2-19
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嬉しいです! 再評価して頂けるよう工夫します!
そして遅刻してすみません。
実はノリノリで書いてたら3割くらい「今じゃない!」って内容になってたので、その部分削って本来の予定に戻してってやってたら、遅刻になりました。
ノリで書くのいくない(戒め)
ダンスの授業を終えた学生は、それぞれ側仕えと一緒に制服へ着替えに戻る。着替える為の更衣室として、小部屋がいくつも並んでいる一角があり、そこが一杯になると家格順で着替えをする。
ただし順番を待つというのは貴族的によろしくないそうで、上位家格のご令嬢はお喋りもせずに着替えに向かうし、下位家格のご令嬢は「今は順番待ちをしているんじゃなくてお友達とお喋りしてるだけなの」という雰囲気で、あれこれと情報交換をする。
先にダンスホールを出た上位家格のご令嬢には、後で誰が何を言っていたという話が複数のご令嬢から伝わるので、話を持ち込んだご令嬢の情報収集能力や内容の信ぴょう性から、誰が信用できるかといった生臭くも必須のスキルを磨いていく。
もっともアリシアは、そういう情報網が今すぐ必要なほど家格は高くない家の娘であり、俺も誰かの取り巻きになるほど焦っていないから、リリエンヌに手伝って貰って呑気に着替えを済ませてから”火の棟”を後にする。
周りに他の学生がいない事が確認出来てから、リリエンヌが俺にだけ聞こえる声量で話し出した。
「タランス教授のお誘いですが、今夜のお夕食をご一緒する事で調整致しました。ですが、お夕食は研究棟にある教授の私室となりました。寮に一旦お戻り頂ける時間がございませんので、このまま研究棟へ向かう予定になっております。また、今回のお誘いについてイルマ様から奥様に仔細を報告致しまして、後日リジューのお家より厳重に抗議すると伺っております」
ですよね。
今回のコレ、イルマがキレるだろう事は火を見るよりも明らかだ。ぶっちゃけ、こうなるなってわかっていたから、何も言わずに頷いて、リリエンヌの先導に続いて研究棟に向かう。
馬車に乗って……。
前々から思っていたんだけど、学院は無駄に広い。大講堂を中心とした六つの学生棟や教授陣の私室が入っている研究棟に図書館と言った施設は北側に集まっているとは言え、いちいち馬車移動とかマジでだるい。馬車を引く馬のカポカポと響く蹄鉄の音を聞いていると、鞭入れると早くなるんでしょ?と言いたくなる。言わないけどね。叱られるから……。
この調子だから、エリア違いの東西にある学生寮はもちろん、反対の南側にある森や植物園ですら遠く感じる。広すぎるんだよ、学院。
王都を見て回りたいなんて欲求が叶えられる日は、本当に来るんだろうか……。
馬車の窓からはしたなくも頭だけ乗り出して見た研究棟は、なんていうか石造りのアパートメントといった風情だった。俺がその呼び名から勝手に研究所とか関連施設とか、そういう鉄筋コンクリートの建物をイメージしていたのが悪いんだけど、ヨーロッパで戦火を免れた田舎町の、昔ながらの白い石造りの古い建物が建ち並んでいた。屋根は明るい赤茶色のフランス瓦で、久しぶりに頭がくらっとした。
この瓦のスタイル、たしか結構新しい様式なんだよな……。
研究棟は一棟に数人程度の割り当てらしく、タランスの私室がある研究棟は遠目にも全ての部屋に明かりが灯っているように見えた。
御者が玄関に馬車を横付けしてドアを開くと、そこには前回の昼食の時にもいた老齢の執事が頭を垂れて待っていた。
「お待ち申し上げておりました。リジュー子爵令嬢。本日は我が主の無理な願いをお聞き入れくださいまして、心より感謝申し上げます」
先に降りたリリエンヌの介添えを受けて馬車から降りた俺は、にこりと微笑みながら顔を上げた執事に返礼を伝えた。
「こちらこそ、ご高名なタランス教授から、こんなに早く二度目のお誘い頂けるなんて、大変光栄にぞんじます。心から感謝申し上げます」
ぐっと息を呑んだ執事は真っすぐ俺の目を見ると、改めて頭を下げた。それを見ていたリリエンヌは、悪戯をした子供を叱るような目つきを送ってきた。いやでも、これくらいは許されると思うんだよ。
執事の案内に続いて研究棟に入ると、驚くほど人の気配が無い。掃除は行き届いているから不快感は無いが、同時に人の気配が無さ過ぎて怖くなる。
「この研究棟は、オーギュスト坊ちゃまの専用棟となっております。少々寂しくはございますが、雑音が無いという一点において、ご安心頂けるかとぞんじます」
俺の印象を読み取った老執事が、結構ぶっちゃけながら教えてくれた。ぶっちゃけ部分は詫びなのかなと思いながら反すうする。
そうか、爺やだったのか。魔法バカクソ野郎の爺やとか、完全に罰ゲームだろう……。お疲れ様すぎるよ、爺や。
