ゴーレムロボットで一儲けを
もう、深夜の時間。俺は自分の部屋で作業をしていた。
小さな塊をカチャリとはめ込む。
すると、ウィィィィンという音ともにローラーが回った。
「うおおおおおし!出来た――――!!!」
俺は深夜の時間だというのに大声を出してしまった。
「うるさいわよ!今何時だと思っているのよ!!!」
隣の部屋で寝ていたであろう、シエスタが俺の部屋の扉をバタンと開けると文句を言いに飛び込んでくる。
時計を見ると、時間はすでに3時を過ぎていた。確かにこの時間にこの声は悪いとは思った。
しかし、俺としても大発明なのだ。こればかりは声を上げずにはいられない。
「悪かったよ。ただ、つい嬉しくて声を出しちゃったんだよ。」
俺はシエスタに一応謝る。
シエスタはパジャマ姿で眠そうな目を擦りながら俺に近づいてくる。
「何を作っているのよ。どうせ、あんたのことだからエッチな道具とか作ったんでしょ?」
「作らねえよ。というか、作ったところでこんな大声出さねえよ。別に大して難しいモノじゃないだろうし。」
確かにその手の道具も男向けなら需要がありそうだなと思う。
今度、考えてみることにするか。
この女にしては珍しくいい案を出してくれたと思う。
って、そうじゃない…。
「これだよ、見てくれよ!」
俺は小さな車輪の付いたミニカーを見せた。
暇つぶしに作ったモノだ。
「何よ、これ?ただの車のオモチャじゃない?」
シエスタが訝しげに見る。
俺は、まだ何も理解していないシエスタに自慢気に言う。
「まあ、見ていろって。この世界の道具って、基本は魔法で動くだろ?」
「それはそうね。魔法の世界なんだから。」
何を言っているんだ、コイツはみたいな目で俺を見て来る。
本当に物分かりの悪い女だと思う。
俺は、ミニカーの裏側を開けるとシエスタに見せる。
シエスタは目を細めながらそれを見つめる。
「モーターだ。これで、魔法を使わなくても機械を動かせるようになるぞ。」
俺の自慢気な言葉にシエスタは特に驚きもない表情をしていた。
あれ?割と大発明な気がするのだがこの女的にはそんなことはないのだろうか。
「別に魔法でモノが動くのにわざわざモーターとか電池って作る意味あるの?」
首を傾げなら俺に尋ねて来るシエスタ。
俺は分かってないな、とばかりに説明をする。
「魔法を使わなくても使えるんだから大発明だろ。この世界の道具はどれも魔力が切れると動かなくなるんだし。かといって、それも使う側のMP量とかに依存しているんだからな。これを使えば、そんな懸念点はなくなる。まあ、充電を魔力で行わないといけないってのが1つの欠点なんだけどな。」
俺はそう言うと、ミニカーの裏側に付けていたモーターを取り出した。
大きさとしても日本でよく見ていた乾電池くらいの大きさに収めることが出来た。
「でも、それを何に使うのよ。今更、魔法で動く道具が流通しているこの世界でこんなモノを売ったところで大した利益になるとは思えないけど。」
シエスタが小馬鹿にしたような表情を見せながら俺に言う。
俺はどうせ言うだろうな、と先に予測していたので部屋にしまっていたある試作品を出してきた。
大きさ的には俺よ少し大きいくらいだろうか。鉄で作ったロボットである。
「これにこのモーターをはめる。」
俺は、コンコンとロボットを叩きながらシエスタに説明する。
シエスタはやはり理解出来ていないのか不思議そうに首を傾げる。
寝起きだから頭が回っていないのか、と思ったがこの女は普段からこんな感じだから別にいつも通りな気がする。
「この世界にはゴーレムはある。命令すれば言う通りに動くのがな。ただ、結局それはゴーレム生成のスキルを覚えないと出来ない。そして、ロボットなんて作ったところで魔法で動かそうとするとトンデモない量のMPを消費してしまうんだ。つまり、お手伝いロボット的なモノは作れないのが現状だ。」
俺は眠そうな顔で興味なさそうに聞いているシエスタに熱弁をする。
そんなことより、眠いから早く眠らせろといった顔だ。
張り倒して、その眠そうな顔を起こしてやろうかと思った。
