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人類誕生時代に来たので、人類の支配者になる  作者: 浅霧 瀬智
第三章

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81.ロフィの目的

―― 地上 本部教会 ――



~ ロフィ視点 ~



「転生者であるあなたが優秀なのは必然かもしれません。」


 


呼吸が止まった。心臓が一拍、遅れる。音が消える。いや、もともとこの部屋は防音結界の中だ。外界の音は遮断されている。だが今、俺の内側の音すら遠のいた。




「……何を、仰っているのですか」




自分でも驚くほどに声は平静だっだが指先は冷たい。天使様は俺を真っ直ぐに見つめている。逃げ場のない視線。




「この世界の者ではない魂。異なる理を知る思考様式。あなたは一度、死んでいる」


 


脳裏に、前世の断片がよぎる。近代的な都市の景色。鉄と魔術が存在しないの世界。そして、終わり。俺は誰にも言っていない。言えるはずがない。転生の記憶は、俺の最深部に封じ込めてきた。家族にも教会の誰にも、リーナにも、ドルトにも言っていない秘密。




「……なぜ、それを‥‥なぜご存じなのですか」

「神の御力です」

「……」

「神は、すべてをご存じです」


 

血が逆流するような感覚が全身を走る。



「すべて、ですか」

「ええ。あなたが何を考え、何を隠し、何を望んでいるのかも」


 

俺は立っていられなくなりそうだった。俺のの目的、誰にも語らなかった、人生の核心を知られている。




「……俺の目的も?」

「神にお会いすること。世界の真実を知ること。それがあなたの人生の目的」


 


背筋に冷たい刃が走る。完全に、暴かれている。




「……どうして、神がそれを覗き見るのです」

「覗く、とは?」

「他人の思考や秘密を知ることです」


 

俺は怒りが、胸に燃え上がり一歩、踏み出した。


「それは許されない行為です。たとえ神であろうと。他者の内面は不可侵であるべきだ」


 

俺は法を重んじる。秩序を重んじる。だからこそ理解できない。全能だからといって、何をしてもいいのか?



「神が人間の心を無断で知るなど……それは暴力だ」



相手が天使であっても、引くつもりはない。天使はわずかに目を細める。




「許されないのは、人間同士の話です」

「……何ですって?」

「人間は対等ではない。ゆえに、思考の侵害は罪となる」


 

天使の声は静かだ。



「しかし神は創造主。理そのもの。あなた方の上位存在。神には適用されません」


 

俺は奥歯を噛みしめた。



「理不尽だ」

「そう感じるのは、人間の視点だからです」

「神であろうと、倫理はあるはずだ」

「倫理もまた、神が定めたものです」


 

神は法の外にいるというのか。全ての上位にいるというのか。それでは、誰が神を裁く?誰が神の暴走を止める?俺は生きを整えながら天使に質問する。




「……ではなぜ、今それを私に告げたのです」


 

天使は少しだけ首を傾げる。



「あなたの考えを聞きたくて言ったわけではありません」

「では、何のために」

「神様とお会いするためです」


 


思考が止まった。……今、何と言った?



「神様が、あなたと会いたがっている」


 


脳が理解を拒否する。神が俺に会いたがっている?



「……冗談はやめてください」


 

自分でも驚くほど弱い声だった。



「冗談ではありません」

「あなたの存在は、神にとって興味深い」

「興味……?」

「ええ」



俺は立ち尽くした。あまりにも唐突だ。俺の人生の目的。それが今、向こうから差し出された?努力し、登り、辿り着くはずの場所が今、呼ばれている?



「……なぜ、私なのですか」


 

かろうじて言葉を絞り出す。



「理由を教えてください」


 

天使は静かに首を横に振った。


「それは申し上げられません」

「なぜ」

「神の御意志です」

「私は駒ですか」

「いいえ」

「観察対象ですか」

「いいえ」

「では何です」

「……それも、今は」



俺は神に会うためにここまで来た。教会に入り、地位を上げ、腐敗を正し、力を得た。全ては階段だった。その頂が、突然目の前に現れた。



しかし、理由を教えない?選ばれた理由も。意図も。神の思惑も。




「……理解できません」


 

俺は正直に言った。



「私が望んでいたことです。だが、望んだ形ではない」


 

自力で辿り着きたかった。対等に近づきたかった。覗かれた上で、招かれるなど望んでいない。それでは試験の答案を盗み見られた受験者のようだ。



「あなたは会いますか?」



天使が問う。拒否は可能なのか。



「拒否すれば?」

「それでも、いずれは」


 

逃げ道はないらしい。俺は目を閉じる。鼓動が速い。恐怖か。歓喜か。怒りか。この感情は全部だ、ゆっくりと目を開ける。天使を見据えて意思を強くして言う。



「……会います。ですが、俺は神に問います。」

「構いません」



俺は深く息を吐いた。自分の世界が、動いた。俺の知らない場所で。俺の知らない理由で。だが一つだけ確かなことがある。神は、俺を見ている。そして俺は、神を見に行く。

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