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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
11/30

11 私の立ち位置(2)


 月曜の深夜に誓約書が添付されたメールが届いた。

 差出人が《守護者》、送り先が《庇護者》となっていたので、これに関しては倉吉の名を使わないのだろうか。

 何だか言いなりにサインするのも面白くないなーと誓約書を眺めていると、宛名にウチの会社のグループ名とお偉いさんの氏名が記載されていることに気付いた。

 つまり、これ守らないと会社からも干される可能性があるという事だ。

 何が仕事とは関係無いだ。

 相手が大き過ぎる。

 私は直ぐさま署名して返送した。



 それでも翌日の朝は少しは緊張していた。

 出勤途中や会社に入ってからも、何だか周囲が気になりつつ、何かを見てしまわないように、キョロキョロしないよう自分に言い聞かせたりしていたが、一旦職場に入ると、そこには前日の報告会の喧騒も無く、いつものメンバーといつもの通常業務が待っていた。

 主任が昨日の新チームの構想を再び持ち出してくることも無く、いつもの通り穏やかにその日の仕事を終えた。

 何だか拍子抜けの気分だった。



 それから二週間ほど、倉吉が言った通り、私は家でも会社でも生活に全く変化は無かった。

 会社で言えば、松澤さんがこれまで以上に電話で話し込んでいる事が多くなり、時折難しい顔をしていることが変わったことと言えなくも無いが、それ以外では、相変わらず一課と二課の間には高いパーティションがあってあちらの様子は分からなくて、外勤が多い倉吉の姿を見ることは、以前と同様殆ど無かった。

 一度だけ廊下ですれ違った時は、お互い連れがあり、話しながらの邂逅だったので、軽い会釈で済んだ。

 そんな、何の変化も無い毎日が続いてーーーーあの一連の出来事が夢か幻に思えてきて、私の記憶からも薄らぎ始めた頃、事態は動いた。



 ある朝出勤してきたら、デスクの上にA4用紙が置いてあった。



【S第三小跡地PJT(仮)連絡準備会 第一回打合せ】


「何これっ」



 例の案件が一課のプロジェクトとしてテーマ化されている。

 参加者名を見れば、チーフが倉吉で、あと倉吉と同期の西 由希子さん、私と同じ二年目の山岸蒼太さん、そして二課の萩野奈未と続いている。

 更にオブザーバーとして法務の吉岡さん、一課の田所主任、二課の松澤さんの名前が付け加えられていた。

 あの大橋主任が軽口で言っていた案が実現したのだ。主任は昨日から出張で不在なので、松澤さんが出勤してから尋ねてみた。



「ああ、それねーーーー」と穏やかに言いながらも、松澤さんは苦々しい表情を一瞬覗かせた。



「複数人で様々なアプローチをすると、新たな面が見えてくる事もあるよ。まあ、思い切ってやってみると良い」


「はい・・・・」



 まるで、僕は関与しないよ、とでも言いたげな素っ気無い口振りだった。

 ますます不安が増して行く。



『仕事において俺と萩野さんは対等だ。同僚として協力もするし競争もするよ』



 あんな風に言われたんじゃ、怖気付いたりしていられない。

 それに、折角のチャンスじゃないかーーー私は腹を括ることにした。

 会合は明日の午後ーーーー私は不安を払拭する為にも、自分に出来ることをやってみるしかなかった。



 次の日ーーーー指定されている小会議室2のある十五階に下りて行くと、会議室の扉が並ぶ手前の給湯スペースから男女の話し声が聞こえていた。

 男は言葉少ないが、女は不満気に声を荒げている。



「ーーーーだからってずるい、ーーーーんだよ? 私だってーーー」



 男は宥めるように低い声で何か言った後、カップを手に廊下に出て来た。

 一課の山岸さんだ。

 まだ奥に向かって何か言っている。



「でもっ、あんな松澤さんのオマケの子になんてーーーー」


「ーーーー黒木」



 近付く私を目にしたのか、しまったと反応して直ぐに咎めるように振り向いた山岸さんの後ろから、同じく一課の黒木さんが現れた。



 彼らは私と同期入社だ。

 山岸さんは黒縁眼鏡の似合う真面目な公務員風だが、弁が立ち、見事な楽しいプロモーションを新人研修で披露していた。

 黒木さんは、小柄だがメリハリのある体型に勝気そうな大きな瞳が印象的で、今日もショートのボブにダークブラウンのパンツスーツがよく似合っている。

 研修の時から二人は同期の中でも優秀で、私との差は歴然としていた。

 今はよりその差が大きくなっていると感じる。

 倉吉と同様、一課と二課との隔たりもあって、同期といっても二人とはこれまで特に交流も無かった。



 山岸さんは、「・・・やあ、萩野さん」とやや気まずそうに笑って言うと、これからよろしく、と付け加えた。

 私はどんな顔をすれば良いのか分からなかった。

 黒木さんは容赦ない目線で私を睨んでくるし。

 取り敢えず「よろしく」とだけ返して会議室に向かうことにした。



「萩野さん、最初このプロジェクトに入るの断ったそうね」



 振り返ると、黒木さんが腕組んで挑戦的に睨んでいた。

 山岸さんが「黒木、もう行けよ」と言っているが聞く気は無いようだ。

 やはり、さっきのオマケ発言は私のことなんだな。

 私は諦めて彼女に身体を向けた。

 同期で同じ企画部だけど、黒木さんは私からしたら別世界の人で、これまでもまともに会話したことなんて無い。

 ただでさえ緊張する所なのに、この、彼女の好戦的な態度だ。

 一体何処で聞いたんだ。

 大橋主任? それとも二課長?

 脚が震えてくるーーーー!



「ーーーー始めるぞ」



 その時、倉吉が颯爽と私たちを追い抜いて行った。




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