41 再びダンジョンへ向かった
俺は覚悟を決めて、ここにいる全員を生かして帰さないつもりだった。
しかし、俺は肩すかしをくらう事になる。
隊列を組んだ兵士達は、そのままダンジョンの入り口へと進んで行く。
あれ?
俺達と戦わないのか?
兵士二名と文官を残して、隊列はダンジョンへと入って行った。
それに続いて金等級冒険者達も、颯爽とダンジョンへと入って行く。
どうやら俺の覚悟は不要だったようだ。
イライラが溜まってたから、ちょっと残念な気持ちもある。
ここに残ったのは俺達以外に、文官とギルド員、そして兵士が二人だけだ。
そうか、なら俺達は必要無さそうだ。
「俺達は家で休ませてもらう」
残った者達にそう告げて、勝手に帰宅した。
食事して戦闘訓練なんかして時間を潰していると、兵士の一人が慌てた様子で馬を走らせて来た。
「すまんが手を貸してもらいたいっ」
理由を聞くと、ダンジョンに入った者達が戻って来たらしいが、負傷者が多いらしい。
戻って来たにしてはちょいと早いな。
俺達が行っても大したことは出来ないが、だからといって放っておくことも出来ないか。
「分かった、直ぐ行く」
とりあえず井戸で桶に水汲んで、馬車に積んで行く。
ダンジョン前に到着すると、酷い有り様だった。
まずは兵士の人数がかなり減っている。
ダンジョン内でトラップにやられたか、ダンジョン産の魔物にやられたのだろう。
戻って来た兵士も、ほとんどの者が負傷している。
確か十人の兵士がダンジョンに入っていったはず。
戻って来たのが六人、つまり四人戦死か。
冒険者パーティーの方はさすが金等級といったところか、全員が帰還している。
ただし無傷ではない。
一人が重傷っぽいし。
やはり人間じゃ無理なんだろうな。
魔物と遭遇しても通路が狭いから、どうしても一対一になりやすい。
そうなると個の力量がモノをいう。
俺達は全員が魔物だからその力量は高い。
しかし人間レベルだとベース部分が元から低く、達人と呼ばれる人物でも、俺達からしたらたかが知れてる。
勇者みたいに加護持ちとか、何か特殊能力がないと辛い。
人間の強みは魔法と、複数での連携戦闘だ。
魔法が使えないと、魔物には歯が立たない。
魔法も使えず個人行動するボッチ人間は、単なるザコでしかない。
とにかく今は負傷者を見てあげるか。
といっても俺達に出来るのは、水汲みと負傷者の運搬くらいだが。
負傷兵の話を聞いていると、戦死したのは全て魔物が原因らしい。
ホブゴブリンに一人、熊型の魔物に三人やられたらしい。
熊型の魔物なんかいるのか。
良い情報をありがとう。
ヒールポーションは彼等が持ってきていたので問題ないのだが、金等級の冒険者の重傷にはポーションレベルが足りないらしい。
急いで街の治癒士に診てもらわないと危険だ。
「仕方ない。ハピ、そいつを街の治癒士の所まで運んでやれ」
「気が乗りませんですわね。まあ、今回は特別ですわよ」
ハピは負傷者を両足で鷲掴みにすると、翼を大きく羽ばたかせて、大空へと飛び上がった。
兵士達から「おおっ」と感嘆の声が上がる。
当然の事ながら、ギルド員と冒険者パーティーのメンバーから礼を言われた。
だが金等級ともなると、魔物に助けられる事に抵抗があるようで、ちょっと微妙な表情だったな。
応急手当が終わった辺りで、ダンジョン探索隊の一行は街へ戻ると言う。
早いご帰還でご苦労なこった。
次はもっと準備を整えてから来るとのことだ。
まだ来る気なのかよ。
ならばその隙に俺達が突入するか。
彼等が居なくなったところで、装備を整える。
「ダイ、ラミ、準備は良いか?」
「何時でも良いぞ!」
「アオ~ン!」
そしてハピが戻ったところで、俺達は再びダンジョンへと突入した。
まずは確認の為、この間と同じ道順を進み、バグベアーの出現した部屋へと向かう。
驚いた事に、前に来た時に壊したはずのトラップが、元通りに修復されていた。
また別の場所では、一度作動させたトラップが、リセットされていた。
ということはだ、壁に印を付けておけば次に来た時に直ぐに分かるな。
それよりも地図を作った方が良いかもしれないか。
地図を作ればトラップの場所も分かるし、一石二鳥ってわけだ。
一応ナイフで壁に印も付けておく。
あとはラミが真正面からトラップを受けつつ、次々に突破して行く。
解除したり警戒するより、この方が圧倒的に早い。
といってもラミは盾でほとんど防いでいる。
ラミの人間部分はダメージに弱いらしいが、蛇の部分の鱗は固いんだという。
だから上半身を盾で防げば、大抵は大丈夫とか言っている。
だが炎系トラップは、髪の毛が燃えるから嫌なんだそうだ。
前回よりも早くバグベアーの部屋に到着だ。
ここでも検証が必要だ。
まずは複数人で入れるかの確認をしたい。
前回はラミが一人で足を踏み入れたら扉が閉まったのだから、今回は全員で一斉に部屋に突入してみる。
「行くぞ、せーので行くぞ、ちゃんと俺に合わせろよ」
扉の前で全員で飛び込む構えをとるのだが、ちょっと通路が狭くて心配だ。
最悪は二人か三人でも、複数入れる事が分かれば良い。
「せーの!」
俺達は部屋に向かって疾走した。
直ぐにハピがスッ転んで脱落。
その上を何の躊躇もなく乗り越えて行くラミ。
「ムギュッ――――ふ、踏み潰すなんて酷いですわ!」
転びながら必死に手を伸ばすハピを放置し、俺達三人は一気に扉を走り抜けた。
「やった、通り抜けたぞ!」
そう叫んで振り返ると、扉に挟まった尻尾を必死に抜こうとしているラミが目に映った。
「こいつ、扉のくせに生意気だな!」
そう言った後、気合いの掛声と共に、一気に尻尾を振り解くラミ。
「うりゃああ!」
するとバキバキバキッと、凄まじい音がダンジョンに響き渡った。
扉が粉々に壊れた音だった。
次の投稿は明日の昼頃に投稿の予定です。
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