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第38話 サヤとトワ

【何故……】

【こんな、展開は】

【思考の、中に】

【存在、していな……】


 そんな言葉を残して、魔物の肉体は完全に白い光の粒となり、消失した。

 それを見届けたわたしは、ゆっくりと振り返る。



 ――遠川詩が、そこにいた。



 遠川詩はわたしと目が合うと、優しく微笑んだ。


「サヤ……本当に、無事でよかった」


 わたしに抱きつく腕に力を込めながら、遠川詩は告げる。

 ふと、近くに飛んできたダンホを見ると、ものすごい勢いでコメントが更新されていた。


〈本当に無事でよかったあああああ〉

〈それなすぎる〉

〈めちゃめちゃ心臓に悪かった〉

〈サヤさんかっこよかった〉

〈ファンになりました!〉

〈まさかトワさんが助けに来てくれるとは〉

〈サヤトワしか勝たん〉

〈ななこはどこ行ったんだ!?〉

〈確かにw〉

〈というか同接数やばwww〉

〈史上最多ってネットニュースになってる〉

〈すごすぎて草〉

〈トワさん救世主すぎた〉

〈これからはトワ様と呼ばせてください!〉

〈それいいな〉

〈自分もトワ様って呼ぶ!〉

〈トワ様!〉

〈トワ様ー〉

〈トワ様〜〉


 盛り上がるチャット欄に、わたしはふとようやく終わったんだと思う。

 ねえさんが死んでから、わたしの頭の中は復讐のことばかりで。

 ……でもそれも、今日で最後なのかもしれない。


「……というか」


 わたしはジト目で、抱きつくのをやめてわたしの顔を覗き込んでいる遠川詩を見た。


「あんた何でわたしのこと助けに来たんですか?」

「えっ、えええっ!?」

「普通に考えて、危なすぎるでしょう! やめなさいよ! あんたが死んじゃったらどうするんですか! あんたの戦闘力はカスなんだから、もっと弓晴ユミカとかなこねこの二人とか」

「サヤまでボクのことカスって言ってくる! 酷い!」


 ショックを受けている遠川詩に、わたしは思わず笑ってしまう。


〈サヤさんwww〉

〈辛辣で草〉

〈トワさん前にも誰かにカスって言われたのwww〉

〈他の女性の名前出されてておもろい〉

〈まあこれはサヤさんなりの照れ隠しだから……〉


 それからわたしは、ぼそりと口にした。


「…………ありがとうございます」

「え?」

「あんたが来てくれなきゃ、わたし、死んでました。こっちを先に言うべきでしたね……ありがとうございます」


 わたしのお礼に、遠川詩は不思議そうに首を傾げる。


「サヤが、素直だ……もしかして、頭でも打った?」

「感謝くらい素直に受け取りなさいよエロ王子」


 わたしは遠川詩にデコピンする。


「いたぁっ!」


 遠川詩は唇を尖らせながら、額をさする。


〈サヤさんのデコピンが炸裂〉

〈デコピン百合、よい〉

〈デコピン百合という新ジャンル〉

〈デコピン♡ サヤトワカップル♡〉

〈( ´・ω・)⊃(絆創膏の絵文字) スッ〉


 陽気なチャット欄とは裏腹に、わたしは淡く口角を歪めて告げた。


「それと……ごめんなさい」

「え?」

「わたし…………復讐のために、あんたを利用してた」


 自分の声が、随分と弱々しく響いた。


「あんたの恋心を、特性を利用して。わたしは、ねえさんを殺した魔物を探そうとしてたんです。……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」


 頭を下げたわたしに、遠川詩は少しして「……顔を上げて」と言う。


「サヤ。ボクはちょっと怒っている」

「です、よね」

「――何で、ボクに相談してくれなかったの!」


 遠川詩の切れ長の瞳が、わたしを映し出していた。


「相談してくれれば、ボクも一緒に考えることができた。サヤの苦しみを、共に背負えた。そう思わない?」

「……それは、そうかもしれません」

「ね、そうでしょ? だからこれからは、何か大変なことがあったら一人で抱え込まずに、ボクにちゃんと相談してね。約束だよ?」

「……うん」

「わかってくれたなら、それでよし!」


 にこっと笑った遠川詩に、わたしは呆然と目を見張る。


「……それで、いいの?」

「え? うん、いいけれど」

「……わたしのこと、嫌いにならないんですか?」


 震える声で紡がれたわたしの問いに、遠川詩は微笑んだ。


「ならないよ。ボクのサヤへの恋心は、そんな柔いものじゃないから」


 その言葉に、わたしは暫くの間何も言えないでいて。

 返答の代わりに出てきたのは、涙だった。


「うっ、うう……」

「ど、どうかした!? ボク、言葉がきつかったりした!?」

「ちげえよ……」


 見当違いの指摘が可笑しくて、泣きながら笑ってしまった。


「……嬉しかったんです。嬉しくて、泣いてるんです」


 そう伝えると、遠川詩は目を見開いて。

 それから優しく、わたしを抱きしめてくれた。


〈サヤトワてえてえ……〉

〈許し合える関係って理想だよな〉

〈これからもサヤさんとトワ様を推し続けます!〉

〈サヤトワ、永遠に!〉

〈永遠に〜!〉


 背中をさすられていると、安堵からか疲弊からか、段々と意識が霞んでいって。


 わたしはゆっくりと、目を閉じた――

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