「そこで考えたのがモーターで動くロボットだ。命令通り動かす方法はゴーレム生成のスキルを使っているけど、ロボット自体は俺の鍛冶師スキルが無くても作れるレベルだ。というか、俺のスキルだと見た目がどうしても同じになるから見た目を変えるとなるともう1つ工程を挟むことになる。」
そこまで聞くと、シエスタが大きく欠伸をした。
これだから知能が低い駄女神はいけない。
話が分かりそうなエレナ辺りにでも熱弁するとしよう。俺も正直言って、作り終わったからか疲れで眠気が出てきている。
朝の草刈りまで一度睡眠を取りたいところだ。
「よく分からないけど、それで美少女ロボットとかも作れるの?」
シエスタがポツリと俺に尋ねた。
確かに、それはもちろん考えている。
というか、それが最終目標とも言える。あまり、極端なモノを出すとライア辺りに規制されそうなのが少し怖いが…。
「そうだな、少し試してみるか。」
俺は時計を見るとすでに朝の4時を回っていることに気づいた。
思ったより、長く話をしすぎたようだ。
俺はロボットにモーターをはめる。音が鳴ると、ロボットの目が光り立ち上がった。
「何か、鉄の塊だから不気味ね。」
シエスタが恐怖からか俺の背中に隠れながら言う。
この見た目だけはどうしようもない。まだ試作段階だからそれは許して欲しい。
「このロボットには草刈りをさせる命令を組み込んでいる。今から、コイツに庭の草刈りをさせよう。」
俺はそう言うと、ロボットに動くように指示をする。
ロボットはその指示を聞くと、ゆっくりと歩き出す。
「でも、結局ゴーレムスキルが必要なんでしょ。その時点で欠陥じゃないの?」
ロボットの後に続いて歩く俺にシエスタが尋ねる。
「そこはしょうがない。それこそ、日本で流行っていたAIとかがあればいいんだけどな。そんなモノはないから作るか代用しかない。正直言って、作るのは手間と時間もいるしそもそも成功するか分からないから今は代用で我慢だ。」
最悪、大量生産となればゴーレムスキルを持っている人間を雇ってしてもらえばいい。
このスキルを教えてもらうために、1週間の飲み代を我慢したのだ。
正直、すでにそれなりの手間暇がかかっている。
庭に出た俺達はロボットがしっかりと草刈りをしてくれるか観察を始めた。
今のところは順調に草を刈っている。
正直言って、俺が眠くて頭があまり回らない状態でするよりも効率がいい気がする。
ましてや、隣にいる無駄に雑草を生やし始めるおかしな能力を持つ女がいないお陰でさらに効率が良くなっている気がする。
「普通に動いているわね。」
シエスタが感心しながら言う。
当り前である、ここまで来るのに割と実証実験を自室の中で何度かしたのだ。
暴走とかも起きなかったのでこのまま商品化してもいいような気もする。
ただ、いきなり商品化となると不具合が起きた時に信頼に関わる気がするのでライアに頼んでこの城の人間に希望者を募って使わせてみようかと思う。
本来売る値段よりも半額以下で使わせればそれなりに今の段階でも小銭稼ぎにはなるとは思う。
「…おはようございます。何をされているんですか?」
後ろからユキネの声が聞こえてきた。
ぞろぞろと庭掃除をするために城中の魔族達もやって来る。全員が謎に草刈りをするロボットに目が釘付けになっていた。
「俺が開発したお掃除ロボットだ。試作品だけど、しっかりと動くから今度からあれに草刈りをさせようと思っている。」
俺はユキネに説明をする。
「…お掃除ロボット、ですか?聞き慣れない単語ですけど。まあ、でも便利そうですね。」
ユキネも興味津々とばかりにロボットを眺めている。
「ねえねえ、ヒロトさん。ヒロトさん。私にも1体欲しいわ。あれで私の部屋の掃除をさせたいの。」
シエスタが俺の肩を叩くと言う。
まあ、作るのは全然構わないがレンタル料は欲しいところだ。
「いいぞ、お試しで1体作ってやるよ。その代わり、金は貰うからな。」
「いいわ、今週の飲み代で許してあげる。」
「よし、契約成立だ。」
俺はシエスタと握手を交わす。
後は、ライアに頼むだけだ。
俺はそう思うと、どうライアに言おうか頭の中で思考を巡らせた。-
-「お前の作ったロボットを城の者にレンタルをさせたい…?」
仕事をする机に座っているライアが俺に聞き返す。
