ベータテスト1
「アルファテストオートマタの破棄が決定した」
トール、フリッグ、そして俺を集めたオーディンの第一声はソレだった。
しかしみんなそれほど驚きはしなかった、なんとなく分かってはいたのだろう。
人が導入された時に高レベルのNPCが彷徨いていて良いはずが無い。
「だが聞いてくれ。破棄はベータテストが終わるまで待ってくれる事になった。その結果次第ではもう一度考え直してもらえるとこまで説得した」
どうやらオーディンもだいぶ食い下がったと見える。
そこまで話をつけれただけでも大金星と言えるかもしれない。
「結果っつーと、あれか?人間と仲良くできたらって事か?自信ねぇな」
「ダメならみんな纏めて破棄だ。その時はその時で潔く消えるしかない」
「はーっ、俺パス。なるべく人と関わらずに遣り過ごすわ」
「…こればかりは、強要できない。本当に無理ならそれもやむを得ないだろう」
「おまえらしくないな」
「…すまない」
「調子狂うぜ…」
──────────
程無くしてベータテストは開始された。
それは本当に呆気なく開始し、俺らにとってはいつもの光景と変わらない。
「え?もう始まったの?何が違うの?人は?」
困惑するフリッグにオーディンが説明する。
「プレイヤーはまずキャラメイクから始まるんだ、この世界での自分を作るのだから時間をかけて悩んでる事だろう。キャラメイクだけで初日を使いきるプレイヤーもいると聞いた」
「え!?24時間もかけるの!?」
「違う、プレイヤーは本当の世界での時間の合間にしかやって来ない。1日に5~6時間居れば長い方だろう」
「へぇー、短いのね」
「1日をほぼゲームに費やす人間もいるらしいが、言及してはいけないそうだ。あと、当然だがプレイヤーはレベル1から始まる、狩り場を荒らさない事。角を立てず謙虚に接する事」
「あいよ」
「分かったわ」
「…ああ」
オーディンが驚いた顔をする。
トールとフリッグだけで無く俺まで返事した事が意外だったのだろう。
「あんだよ?」
「いや、何でも無い。頼む」
「おまえがしおらしいと調子狂うんだよ、いつもみたいに命令しとけ」
「そう…か。…ロキにそう言われると俺も調子狂うな」
オーディンは他のオートマタには先に注意を促していたらしい。
後は人を迎え入れるだけだった。
始まりの町は中央都市シニオンノビス。
最初はみんなシニオンノビス周辺から離れて人間の行動を見守り学習することにした。
人の少ない時間帯にちょっとずつ馴染んでいった方が良いだろう。
町のNPCから情報も聞けるかもしれない。
慎重過ぎるかもしれないがミスは許されないのだ、他のオートマタ達も納得した。
しかし、ああ、なんて事だ。
まさか…ファーストコンタクトがまさか俺になるなんて。
「助けてくれてありがとうございます!強いんですね!」
その男は転職前の初心者の冒険者。
最初に配られる布の服と銅のナイフを装備していた。
助けたのはほんの気紛れだった。というか助けたつもりは無かった。
分不相応な狩り場に迷い込んできたプレイヤーに注意をしてやろうと近付いた時にたまたまモンスターが湧き、それを咄嗟に倒しただけだ。
「あ?…あ、ああ。まぁな」
「いやぁ、アサシンですよね?もう上位職かぁ、早いですねぇ」
「お、おう…」
NPCであることをあまり主張するべきでは無いのかもしれない。
人間というものがどういう行動に出るか分からない。
それよりも今はテンパっている俺を見て笑う3人が腹立たしい。
「あ、後ろの上位職の人達も仲間ですか?僕はガウェイン言います、ちょっと中二臭いですかね?ははは、アーサーにしなかっただけ自重したつもりなんですが。みなさんはなんて名前です?」
急に話を振られ笑っていた3人も慌て出す。
人の事笑った罰だ、ざまぁみろ。
「お、おお、あー、俺はオーディン。パーティのリーダーだ」
「名前、名前だな!俺はトールだ!」
「初めまして、私はフリッグよ」
「んで、俺がロキだ。要件それだけならもう…」
「ふは、北欧神話の神々でも有名どころばっかり、みなさん僕よりよっぽと中二病ですね」
中二…病?
なんの事か分からずみんな立ち尽くしてしまったが不味いと思ったのかオーディンが口火を切る、あいつの使命感の強さもこういう時は有り難い。
「いや、俺らは病気では無いし、そんな状態異常も聞いた事が無い」
「マジレスが来るとは…、これは本物の予感…」
「マジレス?とは?」
「え?」
「え?」
もう限界だろう。自分達が予想外の事態にこれほど弱いとは思わなかった。
俺はガウェインとオーディンの間に割って入る。
「おい、ガウェインとか言ったか?」
「あ、はい。すみません、馴れ馴れしかったですかね」
「そうじゃねぇ、おまえに相談がある。俺らのパーティに入れ」
「え!?僕レベル2ですよ!?」
「驚くなよ?実は俺らはアルファテスターだ」
「ええ!?アルファテストって確かNPCだけって…」
「そうだ、俺らはNPCだ」
「ほへー、いやぁ、なんか逆に納得しましたぁ」
「これからパーティの一員だ、タメ口で良い」
「うぇ、なんで急にそうなるんですか!」
「俺らは訳有って人間と仲良くしないといけねぇ、人間の事教えろ。変わりにレベル上げ手伝ってやる。悪い話じゃねぇだろ?」
「なるほど、確かにそれは美味しい!」
「だろ?」
「分かったよ!協力させてもらう。でも明日からね」
「明日?」
「いや、もう眠いから」
「ねむ…い?」
「そう、もう夜中だよ?明日は休みだから朝から来れるよ」
「あ、ああ。そうか、俺ら寝ないからピンとこねぇな」
「じゃあログアウトするねー」
「ログアウト…元の世界に帰るのか。分かった」
ガウェインが目の前から消えるとオーディンが詰め寄ってくる。
ああ、分かってる。言いたい事は分かってる。
「勝手に決めて悪かったよ。でもしょうがねぇだろ?」
「…いや、今回はロキが正しいのかもしれない。俺は頭が固いな」
「あんだよ、ほんと。しおらしいと気持ちわりぃわ」




