↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/25

24話 あの子もこの子もその子も


ファミレスの窓を真夏の陽射しが白く照らしていた。


冷房は効いているはずなのに、店の外を歩くだけで溶けそうな暑さだ。


夏休み。


学生にとっては天国みたいな響きだが、俺にとってはそうでもない。


なぜなら。


「それでですね、その後の試合も見たんですけど」


「聞いてる」


「絶対聞いてないですよね?」


「聞いてるって」


向かいの席から青海みなもがじとっと睨んでくる。


右を見る。


「で、最後のシュートなんだけどよ」


「聞いてる」


「お前さっきからそれしか言ってねぇぞ」


轟木明加里が呆れたように言った。


左を見る。


「全国大会の日程、もう発表されたらしいわ」


「聞いてる」


「久瀬くん?」


白咲楓が微笑んだ。


怖い。すごく優しく微笑んでいるのに怖い。


「……なんで俺が説教されてるんだ」


「されてないです」


「されてねぇな」


「されてないわ」


三人とも即答だった。


絶対されてる。


俺はアイスコーヒーを一口飲み、深くため息を吐いた。


夏休みに入ってからというもの、この四人で集まる機会が妙に増えた。


理由はよくわからない。いや、本当はわかっている。

わかっているが認めたくない。


「しかしまあ」


轟木がストローをくわえながら言う。


「本当に行っちまったな」


その言葉に、テーブルの空気が少しだけ静かになる。


誰のことかは聞かなくてもわかった。


黒羽湊。


全国大会へ進んだバスケ部のエース。


「調子良さそうだったわね」


白咲が小さく笑う。


「そうですね」


青海も頷く。


少しだけ。本当に少しだけ寂しそうに。


「むかつくくらいですけど」


「お前な」


思わず突っ込むと、青海はぷいと顔を背けた。


「事実です」


「応援してたくせに」


「してません」


「してた」


「してません」


「してた」


「……してました」


最後だけ声が小さい。


轟木が吹き出した。


「素直じゃねぇなぁ」


「轟木先輩には言われたくないです」


「はぁ?」


「試合終わったあと五分くらいスマホ眺めてたじゃないですか」


「おまっ……!」


轟木の顔が真っ赤になる。


図星らしい。


白咲がくすくす笑った。


その笑顔を見て、俺は少しだけ安心する。


少し前までなら考えられなかった。

三人とも。


それぞれ違う形で前を向き始めている。

もちろん全部が解決したわけじゃない。


轟木はまだ後悔を抱えている。

青海は今も苦しんでいる。

白咲だって、完全に吹っ切れたわけじゃないだろう。


それでも。

あの日よりずっといい顔をしていた。


「そういえば」


不意に白咲が言った。


「私たち、なんで久瀬くんに相談したのかしら」


嫌な予感がした。


轟木が俺を見る。

青海も見る。


やめろ。三人同時に見るな。


「断れなさそうだったから」


轟木が言った。


「ちょろそうでしたし」


青海が続く。


「優しかったから」


白咲が微笑んだ。


「評価がバラバラすぎるだろ」


思わず突っ込む。


三人が同時に笑った。


その笑い声が妙に心地よかった。


不思議だ。

最初は面倒事に巻き込まれただけだったはずなのに。


今ではこの空気が少しだけ居心地いい。


「久瀬くん」


白咲が呼ぶ。


「ん?」


「ありがとう」


轟木も。


「まあ、その……助かった」


青海も。


「感謝はしてますよ。一応」


三人とも、少しだけ照れ臭そうだった。


俺は頭を掻く。


「だから俺は何もしてないって」


本心だった。


ただ放っておけなかっただけだ。

後悔してほしくなかっただけだ。

俺自身が後悔していたから。


「またそういうこと言う」


白咲が呆れたように笑う。


「本当に損な性格してるわね」


「余計なお世話だ」


返した瞬間、また笑い声が広がった。


窓の外では蝉が鳴いている。

真っ青な空。どこまでも続く夏。


もう誰も、あの日には戻れない。


失ったものもある。傷つけたものもある。


消えない後悔だってある。


それでも。


「先輩」


青海が言った。


「これからも相談乗ってくださいね」


「まだあるのかよ」


「あります」


「あるな」


「たくさんあるわ」


三方向から断言された。


俺は天井を仰ぐ。


「勘弁してくれ……」


三人が楽しそうに笑った。


その声を聞きながら、俺も少しだけ笑う。


止まっていた時間は、もう動き出している。


ゆっくりと。騒がしく。面倒くさく。


だけど悪くない。そんな夏だった。


──あの子も、この子も、その子も。


みんなあいつの元カノだ。


だけど今は──同じ夏を過ごす友達だった。

完結です。ここまでありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。