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冒険者になった魔物達〜気が付いたら魔王軍と呼ばれてた〜  作者: 犬尾剣聖


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60 暴走した








「ウォン、ウォン」


 ダイが妙な演技を始めたな。

 自分は犬だぞ的な行動の演技。

 マーキングとかしてるし……


 黒岩に腰掛ける爺さんは、立てた杖に両手を乗せて目をつぶっている。

 その年寄りの爺さんが、走り出して逃げられるようには思えない。


 捕まえるのは簡単だろう。

 だが人目がある。

 この噴水広場にはダックのガキンチョが何人もいるし、広場の周囲では普通に街の人々が行き交っているしな。


 どうしたものか。


 悩んでいると、街の石塔から鐘の音が聞こえ始めた。

 すると爺さんが急に眼を開き立ち上がった。


 時間切れか。

 この場から立ち去るようだ。


 十分に距離を空けて、追跡はダイに任せる。

 臭い追跡なら子狼のダイでも出来るし、何より距離が開いても追跡出来るのはメリットだ。

 姿をさらさずに済む。


 爺さんはヨボヨボと歩きながら、どこかへ向かって行った。

 

 かなり離れてダイが臭いで追跡。


 しばらくすると路地裏へと入って行く。

 またしてもスラム街だ。


 爺さんスラム街に入るや急に、背筋を伸ばしてスタスタ歩き始めた。


 あの野郎!


 そして遂にアジトらしい場所にたどり着いた。


 入口には悪そうな見張りの男が立っている。

 爺さんはその中に入ったらしい。


 どういう奴らか分からないが、少なくとも真っ当な仕事をする奴らじゃなさそうだ。

 恐らく盗賊団とかだろうな。


 もうすぐ日が沈む。

 よし、暗くなるのを待つか。





 日が沈み、太陽に代わって満月の光が闇夜を照らす。

 なんと清々しい夜か。


 ラミとハピとダイは見えない位置に待機させ、俺は一人その見張りの男に近付いて行く。


 見張りの男が声を掛けてきた。


「ここへ何の用だ?」


「仕事の依頼だ」


 俺はいつでも攻撃出来るように、拳に力を込める。

 すると見張りの男。


「入れ」


 すんなり中へ入れてくれた。

 下へ向かう階段だ。

 地下か。

 一階の建物はダミーのようだ。


 俺が階段を降りようとすると。


「待てっ―――」


 くそ、駄目か!?


「―――その槍は預かる」


「ああ、構わないが傷を付けるなよ」


 脅かしやがって!


 どうせ室内で槍は使い辛いからな。


 階段を降りきった所には再び扉。

 だが金属で補強された頑丈そうな扉だ。


 俺が扉の前に立つと小窓が開き「用件を言え」と男の声がした。


「仕事の依頼だ」


 と言うと。


「標的は?」


 標的だと?

 まさか暗殺屋か?


「ターナー伯爵」


「!」


 俺は素早く小窓に右腕を突込み、中の男の首を掴む。


「グギギギッ」


 男が呻き声を上げた。

 俺は男を引き寄せ小声で言った。


「カギを開けろ、首の骨、折られたくないだろ?」


 声が出せない男は必死に頭を縦に振る。


「なら早く開けろっ」


 男は慌ててかんぬきを外す。


 俺は一気に扉を開ける。


 その時、右手で掴んでいたものが、ゴキリと鈍い音をたてたが気にしない。

 

 中へ入ると小部屋になっていて、さらに奥へ続く通路が見える。

 奥から「どうした?」と声が聞こえた。


 俺は小走りに通路の奥へ向かう。


 扉だ。


 足を変身させる。


 メキメキと筋肉が音をたてる。


 その足でもって扉を蹴破った。


 扉のすぐ内側にいた男が、壊れた扉と一緒に吹っ飛んだ。


 もの凄い騒音がこの地下室内に響く。


 別の若い男が驚いた顔で俺を見る。


 俺が笑いかけると、その男の顔は恐怖の表情に変貌していく。



 高揚感が全身を駆け巡る。





 この感覚、久し振りだ。





 俺はその若い男に右腕を振るう。


 部屋がパッと鮮血に染まった。


 俺は我慢できなくなって声を発した。


「ヴォオオオオッ」


 さらに奥へと走る。


 気が付けば四足に成っている。


 気にしない、些細なことだ。


「ガルルルル!」


 何かを食い千切った。


「うぎゃあっ」


 爪で何かを切り裂いた。


「ぐひゃあっ」


 俺が視線を移すと人が逃げ惑う。


「化け物だああ!」

「た、助けてくれぇ!」

「来るな、来るなぁ!」


 俺が牙を剥き出し噛み付けば、懐かしい生温かい感触が口に広がる。


 爪を振るえば骨を断つ感覚が甦る。


 全てから解放された感覚が全身を包む。


 そうだ、これが俺の本当の姿だった。





 俺はライカンスロープだ!






  





 どれくらい時間が経っただろうか。


 人間の姿に戻っていた。


 ふと我に返る。


 そして周りを見回す。


「ああ、くそ。やっちまった……」


『うわ、これは派手にやったな』


 振り向けばダイが後ろにいた。


 さらに奥からラミとハピが来る。

 あの二人には見せたくないんだが……


「いくら何でも、これはやり過ぎじゃねえか」

「ドン引きですわね」


 俺が牙を剥き出しにすると、ビビって後ずさるラミとハピ。


「少し黙ってろ」


 ポロっと言葉が漏れた。


「わ、分かったよ」

「はい、ですわ……」


 今日のラミとハピは素直だ。


 そういえば爺さんに化けていた男がいない。

 こうなってしまったら、生かしてはおけない。


「爺さんが見当たらない、探せ!」


 俺の言葉に真っ先にラミとハピが動き出す。


『ライ、居たぞ!』


 ダイが見つけたようだ。


 血まみれの屍体の中に埋もれていた。

 重傷で苦しそうだがまだ息はある。

 多分俺がやったんだが記憶にない。


 俺は男の横にしゃがんで声を掛けた。


「俺を殺すように依頼したのは誰だ。言えば楽にしてやる」


「ダナン、ターナーの側近のダナンだ。頼む、殺してくれ……」


 何だ、側近か。

 まあ伯爵本人じゃないが、やっとターナーという名前を聞けたか。


 俺は近くに落ちていたダガーを拾い、止めを刺した。


 探せば何か書類とか出てくるかもしれないが、自分でやっといて何だが、この惨状の中を探すのは気が進まない。

 だが仕方ない。

 全員で手分けして探したが、結局そういったものは何もなかった。

 

 ただ、有用な物は沢山あった。


 ヒールポーションに解毒のポーション、毒のポーションもあったがこれは必要ないか。

 それに銀貨が五十枚ほど。


 収入で考えると、下手な依頼を受けるより儲けが大きいな。


 そんな事を考えていると、ラミとハピの会話が耳に入る。


「なあハピ、これって盗賊とやってる事は一緒なんじゃねえのか」


「確かにそうですわね。ですけど、それが冒険者なんですわ。まあ、この惨状はラミが暴れた時より酷いとは思いますわよ。それも含めて冒険者ですわ」


「ふーん、そんなもんか」


 納得したのかよ!

 二人は勘違いしてるからな。

 冒険者と盗賊は全然違うし、冒険者が殺戮好きみたいな話もやめてくれ。

 確かにちょっとやり過ぎ感はあるがな。

 

 それにな、今回の一番の原因は俺がライカンスロープで、今宵が満月だからだ。







 言わないけど。













次の投稿は明日の昼過ぎの予定です。



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