表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類誕生時代に来たので、人類の支配者になる  作者: 浅霧 瀬智
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/84

67.土下座

―― 地上 本部教会 ――


~ ロフィ視点 ~


数日が過ぎた。その「数日」は、俺にとって特別な意味を持つ時間だったわけではない。ただ、因果が熟成するのに必要な最低限の時間だっただけだ。


「ロフィ、リーナ。入れ」


重い扉の向こうで、ガルドの声がした。教会内部でも評判の悪い男。知能が低く、性格が陰険で、倫理性に乏しく、度量が皆無。つまり、典型的な“権力だけを持った無能”だ。


部屋に入ると、ガルドは机に肘をつき、俺を見下ろすように睨んでいた。リーナは俺の横で、明らかに嫌そうな顔をしている。


「まず言っておく。ロフィ、お前は確かに優秀だ。成績は常に上位。仕事も速く、量も正確性も申し分ない」


事実だからこそ、この後に続く言葉が何なのか、容易に予測できた。


「だがな、態度が最悪だ。上司への敬意がない。言葉遣いは丁寧だが、中身がなっていない。反抗的で、生意気で、組織に対する忠誠が感じられん」


能力は認めるが、人格が気に入らない、というやつだ。


「申し訳ありません。具体的に、どの点が業務上問題でしたでしょうか」


ガルドの眉が跳ね上がった。


「その言い方だ!」

「どの言い方でしょうか」

「今だ! 今のそれだ!」


論点が曖昧だ。俺は内心でため息をつく。


「上司に対して、すべてを理屈で返すな。感情を考えろ。空気を読め」

「業務の最適化に感情は不要かと存じます」

「口答えするな!」

「私は口答えではなく、業務改善のための確認を」

「黙れ!」


机が叩かれた。リーナがびくりと跳ねる。


「ちょ、ちょっと待ってください! ロフィは……ロフィは確かに変ですけど!」

「どこが変なんだ!?」

「いや変だからね!? 自覚しようね!?」


リーナは僕の方を見て、大げさに身振り手振りを加える。


「でも仕事はちゃんとしてますし! ちゃんとしすぎて怖いくらいで!」

「怖いとは何だ」

「誉め言葉だから!」


ガルドは額に青筋を浮かべ、こちらを睨みつける。


「ロフィ、お前は自分が優秀だと勘違いしている」

「事実として、成果は出しています」

「だからそれだ!。能力があれば何を言ってもいいと思うな! 教会は組織だ! 上司に逆らう者は不要だ!」


つまり、無能でも上にいれば正しい、という思想だ。


「確認させてください。ガルド様は、成果よりも感情的服従を重視されている、という理解でよろしいでしょうか」

「……貴様ぁぁぁ!!」


完全に火に油だったようだ。ガルドは立ち上がり、机を蹴った。


「リーナ! 見たか! これがこいつの本性だ! 礼儀も忠誠もない!」

「え、えっと……その……ロフィ! 今のはさすがにアウト! 完全にアウトだから! 私でも分かるアウト!」


リーナが大げさに頭を抱える。だが、ガルドはもう止まらない。彼は椅子から立ち上がり、指を突きつけてくる。


「いいだろう!。評価を下げてやる! 最低評価だ! お前はこの教会で一生、底辺の仕事だけをやらせてやる! 奴隷のようにな!」


その言葉を聞いた瞬間、僕の中で何かが静かに確定した。この男は、教会の癌だ。怒りはない。恐怖もない。あるのは、完全な理解だけだ。


「承知いたしました」

「ロフィ!? ちょ、ちょっと!? そこで納得しないでよ!?」


ガルドは満足そうに鼻を鳴らした。


「分かればいい。出ていけ」


俺はそう言われたが、懐から小さな宝珠を取り出した。市場で手に入れた、あの宝珠だ。


「何をしている、さっさと出ていけ」


ガルドの言葉を遮るように、宝珠が淡く光る。マナを流し、起動して記録魔術を再生する。空間に、映像が投影された。


最初に映ったのは、薄暗い部屋である孤児院の一室だった。そこには、泣き叫ぶ子供と、それを殴りつけるガルドの姿。


「言うことを聞け。神のためだ」


次の映像には信仰を理由に金を巻き上げる場面。怯える信者、帳簿に消えるはずの金。さらに、画面が切り替わる。身分の低い女性信者を脅し、拒否を許さない場面。詳細は不要だったが、そこに映る恐怖と絶望が、全てを物語っていた。


