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669話 『風の集大成』

 2つの拳は火花を散らせながら反発し、両者を外へはじき出す。


「まさかこの俺と対等に渡り合えるパンチが撃てるようになるとはなぁ……一体お前に何が起きた?」


「ああ? 折角お前に追いつけたのにわざわざ教えて不利になる馬鹿がどこにいる? てめぇの頭で考えやがれ!」


「確かに……俺も折角楽しめる相手が見つかったんだ。この退屈しない時間を潰すわけにはいかんな! 戦いながらお前の正体を見破るのもまた一興だな」


 ジャグバドスは白いオーラの集合体になっている雨宮颯太にそう呟くと、漆黒の閃光を予備動作もなく解き放つ。


 しかし颯太はその閃光が放たれるときにはその場から消え去っており、ジャグバドスの死角から鋭い蹴りをぶちかます。


「ブゴォッ‼‼‼‼‼」


 ジャグバドスは強烈な蹴りを顎に受け、黒い‶魔獣砲〟を天に向けて発射する。


「おもしれぇ……そう来なくっちゃなぁ!」


 ジャグバドスはひびの入った顎の鱗を触りながら颯太に尻尾で攻撃を仕掛けるが、それも空を切り、颯太の攻撃の隙を与えるだけだった。


 ドゴォォッ‼‼‼‼‼‼


 今度は膝蹴りを腹部に打ち込まれ、ジャグバドスはマッハの速度で山奥まで吹き飛ばされる。


 ドォォォーーーーーン‼‼‼‼‼


 山奥に突っ込んだジャグバドスは山を消し飛ばして倍の速度で戻って来る。どうやら3メートルサイズの龍人の姿になり、速力を格段に上昇させたようだ。


「てめぇはどんな原理か知らねぇが、ワープできるようだな! だがこの姿になればそのワープのスピードにも対応できる!」


 小型化したジャグバドスは翼を広げ、宇宙速度を体現しながら接近する。


「体をワープさせることができても俺の攻撃に反応して動くまでにはわずかに時間が生じる! そうだよなぁ!?」


 ジャグバドスは邪神力をまとった拳で颯太に殴り掛かる。


 しかしまたしてもジャグバドスの拳は空を切るだけだ。さらに今度はワープをすることもなく。


(何っ!? 俺の拳が奴の体を突き抜けただと?)


 颯太の胴が貫かれる。が、その手ごたえは一切ない。血しぶきもない、皮膚が引き裂かれることもない。


 ただ煙が風に流らされるように颯太の体が突き抜けるだけだ。


「どうなってやがる? こいつは一体なんだ!?」


 ジャグバドスが困惑しているところを遠くから見ていたリーナはあることに気付く。


「まさかこれって……!?」


「はい、間違いないでしょう。あれは‶自然の衣(ナチュラルクローズ)〟です。それもすさまじい量の神力で作られた……」


 雀臨はリーナが言いたいことを代弁し、彼女を背中に乗せて少し距離をとる。強い邪神力を感じ取り、ここまで影響を受けかねないと悟って。


 雀臨とリーナが離れていったことを確認した颯太は全身から風の衝撃波を放ち、ジャグバドスを跳ね返す。


「てめぇはてめぇ自身をぶち殺せる強い存在を何千年も求めてきた、違うか?」


「いや、違わねぇ! その捉え方で間違いねぇよ」


「だったら今ここで見せてやろう。()()()()を創り出した‶創造神〟の力をよぉ!」


 颯太が全身から白いオーラを解放させると、激しい突風が自身から吹き荒れ、一瞬で嵐の世界を創り上げる。


「‶邪神力〟……その力はこの世のすべての自然の力を体現できる最強の力。だがやっぱ風の力を使っている時が一番しっくりくるなぁ~」


 ――なぜだろうな……………


 颯太は()()の一番古い記憶を呼び起こし瞳を閉じる。



『山火事だぁ~‼‼‼‼‼』


『逃げろォォ~‼‼‼‼』


『女子どもは先に避難させろ! 動ける戦士たちは火を止めるぞ!』


『何でこんな時に限って湊さんや颯介さんはいないんだ!? あの人たちがいたらこんな火事、一瞬で消せるだろ?』


 ‶大和村〟の人々が逃げ惑う中、俺はこの山火事をどうにかしようとしていた。7才になったばかりのクソガキだというのに。


 火はバースデーケーキのろうそくの火のように息を吹きかければ消える……当時の俺はそう思い込んでいた。


 だが俺が息を吹いても火は消えない。当然だろ、山火事なんだから。


 バカな俺は何度も息を吹き続けた。


 一吹き……ダメだ、火は消えるどころか逆に燃え上がってしまった。

 二吹き……ダメだ、火は揺れたがそれだけだ。

 三吹き……ダメだ、手前の火が消えたが、奥の火が燃え広がって元通りだ。


 だが村の人々はこの時違和感に気付いただろう。何で息を吹くたびにその風力が増しているのかということに……


 そして俺は諦めず四吹き目を行うそのときだった。俺の全身からわずかばかりの漆黒の力が放出され、暴風の如く激しい息を吹きかける。


 山火事は本当にろうそくの火のように消え去ってしまった。人々はその光景を目の当たりにして、


『すげぇ! こいつはとんでもない風使いだ!』


『将来有望の‶奇才者〟だ!』


『間違いねぇ! 颯太は最強の‶風の奇才者〟だ』


 その声がうれしかったのか、俺はその日から‶風の奇才者〟と名乗るようになった。




「……今思えばあの時の力は邪神力が生み出した力のほんの一部だって言うのに、俺は風の力しか使えない風を極めし者、‶風の奇才者〟だと思い込んでしまったんだな。10年もの間……」


 颯太は自分が呼び起こした嵐を見てどこか懐かしく思う。


「だがその10年で研鑽し、磨き続けてきた風の力、その集大成をてめぇに見せてやるよ! ‶魔獣王〟‼‼‼‼」


 颯太の風はやがて世界全てを包み込み、あらゆる島々が根元から吹き飛ばされる。

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