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1.岩梨の姫君

平安です。歴史人物が出ますが、史実をアレンジしてます。(よくわからないので)あと、護衛対象のお姫様は超架空です。あったかい目で見てください。

楽しんでいただけたら幸いです!

 時は妖が蔓延る平安。そこで名高い陰陽師・安倍晴明(あべのせいめい)に一つの依頼が舞い込んできたのは、(うぐいす)が鳴き、春陽が差し込むある日のことだった―



 「え、姫君の護衛ですか」

 「ああ。都にほど近い西の方に土着する、岩梨家の姫様の体調が芳しくないらしい。それ故治療と護衛を頼みたいと」


 晴明の前に美しい佇まいで語りかけるのは、高名な陰陽師・賀茂忠行(かものただゆき)である。天文・暦・陰陽道全てを取得した達人で、晴明が敬愛する師匠だ。

 それ故に晴明は託された内容に違和感がある。


 「失礼ですが師匠のほうが適任なのではないでしょうか。もしくはご子息である保憲(やすなり)様のほうがよろしいかと。僕はお二人に比べ陰陽術を使いこなせるわけでもないですし」

 「はは、冗談が上手いな晴明。だが私も保憲も忙しいのだ。何より岩梨のご当主がご指名している」

 「・・・・・・」

 「それだけ実力を見込まれているということだ、喜ばしいではないか」 


 忠行は快活に笑うが、晴明は淡い笑みを浮かべるしかできない。


 (めんどくさいなぁ)


 何より目的が見えない。治療をしたら護衛は必要ないはずだ。妖に襲われるとしても、大抵の名家は結

界を張ったりすることで防いでいるはず。


 (何か、姫君自体が持つ妖特有の魅力が?)


 逡巡(しゅんじゅん)しても分かるまい、晴明は気持ちを切り替える。


 「ともかく岩梨の姫君の症状の診断と治療を行えばよいのですね?」

 「それと護衛だな。言っておくが先方がわざわざ【”陰陽師”の護衛】と指名された」

 「・・・・・・なぜかお聞きしても?」

 「それは姫様が・・・・・・ああ、まあ行けば分かる。補足だが他にも協力者がいるぞ。

 出発は三日後だ、失礼のないようにしろ」


 どうにも齟齬が生じている。護衛と体調になんの因果があるのだろうか。

 腑に落ちないものの、師匠の顔を汚すことはできまい、晴明は了承するしかなかった。



 岩梨家。西に住まう一族で、当主は祭祀や全国の官社の監督を行う神祇官(じんぎかん)の長官【神祇伯(じんぎはく)】である。その権力は昇殿できる、つまり帝に謁見できるほどだ。


 そこの姫君の護衛を行うのが、十三参りを一昨年行ったばかりの齢十五の安倍晴明である。


 「うーん、どう考えても家柄と僕の格が釣り合ってないよね」


 豪邸の岩梨家の門前で晴明は一人ごちる。腰ほどまである黒髪をいじりながら戸を叩いた。

 すぐに使用人が対応し姫君の部屋まで連れていく。中庭にある桜が美しく咲いており、屋敷は手入れが行き届いていた。

 廊下では他の使用人が挨拶をしながらも、陰陽師として若輩の晴明を、やたらと値踏みするように見てくる。予想していたので動じないが。


 (まあ、当然か。何かあったら式神に任せよう)


 それでも駄目だったら・・・・・・などと物騒なことを考えているうちに、あっと言う間に姫君のご尊顔を拝見だ。

 部屋には姫の父親―すなわち当主がいた。四十路ほどの帝に使える当主の顔には、疲労と焦りが滲み出ている。濡葉色の仕立ての良い着物に新橋色の羽織を纏い、(とこ)で苦し気に呼吸をする姫を見ていた。


 (あれが(くだん)の岩梨家の姫君か)


