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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
21/30

21 白翁さん(4)


 パン、と倉吉が拍手し、「そろそろ市役所に向かうかーーー」と歩き出す。

 見れば床の石は元のグレーに戻っていた。

 日常に戻れた感にホッとするーーーやはり緊張していたのだろう。

 その時、ピピビ・・・と着信音が鳴り、スマホを出して確認した倉吉が「はい、倉吉です。お疲れ様ですーーー」と速足でサッシの扉から出て行った。

 やはり忙しいお人だーーー。



 話の邪魔をしないよう続けて出て行かず、もう一度ぐるりとお社内を見回した。

 前に吊り下げられた千羽鶴はよく見れば形も歪で不揃いでーーー地元の幼稚園と組の名前が記してある。

 子供が大好きな神さまなら、何よりの御供えだなー、とか考えながら『翁』の面を見た。



 能面は角度によって違う表情になると聞いた事がある。

 能楽師はその顔の傾け方で、一つの面で喜怒哀楽全てを表現するのだとか。

 確かにーーー『翁』の笑っている口も、少し方向を変えて見れば泣いているようにも見え、笑い細めた目は怒っているようにも見える。

 それに、正面から見れば・・・・今は何だか、物言いたげなーーーー。



「よせっ、見るなーーーー!」



 いきなり目元を覆われ、後ろからドンっとぶつかられたと思ったら、身体を反転させられてギュッと抱き込まれる。

 倉吉が祠に背を向けて、私を庇うように背中から羽交い締めにしていた。

 あまりにも一瞬のことでーーー何が起こったのか訳が分からない。

 目を塞がれていて何も見えないし、背後の倉吉はぐっと息を殺していた。

 ただ、私が全く身動きが出来ない程の強い力で抱き込まれているのと、私の目を覆う倉吉の大きな掌がブルブルと震えていることは感じられた。

 何かよくないことが起こっていたーーー。



 じっと耳を澄ますしか、他に何も出来なかった。

 どっ、どっ、と、私と倉吉の心臓の音が重なる。

 その脈動を幾つ数えただろう・・・。

 じんわりと汗が滲んできた。

 すーっと足元を風が通る。


 ーーーかさっ



 千羽鶴が、揺れたーーー。



「っ、」



 更にギュッと倉吉の腕に力が込められてーーーー。



 ーーーー。



 ふっ、と急に拘束が解かれた。


「はあーーーー・・・・」



 倉吉は大きく息を吐き、脱力してしゃがみ込む。

 肩で荒い息をしながら、「行ってくれたーーーー」良かったー、と震える声で零した。



 何が、何処にーーーとても口には出せなかったけど、伝わったのだろう、



「『白翁さん』ーーーーつえぇー。背筋凍った。さすがご長寿」


「?」



 ゆっくりと立ち上がった倉吉はポケットからスマホを取り出して、「やっぱりだ。すげー。命拾いしたよ、萩野さん」と画面を示して見せる。

 何のアプリか分からないが、画面には謎のレーダー画像とチャートが表示されている。

 さっぱり意味がわからない。



「つまりーーーー危うく【冷界】に入ってしまうギリギリだったというわけーーーーっと、出よう」



 話を切り上げた倉吉は、私の背中を押すようにして急いでサッシ扉を出た。

 外には倉吉のバッグが投げ出してあった。

 


『よせっ、見るなーーーー』



 きっとセンサーで危険を察知して、咄嗟に飛び込んで来てくれたんだろう。

 先に手を伸ばしてバッグを持ち上げる。

 裏の土埃を払って両手で差し出した。



「助けて下さったんですね・・・・ありがとうございました」


「ーーーーいや、俺が・・・・」



 倉吉は一瞬驚いた後、戸惑い、やがて悔しげに顔を歪めた。



「俺が、迂闊だった。結界を解いた後に萩野さん一人を残すなんて・・・・済まなかった」



 バッグを受け取りながら前髪をくしゃっとかき混ぜ、「また無能呼ばわりされる・・・」とぶつぶつ言っている。


 何だか倉吉の口調が変化していたーーーさっきの騒動の後から。

 それまでのどこか近寄り難い、塩対応で笑わない倉吉でも、お店で見せた営業用でも無い。

 これが素の倉吉なんだろうか。

 それだけさっきの衝撃が大きかったのかもしれないけど、こちらの倉吉になら何となく声も掛け易そうだった。



 駅へと歩きながら、どうしても気になったので、「それで、さっきのーーー」と一応辺りを確認しつつ小声で話し掛けた。

 倉吉もさっと辺りを伺い、念の為かスマホのレーダー画像を確認してから、「名前は出すなよ」と前置きして質問させてくれるようだった。



「あれは・・・何がどうなっていたんでしょうか?」


「法務の吉岡さんの電話を終えた途端、いきなりアラームが鳴ったーーー通常は近付いて来るにつれて音量も上がるのに、いきなり、ドンッて。方角は社の中からだったから、生きた心地がしなかった」



 社に飛び込んだら、私がじっと『白翁さん』を見入っていて、アラームが聞いたこともない音を発していたという。

 私がそんな音聞いた覚えは無い、と言うと、「耳は普通なんだな」と言われた。

 特殊な訓練を受けた倉吉にだけ聞こえる音なのだそう。



 しかしそこで疑問が・・・・。



「私、えーと、白いお爺さん? なんて見てませんけど」


「そんな筈は無いだろう。明らかに目の前に来てたぞ」


「だって、私が見ていたのは能面でーーーー」



 そうだ、柱に掛かっていたのをしげしげと見ていただけだ。

 下から見るとこんな表情で、正面からだとまた違うとーーーー。

 ーーーん?

 あの能面、確か梁の所に掛かっていたよねーーー倉吉が近付いて下から見上げていた。

 あれーーー? 

 なんで、私、正面の表情なんて見れたんだろう・・・・。

 ・・・・。

 ・・・・。



「下がってた! 能面が、私の背丈くらいまでーーーー!!」


「・・・・」

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