老執事の案内を受けて広い一室に通された。
既にタランスはホストの椅子に座っていて、改めて立ち上がると歓迎の挨拶をする。その取って付けた事を隠さない仕草に、微妙に神経を逆撫でされながら、決して笑みは崩さずに招待のお礼を言う。もちろんこっちも、出来る限りの抵抗というか文句を色々含めて言った。
「アリシア嬢? いつまで続けようか?」
しかし暗めのイイ笑顔でタランスがそう言うから、ふっと肩の力抜いて降参した。ただでさえ、こいつに付き合った後のダンスの授業で疲れているんだから、これ以上疲れる必要は無い。
思い切り息を吐き出した俺を見て、タランスはククッと笑うと椅子を引いて招き入れた。
毒喰らわば皿までって、慣用句だと思っていたんだけど、リアルな毒を意識したのはこれが本当の始めてだ。
食事前にタランスが、重要な話は食後にしようと断ってきた。俺もそれには全面的に賛成だったので、リジューにいた頃の話をしたり、タランスの出身地のお祭りの話を聞いたりしながら夕食を食べた。
夕食は美味しかった。前菜もスープもいいお味で、メインの一皿目にダァンデの香草焼きが出てきた時は、ちゃんと調べてあるってメッセージが伝わって来た。二皿目は魚料理で、これは自分が好きなものって意味かな。
食事中くらい、言われた通り頭空っぽにして料理を美味しく頂きたかったが、ついつい色々考えてしまうのが辛い。ゲーム世界に慣れてきたんだと喜ぶべきなのか、まるで取引先とのランチミーティングや夕食会のようだと悲しむべきか悩ましい。
食後のデザートとお茶を頂いたら、続き扉のある書斎に案内された。扉の先は一番よく使っている研究室だそうだ。なるほど、書斎ってよりここは資料室か。
ゆったりとした革張りのソファを勧められて腰を下ろすと、リリエンヌは音も立てずに俺の後に立った。老執事がお茶を淹れてから、一礼して資料室から出て行くと、タランスは何冊かの分厚い本を持ったまま、テーブルを挟んだ反対側に座って話し始めた。
「まず初めに、アリシア嬢は今後どうなさりたいのかな?」
こういう漠然とした質問は困る。ただ、昨日王都別邸でギヨームにも聞かれたから、こちらの希望を知りたいってところだろう。
「できれば六つの属性魔法を習得してみたいと思っていますわ。可能な限り、目立たずに……」
魔法バカクソ野郎に他の教科の話をしても意味が無いし、それ以前に魔法に関係ない話は、言語として認識してくれるかさえ怪しいと思っている。
「ふふっ、それはなかなかの難題ですな」
タランスは吹きだして笑いながらそう言うと、手元の本を開いて俺達の方に向けた。そこには今も両肩に乗っている短冊形の肩章で煌めいている属性図が載っていた。
何を説明したいのか意図が分からず、タランスの顔を見て頭を傾げると、また笑いながら言った。
「呪文を使って魔法を発動させた時、貴方の魔力操作の効率や魔力の使用量はいかがでした?」
言われてみれば、呪文を使うと魔力操作を意識しなくてもするっと出て行った。そのせいか魔力の使用量も、イメージよりもドバッと使っていたように思う。
それを貴族の言い回しで丁寧に答えると、タランスは満足そうな顔をして何度か頷いて、説明してくれた。
普通の人は体内で魔力操作は出来ても、魔力を外に出して顕現させるには呪文が必須だそうだ。タランスが言うには、呪文は魔力を効率的に扱う鍵だと考えている。例えるなら、小麦粉をそのままいくら混ぜていても、パン生地にはならない。パン生地にするには水や塩、イースト菌といったその他の材料が必要になる。
つまり呪文は、魔力という小麦粉を魔法というパン生地にするための、その他の材料全部だという事になる。
それなのに俺の場合はどういう理屈か分からないが、大量の小麦粉を混ぜているうちにパン生地にしちゃったという、あり得ない状況なのだそうだ。
うん。それはあり得ないわ。タランスの説明なのに分かりやすくてびっくりだ。
そしてタランスが今日の俺の魔法を見た所感として言うには、本来の呪文とは、魔力を魔法として使う為に極めて高効率に扱う為のものだった可能性が高いらしい。
また分かりにくい話になったので眉を寄せていたら、笑うのを止めたタランスが酷く真剣な顔をして言った。
「今日、貴方が発動させた身体強化の魔法ですが、おそらくこの世の誰にも、貴方の身体強化の魔法を超える事は出来ないでしょう。光の属性を持つ貴方の魔力という不明確な要素もありますが、あのように発光するなど、私はもちろんこれまでの記録を読み漁っても見つけられませんでした」
俺の身体強化の魔法の発動は、タランスのそれを軽く超えた超人的な力を発揮出来るほどのものだったらしい。今更ながら冷や汗が出てくるのを感じる。