「……っ」


ガルドの顔から、血の気が引く。リーナは両手で口を覆い、言葉を失っていた。


「こ、これは……!」

「すべて、日時・場所・対象を記録しています。改竄は不可能です。教会の宝珠と同一原理ですから」


ガルドは後ずさり、椅子にぶつかって崩れ落ちた。

「ち、違う……これは……!……や、やめろ……!」


ガルドの顔色が、みるみるうちに青ざめていく。


「それを……それを消せ……!」


俺は宝珠を止めない。


「教会の教義、第七条、教会の財は神と世界のためにのみ使われ、私利私欲に供することを禁ず”」


映像の中で、金貨に口づけをしてガルドは笑っていた。

 

「第十二条。聖職者は弱者に対し、常に慈悲と保護を示すべし”」


孤児の前で怒鳴り、殴る映像が流れる。


「……や、やめてくれ……!」


ガルドは椅子から転げ落ち、そのまま床に這いつくばった。


「頼む……! 許してくれ……! 何でもする……!」


挿絵(By みてみん)


額を床に擦りつけ、涙と鼻水を垂れ流しながら土下座をして、必死に命乞いをする姿。その様子を見て、俺の心は一切動かなかった。哀れでも、滑稽でもない。ただの結果だ。


「質問します。あなたは、自分が裁かれるべき存在だと理解していますか」

「し、しています! していますとも!」

「ではなぜ、これまで悔い改めなかったのですか」

「それは……その……」

「答えは明白です。罰せられないと思っていたからです」


ガルドは言葉を失い、嗚咽を漏らす。


「ロフィ……頼む……! 評価だ……! お前の評価を、最高にする! それでいいだろう!?」


必死の提案。だが、俺は首を横に振った。


「評価は、あなたの権限の範囲です。価値がありません」

「な……!?」

「金銭も同様です」


ガルドは慌てて自分の机から袋を取り出した。金貨の音が床に響く。


「これもやる! もっとだ! いくらでも――」

「不要です」

「私の要求は一つだけです」

「……な、何だ……?」

「私を、下級聖職者から中級聖職者へ昇格させてください」


ガルドの顔が、完全に凍りついた。


「む、無理だ……!中級への昇格は…どれだけの承認がいると思っている!? 根回し! 書類! 金……! 莫大な金が必要なんだ……!」

「出来ない理由の列挙は不要です。あなたの総資産の九十八%を使えば、可能です」

「な……なぜ……なぜそれを……!?」


ガルドの声が震える。


「二百三十七万金貨相当。隠し口座三つ。土地二つ。宝石類――」

「やめろおおおお!!」


ガルドは泣き叫んだ。


「それを使えば、昇格工作は可能です」

「……だが……だが……!」


俺は宝珠を軽く持ち上げた。


「いやなら、この映像を、ドルト様に提出します。……そうすれば、あなたとあなたの家族は、確実に処刑されます」


次の瞬間、ガルドは完全に崩れ落ちた。床に額を叩きつけながら、泣きながら叫ぶ


「やる……! やります……!だから……家族だけは……!」

「契約成立です。契約を遂行してもらうために契約魔術をします。」


リーナは、数秒俺を見つめ


「……ロフィ」

「なんだ?」

「今の笑顔、完全に悪役だからね!?」

「そうか?」

「そうです!! 自覚して!!」


彼女が頭を抱えるのを見ながら、俺は思った。教会は巨大だが、構造は単純だ。腐った部分から、切り落とせばよい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