ACT99.ティーパーティーと再会!!
おまけなのに長いですし、本編でもよかったかもしれません。
これにて完結です!!
「本部に行きましょう」
キス失敗の翌日、突然ナナヤ様がそう言った。
「本部?」
私は聞き返す。
「華旧水希の自宅です」
水希くんの自宅が本部?そもそも本部って何だろう?考え込んでいる私にナナヤ様は
「行けば分かります」
と言って笑った。
「こんな展開、ありえなくない?」
「ナナヤ様、本当に晶乃さんを選んだのですか?わたくし水希様にお会いして、お話したいですわ!!」
「僕は正直、ナナヤ様って恋愛の回路がないんだと思っていました」
「それは失礼じゃない?」
「これからどうすんの?失業だよ、オレら」
「初めましてよね。あたし、加賀井更紗!!」
「更紗、抜け駆けして自分だけ自己紹介しないでよ」
「ちょっとみんな!!勝手に話さないで下さい!!」
耐えきれずといった感じで、太陽さんがそう叫んだ。
もう、何が何やら……。凄い勢いで話す複数の声を全て聞き取れるはずもなく、急に訪れた嵐のようなこの状況、私は誰にどう話しかけていいのか分からない。
ナナヤ様の手を取り一瞬で水希くんの自宅に着いたら(想像できたけど、凄い絵にかいたような豪邸……)玄関前に美麗先輩が立っていた。それで促されてここ、広いリビングへ。現在は複数名から包囲されている状況。
目の前に太陽さん、周りにモブ男子、賢持先輩、月さん、白百合さん、それに知らない女性が二人居た。
「とりあえず、みんな落ち着いて。お茶でも飲みましょう」
美麗先輩がそう言って、温かい紅茶をキッチンから運んできた。
「ケーキとクッキーもありますよ」
イコちゃんも美麗先輩を手伝っている。なんか不思議な光景だ。
「また歪なクッキーかよ」
モブ男子が言った。
「余計なこと言わない!!」
美麗先輩が一蹴する。
円陣のような包囲は徐々に崩れ、みんなおのおの椅子に座ってお茶を飲んだりケーキを食べたり、もしくは離れた場所に移動したりした。ただ一人を除いて。
私は無意識に隣のナナヤ様を見上げる。ナナヤ様は困ったように私に笑いかけた。
「ちょっと!!なんですの?その甘い空気。絶対に認めませんわよ!!」
仁王立ちで決して包囲場所から(もう包囲ではなくなっているけど)動こうとしない白百合さんが私たちを睨んでいる。
「ナナヤ様、すみませんが少しの間あちらへどうぞ」
太陽さんが、慣れた様子でここから離れた部屋の隅にナナヤ様を連れ出す。小さなソファーが置いてあり、ナナヤ様はそこに座った。すると白百合さんもナナヤ様の後を追う。
太陽さんが戻ってきた。
「薫子が煩いので、しばらくナナヤ様をお借りしますね。基本的に、害はないので大丈夫です」
太陽さんが丁寧な口調でそう言った。二人のことが気になるけど、ここは太陽さんに従おう。
「晶乃さん、昨日はごめんなさい。取り乱していたとはいえ、失礼な言い方をして」
太陽さんが神妙な面持ちで改めてそう言った。違和感が半端ない。昨日家に来た時からずっと思っていたけど、太陽さんのこのビジュアルに丁寧な口調は全く合っていない。波留くんの粗雑キャラも合っていなかったけど、負けず劣らずといった感じ……。
「いえ……。あの、太陽さんではなく、本当の名前は『葉鳥さん』なんですよね?他の皆さんもそれぞれ役じゃないお名前があるってことですか?」
「まあ、そうですね。でも……」
「太陽だけは特別で、あとはみんな混乱しないようにキャラ名で呼び合ってる」
聞いていたのか少し離れた場所から、月さんが口を挟んだ。
「すみません。ちゃんと、説明しますね。みんなナナヤ様からスカウトされてここに来たんですけど、役になりきるためこの世界では本名は使わない決まりになっているんです。まあ、役といっても略、素でやってる人がほとんどなんですけど。ただやっぱり咄嗟に、知らない名前がプレーヤーの前で飛び出したりしたら問題でしょう?俺だけはナナヤ様が最初に呼んでいたのがみんなに浸透してしまって例外になってしまいましたけど」
太陽さんはそこで一旦区切り、再び話し出す。
「月もそうですけど、葉鳥じゃなくて普段から太陽って呼んでいる人も居るので、俺に関してはどちらでも構いません。それで、この華旧水希の自宅はみんなが集まる本部となっています。広さも十分ですし、シナリオ上プレーヤーが入ることがないので都合がいいんです」
