39 戦利品を拾った
ラミが拾った物を手にして、カンテラの灯りで角度を変えながら見て感心している。
鮮やかに銀色に輝いている。
「これはコップみたいだな。何か手の込んだ模様も描かれてるな。ライ、売ったら金になりそうだぞ」
ダンジョンの魔物が持っていたコップ。
何か微妙な感じだよな。
ちょっと使いたくない気もする。
そこでラミが騒ぎ出した。
『おお、なんだこれ。このコップ、中に水が湧いてきたぞ!』
「見せてみろ」
俺はラミの持つコップを覗き見る。
ゆっくりとだが、コップに透明の液体が満たされていく。
「もしかしてこれ、魔道具じゃないのか」
それを聞いたラミが何の躊躇いもなく、そのコップの液体を飲み干した。
「あ、毒かも……飲み干しやがった。馬鹿か、お前は……」
「何だ、只の水だ。つまらん」
「ちょっと貸してみろ、そのコップ」
俺はコップを受け取り中身を確認していると、空になったはずの水が次第に満たされていく。
「凄いな、無限に水が湧くらしい。これは完全に魔道具だな。良し、取りあえず金にはなる」
部屋の中を探索したが他には何もないようなので、元来た道を戻って行った。
洞穴の中なので、時間の感覚が分からない。
穴に入ったのは昼過ぎだ。
一旦外に戻ることにする。
外に出ると陽が沈みそうな時間だった。
「もうこんな時間なんだな。家に戻って食事にしよう。このコップは明日にでも街へ行って売りさばくか」
こうして本日のダンジョン探索は終了した。
翌日、俺はコップをゲットしたラミを連れて街へと向かった。
ダイとハピはダンジョンの見張りだ。
魔物が外に出て来て、家を荒らされたら堪らないからな。
街へ着くと真直ぐに冒険者ギルドへと向かう。
コップを金に換える為だ。
少し時間をずらして来たから、受付は比較的空いている。
といっても人気の受付嬢だけは冒険者が並んでいる。
今回はラミも連れてギルドのホールへと入って行く。
皆も慣れてきたとはいえ、やはり注目はされるな。
だが以前と違ってラミはブレストアーマーを身に着けているから、男共の好奇な視線はない……はずだ。
俺は空いている受付へと行くと、そこにはいつもなら深夜にいる姉ちゃんがいた。
あの化粧が濃い、獣人のギャル受付嬢だ。
「ちーっす、なんだ、ライじゃん。へ~、銀等級になったんだね~、凄いじゃん。それに昼間も仕事するんだねえ」
いや、お前こそ昼間も働くのかよ。
昼間が似合わない女だな。
「戦利品を売りたい、見てくれるか」
「いいよ~、どれぇ。見せてみ~」
ギャルが手を出す。
相変わらず爪が長いし、変に塗装されている。
「その爪の紋様は魔法陣なのか?」
思わず真面目に聞いてしまったが、大笑いされた。
「受けるんだけど~、何それ~。そんなわけないじゃん」
張り倒したい。
「す、すまん。ああ、それでこれがその品物だ」
俺はカウンターの上に、ゴトリと音を立ててコップを置く。
それに合わせてラミが余計な事を付け加える。
「それは魔道具だぞ、高く買い取れ」
カウンターにコップを置いた途端に、コップの中身が水で満たされていく。
するとギャル受付嬢の表情が変わった。
「ありえないんだけど~、水が湧き出てるじゃん!」
ラミが自慢げに告げる。
「ふん、だから言ってるだろ。魔道具だってな」
ギャル受付が今までになく真剣な表情だ。
「ガチで魔道具なんだ。ちょっと待ってて、鑑定してもらって来るわ」
そう言ってコップを持って奥へと行くギャル受付嬢。
しばらくすると、ギャル受付と男性ギルド員が出て来た。
「こっち、このライが持って来たんだよ」
そう言って俺を指差すギャル受付。
ギルド員の男はそれを受けて真直ぐ俺の所へ来ると、手に持ったコップを前に差し出し言った。
「この魔道具だが、どこで手に入れたか教えて貰えないだろうか」
この流れは嫌な予感しかしない。
ここは拾った事にして誤魔化すか。
「あ、ああ。それは拾っ―――」
「ダンジョンの中で拾ったんだよ。ドロップ・アイテムっていうのか。魔物が落としたんだと思うけどな……って、どうしたライ?」
俺は今、コメカミがヒクヒクしているはずだ。
ラミめ、余計な事を言いやがって!
そっとギルド員の表情を見ると、口をポカンと開けて固まっている。
さらにギルドのホール内がシーンと静まり返っている。
少しの間を置いて、周囲の冒険者が口々に「ダンジョン」という言葉を発し始めた。
俺は苦し紛れに言葉が口から出た。
「そう、そう、俺とこのラミアの男女二人で拾ったんだよ、はははは……はは」
するとギャル受付。
「ウケる~、ダンジョンを男女って誤魔化す~。でも嘘は駄目だよね?」
ギャル受付の目が笑ってない。
改めてギルド員が提案してきた。
「ここじゃ色々まずい、別室へ行こう」
仕方ないな。
俺は案内されるがまま、別室へと向かう。
案内された部屋の前に立つと、そこは前にも入った事のある部屋、ギルド長の部屋の前だ。
サムソンとかいう名前だったか。
以前と違うのは、今回はラミがいる。
イザとなっても負けはしないだろう。
ラミには絶対しゃべるなと言い聞かせる。
先にギルド員が部屋に入り、事情を説明しているらしい。
この待つ間がドキドキする。
そしてお呼びがかかり、室内へと入る。
ギルド員の男は直ぐに立ち去る。
以前と同じようにギルド長は腰の後ろに手を組んで、窓から外を見ている。
よっぽど暇なんだろうか。
仕事しろよって言いたい。
そして前と同じように腰が痛そうにして椅子に座り、一息ついたところで口を開く。
「さてと、ダンジョンで魔物を倒して魔道具を手に入れたそうじゃな。それは本当か?」
俺は少し考えてから答えた。
「その答えは言わなきゃダメなのか」
すると僅かに笑みを浮かべるも、直ぐに表情を正して言葉を続ける。
「確かに言わなくても良いな。だがのう、ギルド長としてはダンジョン発見のような重要情報はのお、さすがに領主様の耳には入れないといけないのじゃよ。隠しててもいずれバレるとは思うぞ。それだったらバレる前に教えておいた方がのお、色々と良いとは思わないか」
それも一理ある。
それに領主のノエル・レンドン子爵なら悪い様にしないとは思う。
なんせ俺はオークとの唯一の交渉相手で客人だからな。
だけど家の敷地内へダンジョンが出来たなんて言ったらどうなるんだろうか。
まさか家ごと没収とかはないよな。
う~ん、最悪戦闘にはなりそうだな。
そしたらオーク領にでも逃げ込むか。
腹積もりしたところで俺は口を開く。
次々投稿は明日の夕方の予定です。
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