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想いの価値は  作者: スミス・ヴァルター
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エピローグ

 バタンと和美は部屋の窓を閉めた。

 今日は七月六日。まだ梅雨明けはしていなかったが、日が出て初夏の陽気だった。腕に輝くCITIZENシチズンの電波時計に目をやると時間は十三時三十分。創平が家を出た後に分単位のスケジュールで動いたため、疲労感があった。和美は自室にいるが、部屋の中には家具をはじめとする一切が無くなっていた。最後の私物は今朝方処分した。その後、乗っていたアクアを友人に譲り終えた。

 そのまま昼食を取らずに、美容院で髪を切った。肩甲骨まであった黒髪を肩に届くかどうかくらいまで切り、茶色に染め、ウェーブをかけた。仕事を辞めたのだから黒髪にこだわることもないと、思い切ってやった。耳にはシルバーのピアスがあり、和美を知る者が見たら驚く姿だった。


 あの話し合いから一ヶ月、和美は水面下で着々と準備を進め今日を迎えた。話し合いの後に、創平や蒼空と上手くいかなかったわけではない。むしろ、その逆に良好な関係が築けていた。だから、和美は安心して新しい生活の準備が出来た。二人にはこの事は一切話していない。

 少しくらい驚かせたって良いだろう。悪戯心が和美にそうさせた。今まで真面目に生きてきたのだから、最後にこれくらいは許されるだろうと和美は思った。

 話し合いの日から、創平は後片付けだけではなく調理も手伝ってくれるようになった。洗濯も制服の夏服のアイロンも。嬉しくもあったが、寂しくもあった。創平ができることが増えていくことは、和美の役割が減っていくことも意味した。それも相まって和美は新生活を意識した。

 和美は新品のショルダーバッグを持って自身の痕跡が無くなった部屋を出る。

「私がいなくても、創くんは十分にやっていける。蒼空ちゃん。あとはよろしくね」

 創平の部屋の前で止まり、扉を指で撫でて呟くと和美は階段を降り玄関を出た。

 家の扉に鍵をかける。鍵はどうするべきか。数秒思案した結果、持っていくことにした。

 和美は家を見上げた。ここに来て、自分は生まれ変わった。そしてここから出て、また生まれ変わろうとしている。不安がないわけではない。

 しかし、創平のように自分も成長したいと和美は思った。そのためには、新しい場所と環境が必要だった。この土地にはあまりにも、過去の自分と、創平との思い出がありすぎた。

「だから、じゃあね」


 和美は振り返り歩き出した。駅まで十五分程だ。そこから路線を乗り換えし、東京駅まで行き、名古屋まで新幹線で行く。十九時には新居に家電や家具類が届く。さあ、これから何をしていこうか。当面の生活資金は潤沢にある。しかし、近いうちに何かしらの仕事を見つけ生計を立て、来年にはかつて行かなかった大学にでも行ってみようかと思っていた。

 その時、雨粒が頰を打った。

 和美は立ち止まり、手のひらを広げる。また一滴、雫が今度は手のひらに落ちた。そのまま和美は空を見上げた。

 晴れているのに、ぽつりぽつりと雨が降っている。「お天気雨」和美は呟いた。何かの本で幸運の合図と取り上げていたのを思い出し、和美は微笑む。これは幸先が良い。

 これから、たくさん色々なものを見つけていこうと和美は思った。進んだ先の喜びも、時には悲しみも受け止めて自分の道を進んでいくと決めた。どんなところでも道は道だ。遠回りをして今、和美は個人としてスタートラインに立っていた。

大変読みにくい点もあり、ご不便をおかけしましたが、無事に完結致しました。お読み頂いた方の存在が大変励みとなりました。ありがとうございました。改めてお礼を申し上げます。


細部の修正等はこの後も逐次行い、少しでも皆様方に読まれる作品作りを心がけたいと思います。

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