「変なこと聞きますけど、みなさんは……天使なのですか?」
「そんなわけないでしょ?」
再び、聞いていたのか月さんが間髪入れずにそう言って笑った。太陽さんが月さんを一瞥する。
「俺たちも転生待ちの死人です。死んでるから晶乃さんと変わりない。でも、魂には位があって貴方と違い穢れているので転生は貴方よりずっと後です。晶乃さんが天国に行けば、優先的に転生できるでしょう。ただ乙女ゲーの世界は人気が高いし条件もありますので、そんな世界に転生するのはかなり厳しいですけどね」
太陽さんがそう教えてくれた。さらっと穢れているって言ったけど、どういう意味なのだろう?……なんか怖い。聞かない方がいいのかもしれない。
「あの……転生先を選べるんですか?」
私は更に質問する。
「そのために、俺たちはこの仕事をしてるんです。神様の手伝いをしたらポイントが貰えるので、それを貯めて転生までの待ち時間を短くしたり、ビジュアルや転生先を希望のものに近づけて貰うことができるんです」
死んでから、ポイント制?驚きの事実だ。
「もうさ、オレはポイントなんてどうでもいいんだけど。実際、太陽もそうでしょ?」
月さんが言った。
「え?」
私は月さんと太陽さんを交互に見た。
「オレっていうかみんなこの世界やナナヤ様のことを気に入ってるから、ずっとここでゲームしていたいと思ってるんじゃないかな」
月さんは楽しそうだ。
「あのー、そろそろご挨拶したいんだけど」
「太陽は話が長いよぉ」
後ろから声を掛けられ、振り返る。さっき周囲に居た、見たことのない女性二人だった。一人は少し釣り目の大人っぽい美人、もう一人は背が小さくて愛らしい少女だ。
「そっか。二人とも彼女に面識ないんだったね。えっと、そっちの気の強そうなのが扇愛美。理成ルートに出てくる理成遊人のファンクラブ会長で、小さい小学生みたいのが加賀井の妹の更紗。彼女は当然、加賀井ルートで登場します」
「葉鳥、気の強そうとか余計なこと言わないでよ。晶乃ちゃん、愛美でいいからね。初めましてって言いたいとこだけど私的には全然初めましてじゃないんだよね。練習試合の時、体育館に私も居たんだよ。出番じゃないから、気づかれないようモブの中に潜んでたんだけど」
愛美さんが笑った。何等なく納得してしまう。あの時感じた、理成くんのファンの強い視線は愛美さんだったのかもしれない。
「あたしは初めましてだねー。小さいってみんなから言われるけど中2だよ。晶乃さんと二歳しか違わないんだよぉ?それに薫子よりは年上だし。あ、あたしのことも名前の更紗でいいからね」
「斉田晶乃……です。お二人とも、よろしくお願いします」
私はお辞儀をする。
「もう、そんなかしこまらないで。でも、そっか……。晶乃ってホントに可愛いんだね。なんかナナヤ様が好きになったのも分かる気がするな」
愛美さんがそう言った。私の顔が勝手に赤くなる。
「そーだねぇ。薫子は完全に失恋ね。ていうか最初から振られてるんだけどね」
更紗さんが困ったように笑って言った。
「白百合さんはナナヤ様のことが好きなんですか?」
私は先程のやりとりから、そうなのかなと思っていたけどタイミングを逃し、聞けずにいたことを質問する。
「んーー。説明がややこしいな。ナナヤ様なんだけどナナヤ様が演じている水希くんのことが好きなんだよね。ずっと水希くんと一緒に居るうちに、薫子は悲しいかなホントに彼のこと好きになっちゃったんだよねぇ」
更紗さんが答える。私は白百合さんの気持ちが分かる気がした。あんなに可愛くて格好いい水希くんとずっと一緒に居たら、惹かれてしまうのも無理はない。
「乙女が水希くんを選ぼうとすると本気で妨害したりしてさ。困ったもんだよ。それでも、ナナヤ様が心から乙女を好きになることなんて絶対ないから、安心してたんだろうけどねぇ」
なんて返していいのか分からない。私なんかよりずっと長い時間、ナナヤ様と一緒に居た白百合さん……。でも、私だって白百合さんに負けないくらいナナヤ様のことが大好きだし、大切に思っている。
「立ち話もなんだから、座ってお茶をどうぞ」
美麗先輩がそう言った。淹れなおしてくれたのか、湯気の上がった紅茶が載ったトレーを両手で持っている。月さんは美麗先輩にコーヒーを頼んだ。
私は広いテーブル席の椅子に座り、紅茶を一口飲む。体に染み渡る。とても美味しかった。
