今世の張良
柴田勝家の大敗北の報を聞いた信長は激怒した。
「なんだこの様は!兵力が勝っておいて敵にはほとんど被害を与えてないではないか!こうなれば、わしが直々に出て敵を滅ぼしてくれん!」
顔を赤くして、鬼の形相で怒鳴った。
「お、おい、ひっこんで、、、ボソボソボソ、、、」
「ん?サル、どうかしたか?」
ぼそぼそ声は秀吉であった。信長ににらみつけられた秀吉は顔がこわばった。
「の、信長様、わしの軍師の黒田官兵衛が、、、意見が、、ある、、と、、、、」
なに?わしに何か文句があるとでもいうのか?ん?
信長は刀に手をかけ、緊迫は頂点に達していた。しかし、黒田官兵衛は動揺することなく、淡々と答えた。
「いえ、私が申し上げたいのは、今敵の領地に攻めるのは危ういということです。例え信長様であっても、必ず勝てる戦ではないと存じ上げます。」
これに、信長は怒りをこらえた声で官兵衛に言った。
「わしも武将じゃ。そのまま攻めては勝てぬとはわかっておる。
あそこは、あの富士の山を軽く超えんとする山が連なっておる。それに、相手はあの諸葛亮がいるということもわかっておる。じゃが、荊州にはそんな障壁もあるまい。
長江という要害も存在するらしいが、わが軍には水軍もおる。
それに、荊州の敵は水上戦には弱いと聞く。そうなると、勝てる算段は組めるのじゃ。」
周りの将たちはさすがと言わんばかりの表情であった。が、しかし官兵衛は違った。
「いいえ、それは違います。確かに、荊州の軍は水上戦には弱い。私もそう聞いております。
しかし荊州には漢の都が存在し、もし仮に敵の皇帝が逃亡しても領地は二分され圧倒的劣勢に陥ります。
しかし、水上戦に強い軍を揚州に置き、諸葛亮や関羽のいる軍を益州に配置した。つまり、荊州の軍は、水上戦で敗れたとしても、地上で優位に守ることができるほどの軍がいると予想できます。
残念ながら、わが軍は敵の警備が非常にかたく、敵軍の内情はほとんど掴めていないのが現状です。
となると、わが軍が勝利を収める可能性は高いとは言えません。」
これには信長も納得した様子であった。だが、あることに疑問を持った。
「では、わが軍は攻められ続け、領地を奪われ続けるということか?」
これにも、官兵衛はすぐに答えた。
「そうとも限りません。まず、兵力での優位性があること。もう一つに、今は隠し持っている種子島があること。この二つでも十分な理由になります。」
信長は、完全に納得した様子であった。信長は解散の号令を出し、秀吉に
「サル!その軍師、大切にしておけ。」
そして最後にボソッと
「さすがは今世の張良じゃわい。」
と言い残しその場を去っていった。
一方その頃襄陽では、曹操による軍議が行われていた。
「劉備軍が敵に圧勝したと皆は聞いておるか?」
曹操は目に力が入った顔で言った。
「もちろん、聞いております。」
「それがしもでございます魏王。」
「聞いておりますぞ。」
将たちの声を聞いた曹操は言った。
「わしは、軍備が整い次第敵の宛城に攻め込み、その後許昌を落とす大規模作戦を実行に移すことを決めた!既に帝との話はついておる。わしの軍三十万に、帝の兵六十万のうち二十万を借り、五十万で侵攻をする!よいか!」
「「はっ!!」」
曹操の号令に、将たちは一斉に返した。
「魏王、荊州の守りはどうするので?」
「安心せい、帝の軍がやってくれるとのことじゃ。」
曹操の目には、中華全土がうつっていた。そして、早くも中華全土を巻き込む大戦が始まろうとしていた。