そう言ったタランスは別の本のページを捲って何かを探すと、目当てのものを見つけて俺に向けて見せた。そこには、ウィトルウィウス的人体図に似たスケッチに古い言葉で大量の書き込みがされていた。読めた範囲だけ解読すると「素晴らしい才能に拠る身体強化の魔法は、その術者の体表面をリュショルの光の如くほのかに光らせる」と書いてあった。
リュショルが何かは分からないけど、凄い人が使ってもほのかに光るだけなのか……。
ふんにゃらパレード並みに発光していた俺、どうやらかなりのやらかしをしていたようだ。あまりのやらかしに冷や汗が背筋を滑り落ちるのを感じた。
俺の表情を観察していたタランスは、初めに開いて見せた属性図を指差しながら、意地の悪い顔をして言った。
「さてアリシア嬢? もしも貴方が火と水と氷の属性魔法を使う所を、貴方のご家族や信頼できる家人、そして私以外が見たらどうなると思いますか?」
それは、大変にマズいです。
俺の表情を見ていたタランスが満足そうに頷いて、説明を始めた。
まず、俺の魔力量は無尽蔵と言っても過言ではないレベルらしい。相変わらず分らないんだけど、タランスの魔道具を設計していないのに虹色に光らせたり、想定の三倍の耐久力を持たせていたのを軽くぶっ壊したりしている以上、何も反論できない。タランスは半ば怒りながら、今日の魔力使用量を推測すると、とうに意識を失っていてもおかしくないそうだ。
それなのにピンピンしてて夕飯も平らげて、なんかすいません。
俺の思考を読み取ったのか、タランスは大きく溜息を吐くと、その顔に一層深刻な色を浮かべて言った。
「アリシア嬢? 無尽蔵の魔力を持ち、すでに三つの属性魔法を使っていて、さらに”光の魔法適正”持ちの人物がいると分かったら、王宮や上位貴族は何を考えると思いますか?」
思わずむむっと考え込む。
何パターンも頭に浮かぶが、絞り込んでいくと二つだけ残った。
一つは王家なり王族、あるいは上位貴族が取り込みを計るパターンだ。溢れ出す才能を持つ貴族令嬢なら家ごと、あるいは本人だけでも自家の息子と縁組させるか、それが出来なければ養子縁組で取り込もうとするかな。可能であればそれが最善だ。”光の魔法適正”持ちを嫁なり娘に迎え入れるだけでもかなりの効果がある上に、すでに三つの属性魔法を使いその魔力も無尽蔵とくれば、これはもう取り込んだ家の勝ちは決まったも同然だ。
もう一つは正反対。なんであれ、取り込めないのなら才能溢れる人間なんて邪魔でしかない。相手が王家や王族ならまだしも、ライバル貴族に取り込まれるくらいなら、この世から消えて貰う方がいい。消えてくれれば、少なくともどこも得をしないから現状維持になる。
ああ、ものすごく残念で嫌な二つだ。でもどっちかなんだろうな。それ以外の選択肢無いだろうかといくら考えても、今は思いつかなかった。
前者ならジョルジュ・ロベール王太子殿下かシャルル・アンリ殿下、あるいは彼らの”ご学友”の”婚約者候補”になるのが最善か。後者は……いや選べないでしょ? 死んだら元の世界にも帰られないじゃん。
でもなぁ、マリー・シャルロットもウジェニー・フィリスも、他の”婚約者候補”のご令嬢達も、それぞれ癖が強いけど、本当にいい子なんだよ。それに、それぞれの”婚約者候補”同士が仲良くしているのを見ると、本当に心がほんわかして嬉しいんだよ。
とても略奪とか考えられない。
だって何よりも、俺、男だし……。
どんどん思考がネガティブになっていくのに合わせて血の気が下がっていくのを感じていたら、ふわりと両肩に手が置かれたのを感じた。
驚いて見返すと、リリエンヌが温かな目をして俺を見ていた。その目は絶対に大丈夫だと言っているようで、根拠も示さずに鳥頭はまったくもう、と思っていたら涙が溢れ出していた。
「よろしい。出来るだけアリシア嬢のご希望に沿う為に、私がこれから言う事は肝に銘じてくださいますよう」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながらタランスを見たら呆れ顔をしていたが、むしろ降参したという雰囲気で晴れ晴れとしているように見えた。
タランスはまず、来月に迫っている狩猟大会向けの魔法の授業では、身体強化の魔法を練習台に適切な魔力量で呪文を使う魔力操作を複合した練習に専念するように言った。属性魔法の、初級攻撃魔法については週末に時間を確保して、そこで集中的に練習する事にして、可能な限り情報の保全に注意する事を求めてきた。
しゃくり上げながら頷いていると、ある事に気付いた。
途中からタランスは、俺じゃなくてリリエンヌに話していた。
それに気付いて驚いた俺が振り返ると、リリエンヌは真剣な顔つきでタランスの話を聞いて、うんうんと頷いていた。
あれ? リリエンヌの立ち位置ってそこだったっけ?
そう思ったら不思議な事に、涙がピタリと止まっていた。
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