70 丞の休日 ショッピング変
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いつも読んで下さる皆様もありがとうございます。
皆様がトラブルの無い毎日をすごせるように祈ります。
では70話目、楽しんで頂けたら幸いです。
「いやっほぅですわ!」
姫様が御機嫌な声で叫んだ。
底に厚目にタオルを敷いた自転車の前籠の中で立ち上がり、縁に両手を乗せて顔を籠の外に出している。
「姫様、あまりはしゃいではいけません。地球人に正体がバレます!」
姫様の隣で全く同じポーズをしているミッケニが叫ぶ。
いや、君の声も大きいと丞は自転車のペダルを漕ぎながら、心の中でミッケニに突っ込む。
姫様が何かに興味を持つたびに丞は自転車をとめて説明をする。
さらに姫様を持って籠に乗せるのもダメとミッケニが言ってくる。
姫様が籠に乗り降りするたび丞は人間梯子をやっていた。
丞のお気に入りの服がどんどんほつれていく。
幸運な事に今のところ、人とすれ違わない。
この二人、見つかったら腹話術って言い訳でごまかせるかな。
猫に服ってだけでイタイ人よばわりされそうだけど。
丞の心配事が増えていく。
早く倉居家に行きたいが、自転車の前籠に蓋をするのを嫌がられた為、あまりスピードが出せない。
ゆっくり丞は昨日歩いた道を自転車で移動する。
馴染みの犬が吠えてくる。
あ、しまった。道変えれば良かったと丞は考えたが後の祭りだ。
「キャーッ!なんですの?なんですの?」
姫様が籠の中の犬から一番離れた場所でごめん寝ポーズで叫ぶ。
服から出ている長いしっぽがぶわっと膨らんでいる。
「おのれ狼藉もの!」
ミッケニが今にも自転車の籠から飛び出しそうなセリフを言って、丞の方をチラッと見る。
姫様が見てないので丞になんとかさせたいようだ。
丞は気づかないふりをして馴染みの犬の横を通りすぎた。
「姫様、もう安心です」
ミッケニが姫様に優しく声をかける。
「ミッケニ・・・」
姫様とミッケニが見つめあう。
お前ら人の自転車の籠で何をしているのか。
そしてミッケニ。君、何もしてないよね?
突っ込んだら馬に蹴られるのかなと、丞は籠の中の二人を生暖かく見守った。
ピンポーン。ピポピポピンポーン。
何回目かのチャイムが虚しく留守の倉居家に響くのを、丞はインターホンのボタンを押しながら聞いていた。
留守か。この二人が関係してるTKGの活動に行ってそうだなと、自転車の前籠に慣れてくつろぐ子猫達を見る。
「早く動かしなさい!」
丞が自転車に近づいてきたのを見た姫様が、籠の縁から身を乗り出して言ってくる。
「ハイハイ。どこか行きたいところはあるんですか?」
モッルランドとか言われても困るけど。
丞はあんまり姫様の期待に沿えないだろうと考えながら一応希望を聞いてみる。
「ショッピングに行きたいですわ!」
姫様が叫ぶ。お忍びに興奮しているのか一々声が大きい。
「姫様、シー。お声を小さく。ここら辺では姫様達用の物は売ってませんよ?」
丞は自分も小声にして姫様に答える。
「わかってますわ。売り物が並んでいるのを見たいのです」
姫様も小声で話す。
「我が星では買い物という習慣がないので充分珍しいのだ」
ミッケニも小声で丞に説明する。
「でも、そのままではお店に入れませんよ?私が持った鞄に隠れてもらいますがいいですか?」
丁度昼過ぎだ。寮で昼食を食べると社員さんに会ってしまう。
お弁当でも買って帰って、寮で全に連絡を取ろうと考えながら丞は返事した。
「お忍びっぽくていいですわ!」
姫様が胸の前で手を合わせてうっとりしている。
「ひ、姫様と狭い場所で二人きり」
ミッケニもなんか言ってうっとりしている。
できるだけ大きな鞄にしようと馴染みの犬がいる道を避けて丞は社宅に戻った。
「あれはなんですの?」
丞が肩からかけた鞄から小声で姫様の声がする。
丞が社宅を探すと細かいメッシュ素材の鞄が二つ見つかった。
鞄の中から明るい外は見えるが、外から暗い鞄の中は見えない。
今回の目的にピッタリだ。なぜかミッケニが、がっかりしていたが。
「野菜ですよ。食べますか?」
丞はミニトマトの小分けパックを手に取る。
ミッケニからあとでフぃみョンのポイントで払うからと立て替えを依頼された丞は、一万ポイントを白犬カードにチャージしている。
高級品を買わない限り足りなくなる事は無いはずだ。
「ここはなぜか寒気がする」
姫様と反対の鞄からミッケニの声がする。
ミッケニの視線の先にはキュウリ。
猫型宇宙人も苦手なのか。
丞は猫が後ろに置かれたキュウリに驚いて飛び上がる動画を思い出した。
「あれはなんですの?」
姫様が魚売り場の鮪の頭を見ながら丞に聞いてくる。
「鮪っていう魚です」
買いますかとは聞かない。さすがに丞は兜焼きは作れない。
「あれだ。あれを買おう」
ミッケニの視線の先には大トロの柵があった。¥2500。
「こっちでお願いします」
丞は大トロが二切れ入った鮪の刺身セットを買い物籠に入れた。
「お肉ですわ!」
姫様がお肉コーナーで叫んだ。
家族連れ、老人、子供、試食のおばちゃんの視線が丞に突き刺さる。
「美味しそうですわ、オホホホホ」
心の中で泣きながら丞は、おねえ言葉を使ってごまかす。
しばらくこのスーパーにはこれない。
社員寮から遠くてまだよかったと、丞は不幸中の幸いを噛み締める。
その後も色々なトラブルを起こしながら、丞と子猫達のショッピングは続いた。




