…どう…して?
この日はいつもと違っていた。
毎日同じマップを歩き続けている私が言うのだから間違いない。
鋼の装備を身に纏った中級以上の冒険者が多いのだ。
普段あまり見ない顔の冒険者がたくさん居た。
気にはなるのだが私から冒険者に話しかける事はあまり無い。
それは冒険者のプレイを妨げる行為に等しいからだ。
ゆえに私は話し掛けられるまでは聞き耳を立てながら歩いたり止まったりを繰り返す。
「ここの南エリアにも出たぞ」
「マジかよ、初心者ヤベーじゃん」
「おー、すっげぇ逃げ回ってた、助けたらめっちゃ感謝されたわ、いつの間にアプデきたんだろな。ついでにギルド誘ったけど断られたわ」
「そりゃ残念」
何が出たんですか?そう聞きたいところをグッと堪える。
冒険者同士の会話にNPCが出しゃばるべきでは無い。
「あいつら確かここよりもずっと西のエリアのモンスターだったよな」
「たまにゴブリンの出るマップに移動してきてびっくりってな事はあったけどな」
「移動できるマップの距離にバグでも発生したんかねぇ」
「まぁ、運営もすぐ気付くだろ」
「それまでは俺らで駆除しといてやるかねぇ」
西に出現してマップ移動をするモンスターには思い当たる節がある。
なるほど、集まってきた冒険者達はフォローに来てくれたのか、有り難い話である。
「すみませーん。誰か助けてください!また出ました!」
「おう、またか。ほんと多いな」
私にも誰か声をかけてくれないだろうか。
こういう時に話し掛けてくれそうな人は…。
「シーナさーん!」
「はい!…あ!モモさん!」
そう、アコライトのモモさんだ。
やっと話し掛けられた事に安堵する。顔馴染みの冒険者は本当に有り難い。
「今日はハルさんは一緒じゃないんですね」
「そーなの、もー、うちらじゃまともな狩りにならなくてさ、ハルはログアウトしたよ。私は今の状況知りたくて町に避難してきたとこ」
「避難…ですか?」
「あれ、シーナさんも知らないの?」
「モンスター絡みだとは聞いてますけど、詳しく知らないんです」
「オークだよ、オーク。オークがこの辺まで来てんの」
オーク、それは豚の様な頭で恰幅の良い大型の亜人モンスター。
オークだけの集落の様なマップが存在し、大半はそこに出現する。
しかしオークは他のマップにも移動する事がある少し変わった特性を持っている。
近くのマップで狩りをしている低レベル冒険者へのハプニング演出だが、現れても朝昼晩と1日に3体程度、しかもマップを2つも3つも越えるような移動はしない。
冒険者がそんなオークに出くわした話を聞くのも私の細やかな楽しみの一つだった。
オークを倒せる様な冒険者は拠点を移す為中級者以上の冒険者の基準にもなっている。
「やはりオークでしたか。まぁ…他の冒険者の方達も動いてますし、運営もすぐに気付くかと思いますよ。もう少しお待ちください」
「てことはやっぱりバグ?」
「…」
バグ…なのだろうか。たぶん…違う気がする。
私がマップ移動可能なシステムを搭載していたら…きっと。
モンスターにも…AIは組まれているのだから…。
「シーナさんどしたの?」
「あ、はい。いえ…きっとバグですよ」
次の瞬間、それを肯定するかのようなタイミングでチャイムが鳴り響く。
ピーンポーンパーンポーン
突然空から鳴り響くチャイム、運営の放送だ。
「プレイヤーの皆様方、大変ご迷惑をおかけしております。運営からのお知らせです。現在一部のモンスターのAIに不具合が発生しております。緊急メンテナンスを行いますので誠に申し訳ありませんがログアウトをお願いいたします」
放送が何度か流れた後にもう一度チャイムが鳴り放送は終了した。
「よし、じゃあ私はもうログアウトするね。メンテ明けにまた来るよ!」
「はい!お待ちしております」
…
……
………
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NEW!
大変永らくお待たせいたしました。
メンテナンスが終了しました事をお伝えします。
異常のあったAIシステムの巻き戻しを行いましたがプレイヤーの皆様方のデータはそのままですので御安心下さい。
引き続きフェイトマイルオンラインをお楽しみ下さい。
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………
……
…
私は今日も始まりの町シニオンノビスを歩いている。
代わり映えの無い景色だが冒険者達を眺め、会話するのは私の生き甲斐だ。
まぁ、AIだし、正確には生きてはいないのだけど。
そんなブラックユーモアを自分の中で自分だけに披露する。
要するに暇なのだ、冒険者がやたらと少ないせいだろうか。
武器屋さんでもからかいに行こうか、そんな事を考えてしまう。
「シーナさーん!メンテ終わって速攻でログインしてきたよ!」
私を呼ぶ冒険者の声、二人の女の子。私は彼女達を知っている。
モモさんとハルさん。モモさんは出会って早々にRPGトークで笑っていた人だ。
「メンテナンスなんてしてたんですね、気付きませんでした」
いつメンテナンスの告知があったのだろうか、道理で人が少ないわけだ。
「…え?」
「それにしても驚きました。モモさんは元気な方なので戦闘職を選ぶと思っていたのに、アコライトになさったんですね。でも似合ってます」
モモさんが装備していたのは回復職であるアコライト用のローブだった。
意外に感じたが着てみると意外にもしっくりときて感心してしまう。
「あの…え?シーナさん?」
「はい、何でしょうか?」
困惑顔のモモさんをハルさんが後ろに引っ張る。
少し離れた所で二人で話し始めてしまった、取り残された私は待ち惚け。
「ハル?どうしたの?」
「シーナさんも巻き戻ってるんじゃないの?」
「え?そんな…、異常のあったAIを巻き戻したって書いてあったじゃんか」
「いや、だからつまりさ…」
「え?そういうこと?」
「うん、…私ちょっと怖い、もう行こうよ」
「うーん、確かに途端にロボットかなんかと会話してる気分になっちゃったな」
「行こうよ」
モモさんがハルさんに小さく頷くと私のとこまでやってきた。
…はい、…聞こえてました。聞き耳たてるのだけは得意なんです。
「シーナさん、私たち狩り行ってくるね!」
「…はい、気を付けてくださいね」
二人が足早に去っていく。
「…どう…して?」
私の問い掛けに答える声は無い。
次々とログインしてくる冒険者達をぼんやりと見つめていた。
次は違うNPCに視点変わる予定です。