25 オークの街でお泊り会をした
負傷したオーク二人は、マーカスが持って来たヒールポーションで傷を癒した。
潰れた顔面もこれで何とか治ると思う。
とは言っても、初めからオークの顔は潰れているのだが。
それから話を聞くと、どうもオーク達の文化はより強い者が尊敬される文化らしく、こいつらの指揮官を軽くあしらった俺は、オーク達から一目置かれる様になった。
オーク達は俺から距離をとったり、道を開けるのだ。
それもメンバーの中で俺だけだ。
それって、俺が恐れられているだけの様な気もするのだがな。
まあ、それでも良いんだが。
移動時は獣魔用の荷車にオーク達が乗り込んだのだが、指揮官のオーク一人だけが俺達の馬車の御者席に、道案内役として座った。
武器は取り上げたのだが、指揮官だけはそのままにした。
これは指揮官に対する敬意だ。
オンドラに猛反対されたが、ラミのドスの利いた「黙ってろ」の一言で終わった。
道案内のオークの言う通りに進むと、道らしき場所に出た。
馬車か何かの車輪の跡が沢山ある。
オーク曰く、これが街道らしい。
人間の目から見ると、車輪の跡が付いただけの場所となる。
俺の目から見ても、道とは程遠い感じに見える。
しばらく進むと、馬車ではなく獣車とすれ違う。
巨大な猪の魔物が二頭で牽く荷車だった。
それが一般的なオークの乗り物らしい。
人間が馬に乗る様に、オークは猪に乗るのだそうだ。
非常に荒れた“街道”を進むと、集落が見えてきた。
この辺りからは徐々に草木が多くなる。
そしてオークが“街”と呼ぶ、寂れた村の様な所で止まった。
建物は全て石を積んだだけのもの、屋根だけが植物の茎を束ねて作られている。
人間の街の建物比べると、何とも貧弱に思える。
街中を行くと、やはり馬は珍しいのか、視線が集まる。
だが人間や魔物は珍しく無いのか、全く違和感なく通って行ける。
不思議に思っていると、その理由が直ぐに判明した。
街中を人間やゴブリンが歩いているのを見かけたからだ。
ただし、縄で縛られたり、首輪を付けられていた。
つまり人間やゴブリンは奴隷ということだ。
話を聞くとオーク社会では、奴隷は日常的な事らしい。
オーク社会における奴隷は、日常の基盤を支える程に重要な存在なんだそうだ。
それでオーク社会では、他種族を見かけることは特に珍しく無いらしい。
奴隷狩りも禁止されていないから、人間だけでいる時は注意が必要らしい。
しばらく行くと、ある建物の前で停車した。
この街の宿だという。
どうやらここで一泊するらしい。
案内されるがままに宿に着いてみて、皆が顔をしかめた。
臭い、汚い、気味が悪いと、三拍子揃っていた。
そんな中でも、俺達の宿泊代はオーク兵持ちだったので無料、それがせめてもの救いだった。
その最悪な宿泊部屋なのだが、ベッドというものがないようだ。
四人部屋とか二人部屋はあるのだが、どの部屋にもベッドがない。
床に布を敷いただけだ。
まあ、俺達魔物はそういうところでも我慢出来るが、我慢出来ない奴が貴族のオンドラだ。
俺に文句を言ってきやがる。
「貴族の俺がこんなところで眠れるはずがないだろっ」
さすがの俺もカッとなって右手の鋭い爪を伸ばしそうになるが、そこでダイが俺の爪をペロリと舐めてきて、俺はハッと我に返る。
『お楽しみは最後に取って置くんだよな?』
そうだ、俺が注意する側にいるはずだった。
しかし危ないところだった、もう少しで八つ裂きにするところだったな。
「それならばオンドレ騎士爵は馬車の中で寝たらどうだ。ここよりもましだろう」
怒りを抑え込むために拳を握りしめての返答だ。
そして小さな声で「ダイ、すまないな」と礼を言う。
すると可愛らしく舌をペロリとするダイ。
ふふふ、面白い奴だな。
こうしてオンドレと従者のマーカスは馬車で寝ることになり、俺達は四人部屋で泊まることになった。
そう、そうなのだ。
このオークの街では魔物でも区別なく、部屋に宿泊できるのだ。
ハピがベッド代わりの布の上に寝転びながらつぶやく。
「四人でこんな風に眠るの初めてですわね」
するとラミ。
「そういえばそうだよな。今日は夜番もないしな。そんじゃよ、ここは猥談しちゃうか、猥談!」
「おいラミ、なんでそうなる。だいたい俺とダイは男だぞ。男のいる前で猥談する馬鹿がどこにいるよ」
「ええ、そう言われてもよお。そもそもだよ。ライは私の人間の部分見て興奮するのかよ?」
ラミがそう言って仁王立ちし、両手を腰に当てて胸を張る。
そう言われてみればなあ……
俺はラミの顔をまじまじと見つつ、視線をその形の良い胸へと移す。
別に興奮しないんだよなあ。
う~ん、確かにデカいとは思うがなあ。
しかし見られているラミの様子が変だな。
「ライ、ちょっと待て。なんか私が興奮してきちまったぜ……」
すると横からハピが出て来てラミの胸をパチーンと引っ叩く。
「ラミが興奮してどうするですわよっ!」
「あああ、ぺちゃパイに叩かれた!」
「おいおい、二人ともやめろって」
「この、この、この」
「そ、そこはダメ、ですわ……よ。あんっですわ」
「ここをどこだと思ってんだよ、二人ともいい加減に―――」
三人でああだこうだやっていると突然。
「ウオオオ~~~~ン」
悲しそうな狼の遠吠えだ。
一瞬で三人が固まる。
忘れていた、ダイの事。
ダイから直ぐに念話が送られてきた。
『いいな、俺も話に加わってキャッキャ、ウハウハしたいな』
念話は俺にしか伝わらないから、当然ダイは会話に加われない。
ダイが伏せの状態でアゴまで床に付けて、上目遣いに俺達を見ている。
寂しそうじゃねえか!
「えっと、そうだな、もう寝ようか……」
俺の提案にラミとハピは黙って頷き、自分の寝床へと入っていった。
二人の獣魔は空気を読めるのだ。
こうしてオークの街での寂しい夜が更けていった。
次回の投稿は明日の昼頃の予定です。
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