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「ほら、このくらいの怪異には私が対応し、すぐに滅することが、想いを消すことができるので大丈夫ですよ。」と現はとても誇らしげであった。
しかし、俺も真魅も雰囲気が変わった廃校に対して警戒心が高まり安心なんてのは一切することができなかった。
「おい、雰囲気が変わったが大丈夫か?さっきまでの学校との雰囲気とはかなり異様になっていると思うんだがどうだ?」と聞くと、安心してくださいよと返されただけであった。
……ずいぶんと嫌われてしまったようだな。
おかしい。俺自身も少しは祓屋として仕事したことがあるが、怪異を滅することで周囲の怪異が刺激されることはある。しかしまぁ、この雰囲気は変わりすぎている。あの男の子が言っていたこともやっぱ気になる。彼女が許さない、もしあの男の子が囮みたいに使われていた怪異だとしたら……次は真打の登場になるだろうな。
まぁ、最悪は祓屋さんの出番ではあるからな、と考えていると四人はかなり先を進んでいた。どうやら、階段を上がり屋上階から下に向かって探索していくらしい。
「ここが屋上ですね。気を付けてくださいね。床が崩れて落ちるなんてことがあるかもしれませんからね。」
「特に何もないねぇ。ただの廃校の屋上だね。」
「さっきまで怖がってたのは消えたのか。足はまだふるえてるんじゃないか?」
吟子と梓は落ち着きを取り戻したように話している。二人はさっきの男の子の衝撃からは立ち直っているようであった。もしかしたら、むりをしてるだけだろう。そう思い軽口をたたいてみたがきつく睨まれただけで何も効果はなかった。
二人に追及されたくもないのでふらふらと歩き、下を覗いてみると暗闇が広がるばかりであった。よく目を凝らすと学校を囲んで四角形に薄く白い靄のようなものが見える。これが弓削の者が作った結界か、と思っていると真魅が話しかけてきた。
「ねぇ、この結界が壊れたらどうなるのかな。今は割と抑えられているけど、強そうなのも何体かいるよ?」
「この結界を壊せんのは外からだけだな。結界内の怪異を抑える効果もあるみたいだな。弓削の者だし、優秀だから大丈夫だろ。何とかなるんじゃないか、壊れたとしてもさ。」
現は満足げに微笑みながら話を聞いている。吟子と梓がこちらに近づいてきていた。
「さっきのは何だったんだい?あの痛々しい男の子はさ、消えちまったみたいだけど。」
「プロに聞いてみればいいだろうが。俺に聞くな。」
「想の意見をぜひ聞いておきたいんだよ。」
「あれは低級の怪異だ。いわゆる幽霊ってやつだな。事故で死んだ男の子の霊だろう。俺らに危害を加えられるほどの存在でもなかったよ。親に抱き着きたかったんじゃないのか。なぁ、プロの意見はどうだ?」
「僕の意見も君とは変わらないよ。なんにせよ、ここの怪異は大したことはないね。何が原因で依頼が来たのかわからなくて逆に困っているよ。怪異が原因だからだと僕は思っていたんだけどね。」
どうしようかなと現は頭を悩ませているが、俺は気になることしか頭になかった。
静かすぎる。
あの男の子がいなくなり雰囲気は変わった。それは確かだ。襲ってきたり、頻繁に表れるようになるのかとさえ警戒している。にもかかわらず、怪異の行動が何もない。何かを待っているかのように、タイミングをうかがっているかのように、もしくは何かを恐れて動けないように。
この状況のまま、出られるならそれに越したことはないなぁ。何かこの状況を打ち破る何かが起これば変わってしまうのではないかという不安もある。俺だけならいいが、吟子と梓を守れるだろうか……
すると、山の中に二つの強い明かりが見えた。それはかなりのスピードで動いているのがわかる。しかもこの廃校に来ようと、こちらに向かって徐々に近づいて。
どうやら明かりの主は車のようだ。ここまでうっすらと音楽も聞こえるように、なかなかの爆音だ。中にいる奴の鼓膜が心配になる。中に乗っているのは若い奴だろう。心霊スポットのやってきた若者といったところだろう。
こんな不気味な日に何手間の悪い連中なんだろう。車から降りてきた連中を見る限り、詳しくはわからないが若い男女のグループであることは間違いないな。楽しそうにしている。まぁ、結界があるからと安心して見ていた。
あー、これはやばいな。中には、巫子の姿が見えた。
「真魅、巫子がきたぞ。あいつって確か、かなり異圧が高かったよな。」
「そうだね。普通の人間の中ではそこそこ高いね。しかも、先日の一軒で悪い意味で仕上がっているから、ここに来るのは危ないんじゃない」
やっぱり、俺の見立てと同じだったな。あいつの力だと結界触られたら下手したら、と考えていると、一団は廃校へと近づこうとし、巫女がその白い靄の中に入ろうとした瞬間に
パリーン
何かが割れるような音が聞こえた。白い靄が消えてしまった。
「どうして。結界が壊れることなんてないのに……」と現はひどく動揺している。起こりえない現実が起きたことに対して恐怖しているのか手も少し震えているのがわかる。
結界が消えた瞬間から、廃校の中から様々な怪異の反応がでてきた。現はその数の多さと強さに気づいて震えているのだろうか。それとも気づいていないのだろうか。
少し様子を見てみると、一番やばい奴の気配には現は気づいてねぇみたいだ。一体デカいのがいる。彼女と呼ばれていた存在はそいつだろう。真魅なら分かるか?
真魅は一般人ではない。その身には怪異が宿っているというか混じっている。あいつはその影響からか、怪異のある程度のことがわかる、そんな能力をもってしまった。
しかし、真魅の中の怪異の実体は不明。だから、使わせたくはないし、負担はかけたくない……がしょうがないか。
「真魅、いけるか。もしもは俺がいる。なんとかなるか?」と聞くと真魅はにっこりと微笑み、こっそりと手招きし離れた場所に行くと話し始めた。
「女の人だね、いわゆる悪霊なんだろうけど。かなり強いよ。恨みも強い、悲惨な死に方もしている。霊ではなく怪異に変化しちゃってからの時間は短そうだけど。」
「名は?」
「ヨリコさんだよ。その人は多分だけど、子供に対して強い感情があるみたい。」
「あの男の子は警告にでも来たわけか。なんで静かだったんだ?」
「それは霊の子供たちが結界のせいで静かになったからだよ。子供がおとなしくなったから安心してたんじゃないかな。」
「ってことは、かなりカンカンだろうな。うちの子に何してくれてんだって感じか。」
二人で話していると現と吟子、梓も話していたらしく集まっていた。今後の打ち合わせでもしているんだろう。とりあえず今日は帰りますって流れにならねぇかな。
更新遅くなってしまいすいません。引き続きよろしくお願いします。