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直違の紋に誓って  作者: 篠川翠
第三章 若木萌ゆ
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抜刀隊 (2)

 翌日、剛介達は高瀬の先にある木葉(このは)まで潜行させられた。木葉は田原坂に一番近い集落である。吉次峠に潜んでいた薩摩兵は二手に分かれ、間道を進んできて白木村近くに潜んでいるらしい。

 その情報が斥候からもたらされると、第二旅団の兵が先回りして、白木村を確保した。

 それとは別に原倉村も官軍側が掌中にし、官軍側に利があるかのように、剛介は感じた。

 だが、戦の行方はそう簡単にはいかない。

 十四日早朝。

 先に、側面を受け持つ隈元警部補が率いる一〇名が、まだ夜が開けきらないうちから、谷間の森林を通って薩摩塁の脇に出た。そうしている内に、空が白白とあけて、歩哨の姿も鮮明に見えるようになってくる。

 隈元警部補が、サーベルを掲げた。

「進め」

 抜刀隊の切り込みは、側面部隊から攻撃が開始された。あっという間に、七、八人の薩摩兵が銃を手にする暇もなく、斬り殺された。

 それをちらりと見ていた背後担当の川畑が、指揮杖を振り下ろす。

 剛介は、大きく息を吸った。

「行け」  

 川畑の合図で剛介も刀を抜き、敵塁に向かって突撃した。

 ずるずると滑る赤土に足を取られながらも、斬り込んでいく。頭上から相手が大段に振りかざす刃を避けて、すっと相手の胴を横に払って斬った。

 相手の体から吹き出た生温かい血飛沫が顔に掛かるのを感じたが、拭っている暇はない。

 脇からまた一人、薩摩兵が斬り込んできた。これも、素早く足を払って相手が斃れたところに、心臓の辺りを目掛けて刃を突き刺す。その手応えから、確実に相手に止めを刺したのを感じた。

 そこへ、大岩の影から銃弾が飛んで来た。薩摩の砲兵は、官軍からは死角に当たる坂道の凹んだところや、電柱の影に潜んであちこちから発砲していた。

 剛介は銃弾を避けようと、慌てて眼の前に作られた塹壕に身を躍らせた。だが、その塹壕の中には、錐のように鋭い木材を組んで作られた柵が並べて立てられている。

 剛介の脇で、悲鳴が上がった。見ると、一人が逆木に腹から突き刺さっており、逆木の刺さったところから血を流している。酷い姿に、思わず目を背けた。


 一方、それとは別に本道でも動きを見せていた。午前六時。三発の号砲が響いた。

 まず、先鋒隊が田原坂に向かって二つの中隊が進行した。一方は薩摩軍の左塁を、もう一中隊は、右塁を攻撃している。

 勇猛を誇る薩摩兵だが、この不意打ちには慌てふためいていたのか、一目散に、逃げようとしている。

「銃撃止め」

 その号令を合図に、政府軍は本格的に銃撃から白兵戦に切り替えた。正面を受け持つ上田・園田隊の抜刀隊の前を進む兵らも、銃先に着剣して突っ込んでいく。 

 続けて、側面・背後隊の喚声が聞こえてきたのを合図に、正面隊四〇名も、斬込み、営内に飛び込んで縦横無尽に刃を振るった。小笠原警部以下、数名が戦死したが、その屍を越えて他の抜刀隊は進み続け、第二線の薩摩兵と衝突した。


 その頃剛介は、銃撃を避けた塹壕の中で、「戊辰の仇、戊辰の仇!」という大声を聞いた。言葉の抑揚から判断すると、あれは、遊軍の会津人だろうか。日頃、聞き慣れている言葉だった。

(やはり、戊辰の仇討ちに来たか)

 ちらりとそんな事を思う。その思いに共感せずにはいられない。

 剛介も、いつまでも銃撃を避けてはいられない。再び塹壕から飛び出し、姿勢を低くして突撃すると、また一人を斃した。剛介と同じように、数人が塹壕から飛び出し、再び刃を交えようとしている。

 思い切って顔を上げると、電信柱の下に、薩摩軍が伏せているのが見える。薩摩の抜刀兵だ。その兵らと視線が合った途端、向こうも飛び出してきて、薩摩の抜刀兵が白刃を翻して殺到した。既に、戦闘が始まってから二時間は経っている。あちこちで白刃がきらめき、乱戦となっていた。

 薩摩の抜刀兵の勢いに押され、剛介達は再び塹壕に押し戻されそうになった。そこへ、薩摩兵の背後から一斉に銃声が響いた。援護に回った第二連隊の鎮台兵の砲声である。

「攻撃、止め。退却!」

 川畑の声とともに、退却の合図の喇叭が響いた。左右両翼の中隊も、どうやら退却するらしい。政府軍は遂に塁を奪い返すことが出来ず、この日は退却となった。この日の戦闘終了は、午前八時。官軍側は、士官以下一八三名の死者が出た。


 正午頃、剛介は木葉の自陣に戻った。相当の死傷者が出たのは間違いないが、まずは命を持ち帰ることができて、ほっとした。自陣に辿り着いてわかったが、白兵戦ということもあり、多くの者が薩軍の白刃の下に斃れた。

 本日は、今まで一番の激戦だったと、第一連隊の者が言っていた。だが、今までと異なるのはその勇猛さである。平民出身者らで構成される鎮台兵と、士族の多い抜刀隊では、戦闘経験の差が如実に出た。そのため、明日の攻撃ではまた抜刀隊が選抜されるという。

「ご苦労だった。一旦後方に下がって休むが良い」

 川畑は、生き残った者を丁寧に労ってくれた。

 木葉の自陣には、予備兵として関や菅原も到着していた。

「大丈夫か」

 菅原の呼びかけに、剛介は無言で頷いた。激しい戦闘をくぐり抜けて、返事をするのすら億劫なのである。

「少し眠ります。何かあったら、起こして下さい」

 陣営の片隅に設えられた休息所で体を横にすると、剛介はたちまち眠りに落ちた。

 



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