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そもそもに幽霊と言ってもさまざまに分けられる。怪異は妖怪や幽霊、西洋では悪魔や怪物、呪いのことなど様々な種類がある。
怪しく異なるものはすべて怪異というジャンルに分けられるんだろう。そして、怪異には等しく異圧が存在している。
それは、霊力と言ったり、呪いの力である呪力であったり、人並外れた身体能力であったり……。それら、怪異の放つ力、圧力はすべて異圧と言われる。
日本では妖怪や幽霊が怪異に当てはまる。しかし、幽霊や妖怪であっても人間と同じように善と悪がある。まぁ、人間と同じでいい奴もいれば悪い奴もいるってことになる。
怪異には厄介な性質がある。ある条件で力を伸ばす進化のようなもの、昇華を迎える時がある。
地縛霊が悪霊になり土地に縛られず動き呪い殺し始めたらそれは昇華である。日本でいえば幽霊も昇華していくと、それは一つの強い妖怪になり呪いになる。
物体である存在から概念へと昇華していくか、一つの怪異として強力に存在するようになるからである。昇華はその怪異が能力を与えられる時がある。昇華している怪異に会うときは気をつけろよ。
以前に聞いた話を思い出した。年寄りでもないのに、なんでそんなことを思い出したのかと言えば、俺の前で暗く重い雰囲気を放っているヨリコさんが原因であるのだ。
「まじか……」と思わずつぶやいてしまった。
体育館の扉を開けると、暗く重い異圧を放っているヨリコさんと壁に激突したのであろう負傷している現、怖いのか震えて小さくなっている梓が見えた。最悪な状況という言葉しか浮かばない。
考えなくてもわかる。ヨリコさんが昇華しているのであろう。現が立ち上がろうとしているところを見ると生きてはいる。
「想思君か。現さんが、あの怪異が……」と、梓は何か言いたそうだが恐怖のせいもあってか言葉にできていない。
梓に「少し待っとけ」と声をかけ、現の元へと駆け寄った。暗く思い異圧を周囲に見境に放っているところを見ると、幸いなことにまだヨリコさんは昇華中であるようだ。
「おい、大丈夫か?」と聞くと苦しそうにしている。立つのもままならないためにを支えてやると、「すまない」と力なく答えたのであった。
現には悪いが「説明してくれよ?」と念を押すように問い詰めた。
「俺が強い怪異の気配がしたのでここまで来たんだ。そしたら中にはあの女の怪異がいた。周りにいる子供の霊がこちらに向かってきたから、滅したらいきなりあの怪異が怒り出し、吹き飛ばされたんだ。そのあとは今の状態だよ。」
「何で昇華してるんだ?」
現は「俺にはわからないよ」と力なくつぶやいていた。
どうやら、怒りというか子供を消された恨みが引き金に昇華したようだ。現はなんとか立ち上がりヨリコさんに向かって何らかの術式を放とうとしていた。止めようとしたが、それよりも先に術式は組み上がりヨリコさんへと向かっていた。
「式、水蛇」
異圧によって作られた青い蛇がヨリコさんへと巻き付き、縛り上げていった。現は「やったか!」とうれしそうな表情をしていた。突然、蛇は爆散し光の粒子になり消えていった。
「あの怪異は水と相性の悪いやつだったのか。」
現は悔しそうな落ち込んだ表情を見せていた。現の家の弓削は、祓屋の陰陽師系列で、五行の術式を使う。しかし、今回は、その五行の愛称などが問題なのではない。そもそも、見た限りに昇華中であり、どんな性質を保持するのかはわからず、五行は関係ない。
現が力不足なだけ。無情にもそれだけということだ。
ヨリコさんは変に刺激されてしまってないか不安になったがそのような様子はなさそうでほっとした。
落ち込んでいる現に対して、「おい、逃げんぞ。お前の手には負えないだろ。」と声をかけると、力なくうなずいたのであった。現とともに梓の近くに行き、出口に向かおうとすると、後ろから放たれる強い異圧に俺と現は振り返った。
「ニガサナイ」
そういった瞬間、目の前の扉が勢いよく閉まった。俺は咄嗟に扉に向かって、ごみを掃うように手を払った。
現に「梓を連れて出ていけ。途中にいる大学生も拾って行けよ。梓に渡したものをかざしながら進め。ヨリコさんから守ってくれたように守ってくれる。俺は足止めをしておく。」というと、「すまない」と言い、走っていった。
正義感で二人を逃がしたわけではない。俺が力を使うところを見られるわけにはいかなかった。特に祓屋の弓削のような有名どころには。振り返ると、無表情にこちらを見つめるヨリコさんがこちらに向かっていた。
咄嗟に吹き飛ばそうと目の前の空間を殴りつけたが、ヨリコさんはびくともせず逆にこちらが吹き飛ばされた。追い打ちをかけるかの如く、ヨリコさんが何かを放ってきた。
よく見るとそれは霊魂であった。ヨリコさんに呪い殺された人の霊の集まったものなのだろう。淀み穢れたそれは俺にぶつかると爆発するようにはじけた。
「ぐあっ」と思わず苦しみの声が漏れた。
構わずヨリコさんはこちらに少しずつ向かってきている。俺が動けずにいると、ヨリコさんは俺の目の前にまで来ており、俺の首を絞めてきた。
その力は人間離れしたものであり、すぐにでも殺されてしまいそうだったが、なんとか、ポケットにしまっていた札をヨリコさんの腕に張り付けた。
すると、ヨリコさんの腕はじゅうっ、と焼けるような音がし、やけどしたようにはれ上がっていた。苦しそうにお札をはがし、切り裂いた。
「はなしあうつもりはないのか?子供たちの無念も晴れないぞ?」
しかし、ヨリコさんの耳には届いていない。恨みが強すぎて、怪異になるに至った子供への思いも消えてしまったのだろう。周囲の子供の怪異がどんどん消え、それがヨリコさんの中にどんどん入っていっているのがわかる。
「まいったね」と思わず口に出さずにはいられなかった。
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