私の右にモブ男子、左に賢持先輩、正面に更紗さん、左斜め前に月さんが座っている。
太陽さんは先程「様子を見てきます」と言い、愛美さんと一緒にナナヤ様が居る方に行ってしまった。
「まあ、オレは最初っからどうもおかしいと思ったね。遊人がさ、初日から『俺がもっと頑張ればいいだけだから』って言ったんだよね。そんなセリフ、シナリオにないし、これまで聞いたこともない。最初っから君に惹かれてたんじゃないか?」
モブ男子が、そう言った。彼はゲームの中ではほとんど話をしない。こんなにはっきり物を言う人だと思わなかった。
「それを言うなら、弟の波留の方が問題です。晶乃さんが泣いたからってキャラ設定変更するとか前代未聞でしたよ……」
賢持先輩が冷静にそう言った。
「水希くんの告白のタイミングも早かったよねぇ。どんなに早くたってクリスマスのはずだし、なんかナナヤ様焦ってたみたい」
更紗さんが首を傾げる。
「オレが一番驚いたのは紫音が歌いだした時だ。あの練習の日、君の気配がしたから咄嗟に隠れたけど、実は俺の方が君より先に部室に来ていた。紫音って歌うキャラじゃないから、曲をプレゼントするのが正当なシナリオで、歌うなんてとても考えられなかった……」
月さんが腕組みをしながらそう言った。難しい顔をしている。
「極めつけは、水希の誕生日ですよ。あの日はここでミーティングしていて、晶乃さんが水希に電話してきたでしょう?その場に薫子さんが居まして、行く行かせないの攻防戦になったんですよ」
賢持先輩が言った。
「ああ、あたしも驚いた!!ナナヤ様、振り切って家飛び出してったんだよねぇ。瞬間移動出来るのに何か普通に走って行っちゃってさぁ……」
更紗さんがそう続けた。
「でも、ゲームはめちゃめちゃになっちゃったけれど、私は良かったと思います。ナナヤ様、とっても幸せそうです!!」
いつの間にか側にイコちゃんが居て、そう言った。
「晶ちゃん……。ここに晶ちゃんが居るのがすごく不思議です。でも、私嬉しい。演技じゃなく、今度は本当の友達になれますね」
イコちゃんがそう言って、私に笑いかける。私も頷いて笑った。
「美麗、おかわり」
そこで、月さんが美麗先輩にコーヒーカップを差し出した。
「仲がいいんですね」
私は言った。
「ああ……。俺たち付き合ってるから。演技じゃなくて」
月さんはあっさりとそう返した。
そっか……そういうこともある……よね。意外だけど、なかなかお似合いの二人だと思う。
「とりあえず、しばらく休暇にします。他の世界に移りたい方が居れば、それは構いません」
ナナヤ様がこちらに戻ってきて、みんなにそう言った。
「モブの方たちは分かりませんけど、少なくともここに居る俺たちは、この世界が無くならない限り留まり続けますよ」
太陽さんが言った。みんな穏やかな顔で笑っている。みんなも彼と同じ考えのようだ。
数日後、私とナナヤ様は再び学校の屋上に居た。あの日失敗した頬にキスのやり直しをするために。
この間と全く同じ情景で、夕日がとても美しかった。
「そういえば、最初に私が『ノーマルな学園もの』を選ばなかったら、この世界に来ることはなかったのですか?」
私は今更だけど、ふと疑問に思っていたことを聞いてみた。
「そうですね……。別なゲームの世界の担当と交代していました。もしくは、ゲーム自体強制ではないので、拒否した場合は天国に直行もありでした」
あんなに気軽に聞いてきたけど、選択によってはナナヤ様とあの一瞬でさよならする可能性もあったのだ。
考え込んでいる私にナナヤ様は続けて言った。
「でも、十中八九貴方はこの世界を選ぶだろうと思っていました。だから私が迎えに行ったのです」
神様だけあって、最初から分かっていたらしい。でもさすがのナナヤ様もこんなことになろうとは予測できなかったと思う。これまで何度、想定外だと言われただろう。
「あの……七哉くん、無理しなくても大丈夫ですよ?」
私はそう言ってナナヤ様の美しいブルートパーズの瞳を見つめる。
「……無理はしていません。貴方のことを愛しています。心から……」
ナナヤ様は目を反らさず私を見ている。私は目を閉じる。
10秒くらい待った。
ナナヤ様からのキスは一瞬だったけれど、優しく……これ以上ないくらい温かかった。
「どうして?」
私は思わず目を見開く。
「学校、一緒に行こう」
