教える為に。

 彼女は優しいから。

 けれども他の人の名前は上手く定着しない。

 まるで呪い。

 死者は僕を恨んで、怨んでいるんだ。

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 死ななくて、死ねなくてごめんなさい……。

 刹那、室内にガチャリという、入口の開く音が響いた。

 この部屋に僕以外で入って来るのは、たった一人。

 ……うん、そうだよね。

 僕には花奈が居る。

 初めて、僕に名乗って死ななかった愛おしい人。

 僕は、立ち上がる。


「……あれ? きょーか~?」


 あの人が、傍に居てやって欲しいと頼んで、僕がそれを引き受けた子で。


「きょ~かぁ~! おっかしいなぁ、先に戻った筈なのに」


 でも、一番の理由は好きだから傍に居る。


「きょーかきょーかきょーかきょーかー!!」

「ここに居るよ。ごめんね、ちょっとかくれんぼしてた」


 罪滅ぼしとも言える好意を、いつまでも君に。

 世界を統べようとしている魔王の隣で、死神として。


「かくれんぼ? ……あ、だったら駄目じゃん、自分から出て来ちゃ! めっ!」

「ごめんごめん。僕を呼んでいたから、隠れ続けられなかったんだよ」

「きゃー! さっすがはきょ~か~、まるで王子様~!」

「だったら、花奈はお姫様だ~!」


 魔王と死神の恋は、実るのかな。

 もしそうなったら、ダンテ(神曲の方)もびっくりだ。

 そんな、素敵な恋にな~れっ。

 なんて夢見たいな事を思う僕の心は、いつの間にか軋むのを止めていた。

 花奈に会えたからかな。

 だったら良いなっ。


「きょ~か~、会議ばっかりで疲れた~!」

「それじゃあ、もう寝よっか。明日も早いからね~」

「うん! 寝る寝る~」


 言いながら、花奈は僕に抱きついて来た。

 仕方の無いお姫様だ。

 思いながら僕は、身体の力を抜ききった花奈をお姫様抱っこに持ち替えて、ベッドへと向かう。

 そして、僕らは眠りにつく。

 また明日、多くの罪を犯す為に。

 だから、まだ死ねないよ。

 僕のせいで死んで行った人達に直接謝りに行くのは、まだ先になりそうだ。

 だから僕は、内心で呟く。

 ごめんなさい、と。

 次いで、最後は花奈に告げる。

 お休み、と。

えと、どもーIzumoです。

初めてお目に掛かる方は、初めまして。

知っている方は、お久しぶりです。


久しぶりの新作です、はい。

さて、前書きにありましたリハビリの意味ですが、

作者の報告にあった、原稿消滅事件以来、全く書く気が起きず、

数ヶ月経ってやっと書き始める事が出来、しかしながら文章力が多少低下を感じ取ったので、

新作を書く事によって感覚を取り戻そうと思ったからです。


結果は……見ての通りです。

途中途中に、うろ覚えの知識(DNAの容量や量子論など)や近未来的な世界事情を詰め込みつつ、

お得意の変人主人公の一人称視点という形を使用し、なんとか完結しました。

でもまぁ、おかげで少しは感覚は取り戻せた気がしますので、

後日より、フラグメントの連載を再開したいと思います。


ともあれ、本作品をご覧になった皆様に、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


それでは、また他作品でお会いしましょう。

では、また~

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