 美しい黒髪と白魚のような肌はさすがの美貌だが、顔色は青白く魘されているようで汗を流している。

 ただ病魔が襲っているようではなさそうだ。晴明は呪術の類だと一目で見抜いた。


 「安倍晴明殿。(かなで)は、娘はどうなっている?」

 「お初にお目にかかります、岩梨のご当主様。貴殿の姫君には何か呪詛が(かか)っているとお見受けしました。呪禁(じゅごん)による治療を行いますがよろしいでしょうか」

 「頼む」


 晴明は指で印を結ぶと意識を統一させ唱えた。

 「在」

 するとぱあっと光がはじけ、姫の顔色は明らかに良くなった。苦し気な呼吸も陰鬱で淀んだ空気も霧散している。当主は安堵の息を漏らすと晴明に頭を下げた。


 「娘を救ってくださった晴明殿に感謝申し上げます」

 「顔を上げてください。お役に立てて光栄です」

 「いえ。これからの護衛をよろしくお願いいたします」

 「承りました」


 そう晴明が返すと当主はそそくさと退出した。労いの言葉一つかけるだろうと予想していた晴明は、拍子抜けする。

 だが詮索はしない、その可能性は推測していたからだ。

 (魘される娘に対し距離が遠かったからね)

 まるで巻き込まれたくないなどと言うように。


 「あの」

 「ああすみません、挨拶がまだでしたね―」


 晴明は姫君に名乗ろうとして―扉に向かい人型の式神の札を投げた。

 そしてやはりともいうべきか、未然に防がれる。晴明は陰陽師用の笑みを崩し、彼に向かって口の端を挙げた。


 「遅かったじゃないか、道満」

 「久しぶりの対面で最悪な挨拶をありがとう、晴明」


 札を一直線に投げると素早く晴明の隣に並ぶ彼は、蘆屋道満。暗い色合いの狩衣で、晴明とは違い髪は肩から浮くほどの短さ。晴明と同じ陰陽師であり良き好敵手(ライバル)だ。

 道満にとっては屈辱らしいが。だが、礼儀はわきまえているようで姫に対する礼は丁寧だ。


 「遅れて申し訳ありません」

 「いえ・・・・・・」

 「本当だよ道満。何してたのさ」

 「煩わしいな!妖狐に襲われてた奴を助けてたんだよ」


 そういってから道満はしまったと、分かりやすく表情を滲ませた。晴明は笑みを崩さず何も言わない。

 しばらく沈黙が間を包んだが、流石にいたたまれないようで姫が躊躇いがちに声を出す。


 「えっと、既にご存じでしょうが、私は岩梨奏(いわなしかなで)と申します。ご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いいたします」


 流石当主の娘、礼儀作法が晴明や道満とは比べ物にならないほど洗練されていて、板についている。

 だが、寝間着のままの対面で矜持はよろしいのかと一言添えたい。

 この時代女性の寝間着姿は、思いの通じ合っている男性しか見れないという悔しい・・・・・・あ、特殊な特権がある。


 (本人は気にしてないから良いか)


 晴明は気まずさを抱えつつ、ガン見している道満の頭を、力いっぱい(はた)いてやりたい衝動を抑えている。

 それはさておき、晴明は順に自己紹介を行うと、疑問に思っていたこと尋ねた。

 

 「単刀直入に申し上げますが、なぜ護衛が必要なのでしょうか」

 「それは、俺も同感です。神祇官の娘だから霊力が高いとはいえ、護衛が必要なほど引っ切り無しに来る程ではないかと」

 「それは・・・・・・私の持つ力が原因です」


 顔色が再び暗くなる奏。彼女の霊力が不安げに揺らぎ、二人は息を詰める。



 「―私は神通力の一つ、天耳通(てんにつう)を持っているのです」


 道満の顔に驚きが奔る。晴明も予想外の言葉に動揺しつつ、どこかで納得している自分がいた。


 【神通力】。それは人間を超えた超人的能力で、天狗や猫又が持つと言われている。

 全部で七つあり、彼女の持つ天耳通はその一つだ。端的に言えば地獄耳である。


 (父親が素っ気ないのも神通力のせいか)


 娘がそんな能力を持っていたら、怖がるのは当たり前だ。ましてや他の者に知られたら「御巫(みかんなぎ)として是非」と狙われるのは一目瞭然である。

 故に晴明たち陰陽師がこうして出向いたわけだ。


 「これから、どうぞよろしくお願いいたします」


 こうして、姫を護衛する陰陽師の摩訶不思議な物語が幕を開けた。

面白かったらリアクション・ブクマよろしくお願いします。

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