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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
13/30

13 私の立ち位置(4)


 山岸さんと西さんが声を揃えて固まっている。

 そんなに驚かすような質問だったかしら?



「え、えーと・・・」


「知らない・・・?」


「はい」


「『鬼の室長』を?」



 何だ、その新撰組の誰かみたいな名前は。

 室長ーーーーって?



「企画部の前身の、開発部が企画室と技術室に分かれていた時代の企画室長が松澤さんで、部下に小野寺さんとか玉井さんが居た時に、『サン・ポレット』とか『花の街』とか立ち上げて。ここもそうよ、『ミツワ・エアタワーズ』」



 驚愕なんてものじゃ無かった。

 小野寺さんとは今の専務だし、玉井さんはウチの部長だ。

 松澤さん ーーーー凄い。

 今でも部長は勿論、社長や専務も頼りにしているという。

 あの勤務中の謎の電話の相手はもしかして・・・?。



 でもーーーー、なら今の松澤さんはどうして専務でも部長でも無いんだろう?

  定時ギリギリに出退社して、悪天候の日は必ず年休で、飲み会や社内行事は一切参加せず、仕事もいつも一人で黙々とこなしてて・・・。

 まるで一切の人との関わりを拒絶するように。



「一課ではもはや伝説化していて、きっかけさえあれば近付いて話したいって人多かったんだよ。でも、松澤さんガードが固くてーーー」



 それなのに、何故ーーーー。



「だから、皆ハギノちゃんが羨ましいんだよ。十何年振りからしいよ? 松澤さんが誰かと組んで仕事するのって」


「そんな、私はーーーー」



 私は何かに秀でていた訳では無い、松澤さんの目に留まるような才能も成果も何も無い、ただ言われたことをこなすのが精一杯の平凡な社員に過ぎなかった筈だ。

 だから、最初松澤さんに話しかけられた時、そんな、『鬼の室長』とか知らないし、むしろ不審人物だと避けていたから、困惑と恐怖しか無かった。

 ところが話してみて、一緒に仕事をするようになって、印象が変わったのだけど、それでもやっぱり違和感が拭えない。

 『オマケ』も嫌だけど、『鬼の室長に認められた』も、実際とは乖離していて私は喜べなかった。



『萩野さんは今後困った立場になるかもしれませんねぇ・・・・』



 ふと松澤さんが呟いていた言葉が蘇る。

 あれは、私のこういう状況のことを指して言っていたのだろうか。

 それなら、何でーーーー。



 その時、扉が開いて倉吉が戻って来た。

 「待たせてすまない」と早足で座席に向かう。

 彼が私の横を通り過ぎた時、ふわっと冷えた風が過った。

 空調のそれとは違う、覚えのある冷たい空気に私は震えた。

 これは、もしや、あれでは・・・。

 恐ろしくて、席に着いた倉吉の顔を見る事が出来ない。

 が、ノートパソコンに伸ばす彼の袖口が何気に目に入って、そこに白いモノが付着しているのに気付いた。

 ほんの少し、白い粉雪みたいなモノーーーーって思ったら、その手が一瞬ブレて、白いモノは姿を消していた。



「自己紹介は済んだ?」


 倉吉の平静な声に、西さんが「彼らは同期だし、私は新研の指導員だったんだよ?」と同期の倉吉に対して呆れたように気安く答えている。



「ーーーーだから、自己紹介が必要なのは倉吉君だけだよ」


「・・・・」



 以前、倉吉の手がブレた時は花が現れた。

 あれは彼が私の目の力を試すためにワザと出した、普通の人なら見えないはずの花。

 そして今回は袖口に付いていた白いモノを消すために手がブレたーーーー彼が手技を使ったのだ。

 つまり、あの白いモノは見られてはいけないモノーーーー彼の言う【冷界】に関わるモノなのだ。

 砕けた口調でからかうように話している西さんは、きっと何も見ていない。

 倉吉の袖の白いモノも、それを一瞬で消したのも。

 恐らく山岸さんも、気付いていないのだーーーー。



「萩野さん」


「は、はいいっ!」



 私は思わず立ち上がっていた。

 心臓がバクバクと乱高下している。

 すると、ぷっと隣で山岸さんが噴き出した。

 続いて斜め前の西さんもクックッと肩を揺らして笑い出す。

 ーーーーああどうしよう、やってしまった。

 私は俯くしかなかった。

 恐ろしくて正面の倉吉の顔を見れない。

 今すぐ何処かに逃げ出したくてたまらなかった。



「とりあえず、座ろうか」



 恐る恐る見上げると、倉吉は困ったような薄笑いを浮かべていたが、私と目が合ったその瞬間だけ、ほんの一瞬、鋭く刺すような冷たい目線で睨んだ。

 すぐにそれは消えたけれど、隣から「さすが倉吉さんだ・・・」とか「これだから倉吉君は・・・」なんて聞こえてくる辺り、私以外には見えなかったのだろう。



 私は素直に着座した。

 ゴホッと咳払いしてから、倉吉は居住まいを正す。



「一課の倉吉です。今回このプロジェクトのチーフを、田所主任から任されーーーー」



 倉吉は真っ直ぐに私の目を見て話していた。

 自分を含めメンバーは他に複数のPJTを担当していることから、先ずは各人で進めていき、週一程度報告を兼ねた連絡会を設けること等、今後の方針を自己紹介に続いて力強い口調で話す。

 そんな彼の目に、言葉に、彼の真摯な姿勢が窺い知れた。

 仕事に関係ない事で動揺している自分が情けなく恥ずかしい。

 こんな事ではダメだ、しっかりしなくては・・・!



「ーーーーという訳で、次は萩野さん、これまでの報告を。西さんは月初の報告会聴いたから知っているが、山岸君は出張で居なかったから、それらも含めて頼む」



 私は資料を手に立ち上がり、プロジェクターをセットした。

 最初の表を映し出して呼吸を整える。

 小さな会議室ーーーー一課の三人が真剣な表情で私を見上げていた。

 この場に松澤さんは居ない。

 恐らく今後も。

 そして勿論、オカルトな世界も関係無い。

 今私は、このPJTを進展させる為にこの場に立っている。

 一課も二課も、『鬼の室長』も『庇護者』も関係無い、ココが今の私の立ち位置なんだーーーー。

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