59 スラム街で襲撃された
俺の言葉には全く反応せず、四人の男達がさらに接近してくる。
皆同じ恰好をしているな。
全員が灰色のフード付きのマントを身に付けている。
もしかしてあれか、盗賊グループの縄張りとか。
それとも狂信者グループとかなのか。
男達は次々に小剣を抜き始める。
「おい、剣を抜くって事の意味は知ってるな」
誰も答えないが、一応警告はした。
四人の男が俺に襲い掛かる。
正面に立つ男が持っていた袋に手を突っ込む。
そして何かを握り締めた手を取り出すと、それを俺の顔面に向けて浴びせようとした。
目潰しか。
だがスピードでは俺が圧倒的に分がある。
人間ごときに後れはとらない。
男が振りかぶる。
俺はそいつの手首を軽く叩いた。
男の顔の前でパッと何かが舞った。
白い粉だ。
「うわあっ」
男は顔面に白い粉を浴びるや、顔を押さえてうずくまる。
これでこいつはしばらく戦闘不能だ。
残りの三人は少し慌てるも、俺に攻撃を仕掛けてくる。
上段、中段、下段としっかり分けて剣を突き入れてきた。
そういえば、ダイを抱えたままだな。
俺は剣を避けながらダイを投げた。
「ワオ~~ンッ!」
ダイが男の顔面に激突。
「ぐわっ」
これでこいつも戦闘不能だな。
残った二人が俺の左右に立つ。
無駄だと分かってはいるが、念のため聞いてみた。
「誰に頼まれた」
何も答えず途端に俺を斬り付けてきた。
ならしょうがない。
そういえば、新調した槍を全然使ってないな。
上半身を反らして右の男の剣を避ける。
左の男がそれに合わせて、俺の下半身へ剣を伸ばす。
俺は槍を手に持ちクルッと一回転させ、下半身に伸びた剣を弾く。
良い槍だ。
重心バランスが特に良い。
これは本格的な実戦データが欲しいな。
「よし、そろそろ本気出してくれ」
俺は真面目に言ったつもりなのだが、どうやら怒らせたらしい。
「ふざけるなっ」と男が言いながら剣を突いてきた。
それに対して「だからそれじゃあ遅くて相手にならないんだよ」と言って、その男の首に槍を突き刺した。
そしてもう一人の男の鳩尾に、槍の石突部分を喰らわせる。
これで四人は戦闘不能。
すると奥に隠れていた五人目の男は、逃走に入る。
逃がすか!
追いかけようとするが、その必要はなかった。
「ぎゃああ!」
逃げた男が悲鳴を上げた。
ラミだ。
ラミが男の首根っこを掴んで持ち上げて、俺に聞いてきた。
「こいつはどうするよ?」
その時、男はジタバタしながら腰の剣を抜き放つ。
「死ね!」
だがラミは慌てずに男の剣を持つ手首をひっ掴むや、何の躊躇もなくブチリと引きちぎった。
「うぎゃああああ!」
男の悲鳴がスラム街の路地に響く。
そこへ上空からハピが舞い降りる。
ハピの足には、俺達を尾けていた男が掴まれている。
だがハピの足は猛禽類の爪を持つ足だ。
その爪がかなり奥深く食い込んでいる。
「ハピ、そいつは駄目だ。もう喋らないよ」
「ええ~、折角捕まえたのにですわ~」
しかしこれだけ騒ぎを起こしても、誰も来ない。
エルドラの街とは大違いだ。
まずは生残りの男達を集める。
手首を千切った男と、顔面に粉を浴びた男だ。
他は既に死んでいるか、虫の息ってやつだ。
まずは手首を千切った男に質問だ。
とても質問に答えられる雰囲気ではないが、治療するつもりもない。
「いいか、良く聞け。このまま放っておくとお前は血が無くなって死ぬ。だが質問に答えれば治療してやる。ここまでは分かるな?」
すると男は苦しそうにしながらも、何とか頭を縦に振る。
「良し、まずは誰に頼まれたか言え」
「俺は結果を報告する役割だ。だから依頼人は知らないんだ、頼む、ポーションをくれ。バッグに入ってるんだ……」
俺は男のバッグからヒールポーションを取り出し、男の目の前にぶら下げた。
「もう一度だけ聞く。誰に頼まれた?」
男は涙や鼻水でグシャグシャな顔で、必死に懇願する。
「本当に知らないんだ、頼む、信じてくれ!」
「なら話題を変えるか。それなら何を知っている?」
「俺は暗殺の成否を伝えるだけなんだ。噴水広場の黒岩に座る人物に伝えるのが役割なんだ」
「そうか、もう一人に聞いて違ったら殺す。あ、それと、もっとしっかり押さえないと、血が全部流れちまうぞ」
「ひぃ~」
今度は顔が粉だらけの男の前に行く。
男は苦しそうに横たわっていた。
近くで見ると顔がだいぶ溶けていた。
ただの粉ではなかったみたいだな。
しかし痛みに堪えていたとは、こいつは普通のチンピラとかではないな。
俺は男の前でしゃがみこむ。
「さて、今度はお前の番――――」
そこまで言いかけた所で、男が「プッ」と何かを口から吹き出した。
俺は反射的に首を傾けた。
顔の横を何かが飛んで行った。
「ほほう、含み針か……」
男の目は溶けて見えてないはず。
俺の声を頼りに攻撃してきたのか。
「ずっと狙ってたな?」
男はただニヤリとした。
「そうか、中々出来るものじゃない。相当な訓練を積んできたんだろうな。人間にしては良くやったと言いたい。俺が人間だったらやられていたかもな」
男が不思議そうな顔をする。
「まあ、何を言ってるか分からないだろう。分かる必要もない。じゃあな」
そこまで言って、俺はそいつの首をへし折った。
俺は再び手首の無い男の所へ行く。
「なんだ、間に合わなかったみたいだな」
男は手首を押さえたまま、血溜まりの中でこと切れていた。
何か持っているかもと全員の懐を調べたが、身バレする様なものは何ひとつ持っていなかった。
仕方なくこの場を去る。
噴水広場の黒岩に座る人物に会いに。
俺達がいなくなると、遠くから見ていた者たちが一斉に群がって、屍体から物を漁っていた。
さすがスラム街だ。
俺達は噴水広場とかいう場所に来た。
言葉の通り、円形状の広場の中央に噴水がある。
子供達が噴水で遊んでいるのだが、ダック族ばかりだ。
そんな中で一人だけ年寄りの爺さんがいた。
そいつが黒岩に座っている。
獣魔が姿を見せると逃げられる。
それで俺はダイだけを連れて犬の散歩の振りをしながら、一人で噴水広場へと近付いて行った。
次の投稿は明日の昼頃の予定です。
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