目の前に理成くんが居た。私が驚くのも無理はない。ここは自宅の階段。突然現れた理成くんは夢見学園の制服を着ている。
「……七哉くん……ですよね?」
私は理成くんをまじまじと見つめる。
「あの真の姿は緊張して体がもたないし、精神衛生上悪すぎるから、しばらく攻略対象の姿で居ようかと思って。それに箍が外れて何をしでかすか自分でも分からない。晶乃、中が俺なら外見は誰でもいいって言ったよね?」
口調もすっかり理成くんだ。
「それとも波留のほうが落ち着くかな……」
そう言うと、ナナヤ様はいとも簡単に理成くんから波留くんへと変わった。
「あ、でもこれでは一緒に学園へは通えませんね。こういうこともできます」
今度は波留くんが一瞬で高校生の姿になった。成長してもアシンメトリーの髪型は健在。もともと美少年なので、変わらず美しい。
この状況は何なの?サービスが過ぎる……。もう、はっきり言って頭が付いていかない。
「……これではいけない関係なので、義理の姉弟ってことにしましょうか?」
波留くんは私にお構いなしで微笑む。もう設定から何から滅茶苦茶だ。
ナナヤ様、余裕綽々で遊んでいるとしか思えない。
私は対抗して、少し無理なことを言ってみたくなった。
「もしかして、加賀井さんも高校生になれますか?」
波留くんが一瞬困惑した表情の後「分かりました」と言って加賀井さんに変わる。
「これでいいだろ?」
高校生の加賀井さんは大学生の時より少しだけ背が低く、当然顔も幼かった。とても新鮮。夢見学園の制服を着ているのが不思議だけど、とても似合っている。
「制服姿、とっても素敵です」
「どうでもいいけど俺、この学園の卒業生じじゃねーし」
「もうこの際、そんな設定無視です」
「まあ、そうか」
加賀井さんは笑った。
「もう、こうなりゃ他も会っとくか?」
加賀井さんが今度は南波会長に変わった。
「そろそろ出ないと遅刻する」
会長が自分の腕時計を見てそう言った。相変わらず大きな眼鏡が綺麗な顔を容赦なく隠している。
「会長の眼鏡、借りてもいいですか?一回かけてみたかったんです」
「遅刻すると言っている。……聞こえていないのか?」
「貸してください」
私は会長の真ん前で強気の姿勢に出る。もう、会長の厳しい口調なんて全く気にならない。
会長は眼鏡を外し、渋々私に差し出す。結局会長は甘い。眼鏡をかけてみると、思っていた以上に度が強くてくらくらした。無防備な美しい素顔を晒した会長はため息をつく。そういえば、彼に一つ聞きたいことがあった。
「会長……夏休みに具合が悪かったのって、本当にお芝居だったんですか?」
「え?……勿論……シナリオ通りだ」
会長は、動揺しているのか急に視線を反らした。なんて分かりやすい。多分、無理をさせてしまっていたのだろう。本当に申し訳なく思う。
南波会長から流れるように紫音さんに変わった。私に眼鏡を預けたまま。
私は紫音さんに眼鏡を渡す。
「オレ……目悪くないから」
それはそうだ。まるでコントをやっているみたい……。
「紫音さん、また私に歌を歌ってください」
私は言った。
「……オレ、ホントは歌うキャラじゃない」
「月さんから聞きました。でも、とっても素敵でしたよ」
紫音さんは赤くなり俯く。そして、その表情のまま水希くんに変わった。水希くんには直接伝えたいことがあった。
「水希くん、ずっとずっと言いたかった。私、水希くんのことが大好きです!!」
「……分かっています」
水希くんはますます赤くなり、嬉しそうに微笑んだ。
もう遅刻は確定だった。ナナヤ様は水希くんから弟の波留くんの姿に変わっていた。
「結局誰になろうと、精神衛生上良くないのは変わらないですね。……心臓に悪い」
波留くんが言った。幼い姿でそのセリフは違和感があった。
「恋愛って、多分そういうものです」
私は精一杯背伸びして、そう返した。
「それで結局、今日はどなたをご所望ですか?」
波留くんが首を傾げて訊ねる。何度も何度も言っているのに、まだ聞きますか?これでは、完全に振出しに戻っている。
私はため息をついて思わず叫んだ。
「だから、1人になんて決められません!!」
……というわけで、古典的な感じで締めてみました。
最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました。
評価、感想等いただけたら大変ありがたいです。




