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「ニガサナイ」
今度ははっきりと俺に向かって言っている。殺る気満々ってやつか、ふざけようとしてもこう死にそうな状況だと冗談も出てこなかった。だが、ここまで力を使わないでいるのも限界か……と感じていると後ろの扉が大きく音をたて、開いたのであった。
「式、四色流留」と言葉が聞こえ四色の光がヨリコさんを囲み、その動きを封じ始めた。
援軍かと思い見てみると、真っ黒いスーツを着た四人組が中へ入ってきていた。そして、四人組の中でも髪が目にかかっているモデルのような青年がヨリコさんをごみでも見るかのように興味なさげに見ていた。すると、その男はヨリコさんに向かって掌を向けた。
「燃やし尽くせ、炎鼠」
赤い炎でできた鼠が何匹もヨリコさんに向かって駆けていった。その一匹一匹がヨリコさんに駆けていき噛みついている。数えきれない数の鼠に噛みつかれており、ヨリコさんの姿は一つの炎に埋もれてしまっているように見える。
客観的に見ても、数の多さから想像するに相当の痛みなのであろう、体育館内にはヨリコさんの絶叫が木霊している。
しかし、それも徐々に小さくなっていき、ついには消えてしまった。すると、多くの鼠もヨリコさんを食い尽くしたためだろうか、いつの間にか消えてしまっていた。
あいつはかなりやばいな。かなりの異圧だ。あの数を出して全く疲労感を見せないのもそうだが、何よりも圧倒的な力ですぐに消せたはずなのに、いたぶって消したってところが何よりもやばい。間違いなく危険。
そう考えているとその男はお供を従えてこちらに向かってきていた。
「君、大丈夫かい?現から聞いたよ。囮を買って出たそうじゃないか。対抗する手段もないのに勇気のある行動だね。素晴らしいよ。」
ほめているのだろうが目は笑っておらず、こちらを試すような、値踏みするような嫌な目で見ている。嫌な野郎だな、こいつ。タイミングも俺が何もしないとわかるとわかってから入ってきやがったみたいだ。
現と入れ違いくらいにこの校舎、体育館の近くには入って来たくせに。
「たすけてくれたありがとうな。動けるのは俺だけだったからな。お守りとしてお札ももらっていたから何とかなったよ。あんたがいないと死んでいたかもしれないけどな。アンタは何者だ?」
「僕かい?僕は弓削 幻というよ」
どうやら、弓削の者らしい。かなり上位の人間なのだろう。力を使わないで良かったと一安心した。それから、弓削の家の者と廃校を後にした。
大学生のことなどもろもろのことは何とかしてくれるそうだ。これでひとまず、一件落着といったところだ。
話によれば幻は弓削家の次期頭首だという。晴屋の紹介をし、一応、名刺のようなものは交換しておいた。もちろん、勝手に現についていき役に立たなかった梓は吟子からも俺からも説教されることになったのだった。
彼は何か力を隠しているね。君たちは何か感じなかったかい?」と僕はお供に連れてきた二人に聞くが、二人は何も気づいていないような反応をしていた。
気づくわけないか、そんな大して力の持ち主でもないし。彼は隠すのがうまそうだからね。弓削家のセイトウな血筋なのに落ちこぼれである現にしてはよくやったと言いたいかな、あんな人材を見つけるに至るなんてね。
「あの彼は力を隠しているよ。とても強いよ、姫なんか消されちゃうよ。」
いつの間にか帰ってきていた僕の怪異の姫が嬉しそうに言っている。やっぱりか、姫を消すくらいなんて使えそうな駒じゃないか!
「式、追鼠」
僕は彼に気づかれないように追跡・監視用の術式を放ったのであった。
やっと弓削の者や祓屋の連中から逃げ出せ……帰ることができていた。車内は誰も言葉を発することがなく静かであった。帰るギリギリに現からは何回も何回も謝罪をされ、逆に申し訳ないと感じるほどであった。
弓削現という人物は弓削家の本家の子供らしい。しかしその才能は弟である弓削幻に吸い取られたと陰でいわれるほどだそうだ。彼は今回の依頼を勝手に受けたそうだ。こちらからしたらいい迷惑なだけである話だが。
逆に、弓削幻は異圧の高さが尋常でないことをはじめ、式、特に火の式は祓屋の中でもトップクラスの力を持っているという。
火と水、相反するように二人の兄弟の才も相反しているということなのだろう。何も笑うことなどできないが。
四人組の大学生は無事であることがわかった。しかし、厄介なことにその四人に晴屋が心霊関係に強いという印象を強く与えてしまったようだ。これからは晴屋には心霊、怪異関係の依頼しかこないであろう雰囲気である。
最後にヨリコさんだ。彼女はどうやら孤児院を経営していたらしい。経営は厳しかったそうだが、援助者がいたことで何とか経営は保てていたそうだ。
しかし、その経営者に問題があった。高校生の故事も何人かいたらしいが、その孤児の女の子を危ない店で働かせるや人身売買などを行っていたらしい。
引き取り手が見つかったというのは幸せなことではなかった、という事実にヨリコさんが気付いたのは、ヨリコさんと一緒に孤児の面倒を長く見ていた女子高生が自殺してしまってからだったという。
ヨリコさんは怒り、どうにかしようとしたら孤児院は閉鎖に多くの子供が苦しんでしまったという。子供を苦しませたことや、自殺するまで傷ついていたことに気が付かなかった自責の念から、自殺してしまったらしい。
ここまでは梓が調べてくれた資料からわかったことだ、謎なのはその援助者については一切わからないということだった。何かしら裏があるのだろうが、もう俺達には関係のないことだった。
晴屋のソファで梓の依頼結果や報酬の紙に目を通し終わると真魅がこちらをじっと見ていた。「どうした?」ときくと、「これから楽しみだね。」といい、嬉しそうに話し続けた。
「これからは、怪異がらみの依頼がたくさん来そうだしさ。私も想も飽きないで済むよね。私だって怪異みたいなもんなんだしさ、人間相手よりも怪異を相手にしていた方がよっぽど楽しんだよ。」
真魅は心の奥から嬉しそうにしている。確かに、人間相手も暇つぶしにはなるが怪異が絡んでいた方がそれ以上に楽しく面白くおぞましく、いい暇つぶしにはなる。
なるようになるか、と思い晴屋の扉を見つめ、これから来る依頼人へと思いをはせた。
「さてと、その前に幻からのプレゼントへ消しとくか。」
俺は床へと手を伸ばし、常人には姿が見えずいるのかさえわからない鼠を捕まえ、ひねりつぶした。真魅は「バレるのだめなんじゃないの?」と聞いてきた。
「今更、遅い。監視をつけられてたんじゃ、おしまいだ。オープンにしていた方が探りを入れられるから、手を出されにくい。それにバレたからと言って後れを取るほどでもないさ。」
真魅にはそう返した。ここにはいない式を破られた幻がほくそ笑んでいるのを想像しながら舌打ちをした。すると、扉が開く音がして誰かが入ってきた。俺はスイッチを入れたかのように先ほどまでの雰囲気を打ち消し、
「やぁ、いらっしゃい。ここは晴屋です。あなたの心が晴れますように」
俺は切り替え愛想よく笑いながらそう語りかけるのであった。
これで完結といたします。また機会があれば書かせていただきます。




