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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
10/30

10 私の立ち位置(1)


 もう無かったことには出来ないーーーーそう言われた。

 もう遅くなるからと簡単に説明されたアレを信じるならば・・・・。



 俺はこの世の中の事象に少なからず悪影響を及ぼすモノと対峙する役目を担っている、このエリアの担当者だーーーー倉吉はそう言った。



「対峙する? エリアって?」



「ーーーーつまり、まあ、此処の神さんみたいなのならーーー」と、背後の祠を指す。



「ーーー挨拶してご機嫌を伺うだけで良いが、これがよくないモノで悪さをしそうだったら大人しくして下さいとお願いする。もっと良くないモノなら頑張って排除する。俺のエリアはこのミツワタワー周辺」


「・・・・」



 そしてその良くないモノを排除するためには、【冷界】という空間の狭間に入って、そこにある自分の【檻】の中に誘い込んで退治するんだと。

 それを私に信じろと?

 そしてそれのどこが『只の人間』なんだ!?


 その【冷界】への出入りは神速で行われ、周囲の人間に気付かれることは無いのだそうだ。

 恐るべし。

 それのどこが・・・・。



 ところがそれを私に見られた。

 どこまで正確に見られたか分からないまま手順に従い『暗示』を掛けたが、本当に効いたのか報告会で確認しようとしたら、私がめちゃくちゃ避けているのが丸わかりで、効かなかったと判断したそう。

 『暗示』は最初しか効かないらしく、私が同類の組織に属している可能性が考えられたので、逆に何か仕掛けてくるかもしれないと、倉吉は戦々恐々だったらしい。

 そんな雰囲気微塵も感じられなかったけど!



 それで、方針が変わったそうだ。



 よくないモノが近付いてくると、倉吉がそれを察知して(きっとセンサーだな!)対処するのだが、ごく稀にすり抜けて地上に出てきてしまうことがあるらしい。

 それらは通常人の目には見えないし、そばに来ても直ちに悪い影響が出るものでも無いらしいが、私は『目が良い』上に、倉吉のせいで『目が慣れて』きた可能性があるから、その結果、良くないモノにも気付きやすくなっているかもしれないと。

 そういうモノたちは見られることを好むモノと嫌うモノと二種類いるらしく、どちらに気付かれても不味いのだそう。



「ーーーーだから、今後は俺の庇護下に置かれることになる」



 その、良くないモノに私が見つからないように、守ってくれるんだと!

 一応遠慮してみたけど、拒否権は無いそうだ。

 有り難くて泣きたいよ。

 強制的に連絡先を交換させられた。



「こちらで概ね察知出来るが、念の為何か有れば知らせるように」



 って、センサー? センサーだよね!? 取ったって言ってたじゃない!



 「詳細は聞くな」ってそっぽ向いてしまった。

 もう質問は終わりってこと?

 そんな、肝心の事を訊いておかないと。



「それっていつまでですか?」



 そんな、守ってやるからと言って個人のプライバシー丸無視するような行為、いつまで我慢しなくてはならないのか。

 一週間? 一ヶ月?



 「そうだな・・・・」と倉吉は遠い目をして思案していた。

 ああ、今日は悪い予感ばかりだ。



「今すぐ不安を解消し、今後の心配も無くする方法は、実はある。あるがーーーー」



 そこで倉吉は眼を逸らし、否定するように小さく首を振ると、「あまりおすすめ出来ない。もしくは、君が今すぐ外国か、国内なら此処からトンネルでも繋がっていない離島に住んで永遠に戻って来なければ大丈夫だろう。そうするかい?」



 私はムッとする表情を隠さなかった。

 本州から離れろなんて、今の暮らしも仕事も失うということだ。

 そんな事嫌に決まっている。

 そしてこんな風に脅かされている自分の状況に腹が立った。



「まあ、心配しなくても今まで通りの生活をすれば良い。俺だって四六時中守護しているわけじゃないし。あいつらは週に二度来ることもあれば、半年くらい来ないこともあるんだ。そんなに構えていたら仕事や日々の暮らしに影響するだろう? 萩野さんがその事を忘れられるように俺は動くから。心配するな」


「それで、それはいつまで続いて、どうなったら終わるんですか? まさか、一生なんてことは・・・・」


「それは、無い。このエリアのモノが無くなって【冷界】を閉じてしまえば終わるんだ。だが、【冷界】を閉じるのは簡単ではないし、いつまでとは言えない。俺が頑張れば、少しは早まるか・・・も・・?」



 曖昧に言う倉吉には「是非とも頑張って下さい」と頭を下げておいた。

 こんな、いつ終わるか分からないことが続くなんて気が重過ぎる。

 精々頑張って貰わなければ!



 最後に結界の開閉の仕方を教えられた。

 もう空の大半が夜の色に変わっていて、星がきらめいていた。

 オフィスタワーへ戻るのに「お先にどうぞ」と譲られて歩き出した時、「ああそうだ、」と言われ振り返った。



「この件は勿論、極秘だ。後で守秘義務の誓約書を送るから必ずサインして。それから、仕事には持ち込まないからそのつもりで。仕事において俺と萩野さんは対等だ。同僚として協力もするし競争もするよーーーー庇護はしないから」



 全然対等じゃないし。

 片や地味課の冴えない二年目社員、そして向こうは花形課の注目のやり手エース。

 それでも、そんな出来る先輩社員に対等だなんて、社交辞令にしても少し嬉しく思ってしまった。

 私は「どうぞよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げて、庭園を後にした。


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