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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
17/30

17 初めての出張


 朝から新幹線と在来線で移動する事二時間、地方の中核都市に隣接するS市の駅に降り立った私は、スマホの地図を睨みながら目的地目指して歩き回った。

 数日前、倉吉にメールで今回の出張での訪問予定リストを送った所、彼の方も予定があるらしく、それぞれ動いた後、正午に駅で落ち合う事になっていた。

 初めての出張、初めての調査訪問を一人でこなさなければならず、アポの依頼の段階から手汗モノの緊張しまくりだったけど、そこは松澤さんの有難いアドバイスやらサポートのお陰でみるみる予定も組み立てられ、実際に現場を訪れてみれば自ずとやるべき事をやるだけでーーーあっという間にお昼前の時間になっていた。



 商店街の中を急ぎ足で駅方面に向かう。

 最近のよくある光景で、ここでもかつての賑わいを感じさせる華やかなアーケードの下は、シャッターの閉じられた店舗が目立っていた。

 少子化、後継者不足、郊外の大規模店舗へ向く人の流れーーーよく聞くワードが先程訪問した店主達からも聞かれたが、商売人ゆえか終始明るく笑い飛ばしていたのが印象的だった。

 その自虐的な言葉の合間に悔しさと諦念が垣間見えていたのは、やはり慣れ親しんだ地域の小学校が廃校に追いやられてしまった事実のせいだろうか。

 その話に及ぶと、どの人も残念で仕方がない様子だった。

 その一方で、その跡地を含む再開発事業については大いに期待していると話していた。

 地域の活性化や新たな人を呼び込む開発を切望していた。



 商店街を抜けて開けた通りに出ると左方向に駅があり、半円形のロータリーの屋根が続いている。

 平日の昼間というのもあってか、バス停のある駅前ロータリーは閑散としていて、通りを走る車もまばら、待機している一台のタクシーも、運転手が暇そうに窓から出した腕をブラブラさせている。

 そんなだから、遠目にも直ぐに倉吉を見つけられた。

 バスを待つ数人の高齢婦人からもチラ見されているように、その長身で姿勢の良い立ち姿は無駄に目立っていた。



♫貴方と私のアミューズメント・ワールド、『キス♡パラダイス』へ行こう! ♪♪♪〜、♪♪♪〜、さあ、『キス♡パラ』でワクワクが始まるよ〜♫



 ロータリーの正面に見えているテナントビルの屋上にLEDビジョンが掲げられていて、短いニュースや天気予報、市の広報などの映像の合間にCMが流れていた。



 朝、この駅に降り立った時も見たパチンコ屋のCMを横目に駅へ向かう。



♫顔を上げて、前を向いて歩いていく貴女を応援します! 予約優先、土曜も夜まで診療、アキツ美容クリニークへ、是非ご相談下さい!♫


♫丁寧な指導に定評あり! 安全・正確をモットーに、貴方のこれからの自動車ライフを支える、『S中央自動車学校』、入学随時受付、詳しくはホームページをご覧下さい!♫



 倉吉がこちらに気付いた。

 ご婦人方に今度は私がチラ見されている・・・・。

 例の凄い美人とかいう女性なら眼福だったでしょうが。

 ・・・・ご期待に添えず申し訳ありません。



「? 何だ?」


「! いえーーー何でもありません、お疲れ様です。お待たせしてすみません」



♫『平安セレモニー』、大切な方とのお別れを、ご家族のお気持ちに寄り添いながら、心を込めてお手伝い、家族葬のことなら、『平安セレモニー』♫



「いや、時間通りだーーーー予定していた訪問は?」


「はい、一通り済ませました」



 そうか、と頷くと、「昼食べながら擦り合わせしよう」と倉吉は直ぐに歩き出した。

 少しの時間も無駄にしたくないのだろう。

 え、もしかして今からこの人と二人でお昼食べるの?

 何だか心臓に良くない気がする。

 オギノが聞いたら目をキラキラさせて質問責めされそうだけど。

 避けてーーー通れないよね。

 ・・・せめて美味しい物、食べたいな。



 一通りCMが一巡した後、LEDビジョンでは近隣の名勝地の映像が流れていた。

 今が盛りの青々とした紫陽花がお寺の庭に咲き溢れていたーーー。

 


 S市の西部に位置するこの駅は最近建て替えられたらしく、まだ新しい駅ビルの1階には店舗が数軒並んでいた。

 ファストフード店をやり過ごして見えてきたのはシックな外観のカフェだった。

 ガス燈を模したランプに照らされた入口には、黒板に『本日のランチ』が表示されていて、Aランチにオムライスの写真が貼ってある。

 とろりとしたデミソースのかかった濃い卵色のオムライスにサラダとスープ付きで六百五十円、て安っ!

 ほぼロックオンしている私には気も止めず、足も止めず、倉吉はただその前を通り過ぎて行く。



(えーーー?)



 端から目的地が決まっているような揺るぎない足取りで前を行く倉吉は、駅ビルの端まで行くと、道を渡ってタクシー乗り場の脇に佇む、古びた中華料理屋の扉を開けて入って行ったのだった。



 「いらっしゃーい」と元気な店員の声に迎えられると、倉吉は二人、と手で示し、案内されるまま店の奥のテーブル席に進んでバッグを下ろした。



(何食べようか? とか一言も無いんだ・・・・)



 何、この塩対応。

 別に倉吉とのランチに期待していた訳じゃ無い。

 そもそも出張が初めての私は、その際同僚とどんな風に昼食を摂るのが普通なのかも知らないのだ。

 ただ、誰かと共に食事するなら、何にする? とか、やっぱり相手の意向を問う一言があって然るべきなんじゃ無いだろうか。

 それともよほど此処の何かを食べたくて朝から狙っていたとか?



 よくある町中の中華屋さんといった風情の店内は、ラーメンスープの良い香りが漂っていた。

 テーブル席にはタクシーの運転手さんらしき男の人が一人、食事しながら新聞を読んでいた。

 カウンター席の地元の常連さんぽい作業服の男性は、カウンターの中に向かってひっきりなしに話し込んでいる。

 店の壁にはズラリと手書きのお品書きが並び、その日焼けの色の濃淡で新旧メニューが判別出来るほどだった。

 一見、特に名物料理があるような、人気店には見えなかった。



 私が倉吉の向かいに腰を下ろすと、店員さんがお水とメニューを持ってきた。

 倉吉は脱いだジャケットを隣りの椅子に掛けながら、私に目線で先にどうぞと促すので、私はそれを見ずに「天津飯で」と即答した。

 そう、私は店内に入った瞬間にそれと決めていた。

 中華風オムライスだ。



ーーーーフッ。



(ーーーーえ?)

 


 今、倉吉が笑った?

 ほんの一瞬。

 直ぐに真顔になってて、「同じく天津飯で」と店員さんに伝えるや、バッグからパッドを取り出してしかめ面で操作を始めたが。

 何だろう、信じられない。

 私には赤い花レベルに希少なものだった。

 いや、見間違いかも?

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