「うん、ユキネから聞いたかもしれないけど言うことを聞いてくれるロボットを開発したんだよ。それで、試作段階のロボットを城で使ってもらおうと思って。」
ライアはそれを聞くと、かなり悩んでいる風だった。
今回に関しては特に何かおかしなことは考えてない。純粋に商品化のための前段階として使用期間を作りたいだけだ。
「まあ、それは構わないが。ユキネからもかなり仕事が出来ていたとは聞いているし。何なら自分よりも出来ていて凄いとまで褒めていたな。」
「試作段階のロボットに負ける仕事ぶりのメイドとか大丈夫なのかよ…。」
俺は不器用なユキネを心配すると、ライアにツッコむ。
ただ、確かにユキネに皿洗いさせるくらいならあのロボットにさせた方がしっかりと皿を割らずに洗ってくれるとは思う。
「まあ、別に今回のお前の言葉的に怪しい考えがあるわけでもないから許すとするか。」
ライアは俺が何か企んでいないか、不安そうな目で見ながら渋々と了承してくれた。-
-それから、1週間くらいが経っただろうか。
レンタル料でかなり俺の懐は潤っていた。
城の魔族達からも好評で、このまま商品化に向けて大量生産のための生産ラインを確保する必要があるとまで思っている。
あとは、以前からの懸念点である見た目である。
そちらも、雇うなりすれば何とかなるとは思う。
その時だった。部屋の外から大きな足音が聞こえてきた。
シエスタ辺りがまた何か手伝えと言って殴り込んでくるのだろうか。
そんなことを想像していると、扉が思いっきり開かれた。
外からは顔を真っ赤にして怒り心頭とばかりのライアが入ってきた。
「おい!ヒロト!これはどういうことだ!」
俺はあまりもの剣幕に思わず寝ていたベットから転がり落ちてしまう。
一体、この女は何をそんなに怒っているのだろうか。少なくとも、今回に関しては俺は何もしていないはずだ。
「何だよ、急に!ビックリするだろ!」
俺は突然の出来事にライアに言い返す。
「ふざけるな!お前の作ったロボットがこんな写真を撮っていると女性陣から報告があった!」
そう言うと、数枚の写真を見せて来る。
どれも、更衣室だったりといった女性しかいなさそうな場所を撮影したものだ。
「いや、知らねえよ。俺は何も関与していないぞ。」
心外とばかりに俺は言い返す。
こんな写真を撮って来るような命令を加えた覚えはない。
それをきくと、 ライアが少しばかり紅潮させていた顔が元に戻っていた。
「そ、そうなのか。いや、この事件の首謀者のダンカンがお前の作ったロボットで撮ったと白状していたからてっきりお前が元凶なのかと思っていたのだ。」
「何してんだよ、あのオッサン!マジで俺は何も関与してねえよ!」
ダンカン、例の警察隊の長官を務めているライオン男だ。
何度か城でも会って話しているが中々にスケベな男であることは分かっている。
恐らく、ロボットに命令をして更衣室に侵入させて写真を撮らせていたのだろう。
何をしているんだよ、あの人は本当に…。
「しかし、お前がロボットの命令をしているんじゃないのか?」
ライアが俺に尋ねる。
どうやら、ライアは俺がロボットの命令を全て行っていると勘違いしているらしい。
いくら何でも作って命令までも行うのは骨が折れる。
そこで、ゴーレムスキルの持つ人間を一時的に雇って命令はすべて彼らに行わせていた。
恐らく、ダンカン辺りは彼らに頼んで命令を書き換えて貰っていたのだろう。
まあ、想定していたことではあるが実際に行われるとは思っていなかった。
「正直、こんなことが起きてしまってはロボットを売り出す話は少し待って欲しい。」
ライアが真面目な表情になると俺に言ってきた。
それは流石に待って欲しい。すでにいつでも商品化出来るように何体か作ってしまっているのだ。
今更、中止はいくら何でも酷い。
「いや待ってくれよ!今回は俺は悪くないだろ!」
「そうだな、お前は悪くないな。お前は、だ。だが、それを買った者が悪さをしないように法整備をする必要がある。それもすぐにだ!」
ライアはそう言うと、毅然とした態度で俺に言ってきた。
俺はそこを何とかと縋りついたが、聞く耳を持っていてくれなかった。
その後、ライアとエレナが『ロボット使用の禁止事項』などという物々しい法律を作り出すのはまた別の話である。




