タコ焼き屋、始めました
俺は、部屋で寝転びながらモグモグとタコの唐揚げをつまんでいた。
少し前のキングアーケロンの足で作った料理だ。
料理スキルを手に入れたおかげで、城の厨房を使えば一通りの日本で食べたことのあるような料理は作れるようになっていた。
「ねえ、ねえ。流石に毎日はタコ料理は飽きたわ。もっと、別のつまみ料理はないのかしら?」
どこで手に入れてきたのか謎の酒を飲みながら、シエスタが俺に言う。
ここ数日、毎日何かしらのタコ料理を手を変え品を変えて調理して消費していた。
「うるせえよ。文句言うならお前が作れよ。これでもまだ、3分の1も減っていないんだぞ。」
俺もシエスタも一部の魔族のように無限の胃袋をしていない。
毎日、チビチビと切り分けて2人で食べていたのだが流石に飽きが来たのかシエスタが文句を言い出した。
確かに、俺も飽きてきた。
流石に、料理スキルを覚えたとはいえ城にある道具はフライパンや鍋くらいだ。
焼くか煮るか揚げるかで、味付けの種類を変えるくらいしかバリエーションはない。
「というか、そんなに飽きたのなら城の奴らに分ければいいだけだろ。」
俺はシエスタに提案をする。
シエスタは首を横に振る。
「イヤよ。せっかく私が獲ってきたタコ足よ。1人で消費したいじゃない。」
「食べきれずに腐らせる未来しか見えねえよ、今のままだと。」
俺は呆れながらシエスタにツッコむ。
城の人間にも行けなかった分として配られてはいた。
そのために、大きな馬車を使ってライア達が海からはるばるこの城まで運んでいたことは俺も見ていたから知っている。
そのせいか、城の冷蔵庫には大量のタコ足がストックされていて城の人間達も毎日タコ足生活になっているらしい。
「毎日健康タコ足生活とか、そんな売り文句で商売出来たらいいんだけどな。」
俺は唐揚げを一口頬張りながらつぶやく。
シエスタは酒瓶を床にドンと置くと俺の案に口を挟む。
「そんなことしたら、痛風でみんな倒れちゃうわよ。まあ、私としては魔王軍を機能不全に追い込めるからいい案だと思うけど。」
「毎日、酒ばかり飲んでいる女に痛風だの何だの言われたくねえよ。」
俺は酔い始めて顔が赤くなりつつある自称女神に言い返す。
気づいたら酒を飲んでいるコイツはもうお酒の神様とかそんな感じでもいいだろと思う。
まあ、別に酒を作れるわけではないのでただ酒を飲むだけの穀潰しでしかないが…。
「しかし、本当にあの大量のタコ足を何とかしないとな。城での食事も何かしらタコが入っていて、気づいたらタコ足恐怖症になりそうだ。」
由々しき問題だと思う。
最近だと、流石に連日のタコ足料理のためにシェフ達に文句も届いているそうだ。
それはそうだよな、と思う。俺だって文句を言いたい。
「何か、あんたの小賢しい知恵で何とかできないの?」
シエスタが酒をちょびちょびと飲みながら俺に言う。
小賢しい知恵、とは何だと言いたい。
何も考えずに文句しか言わないお前よりは何倍もマシだろう。
「うーん、城下で店開けるとかだったらタコを売り捌くとか方法はあるんだろうけど。正直、ライア達って城下の人間にも配っていたよな。」
「配っていたわね。でも、城下の子達だとまともに調理出来る手段がないから生のまま食べていたわね。」
調理くらいすればいいのにと思う。
別に、大したスキルではないんだから。料理スキルなんて。
「待てよ、ということは調理したタコ足なら売れるということなのか?」
俺はふと考えが浮かんだ。
うん、何かいい案が浮かんできたする。
「ナニナニ?また儲け話でも考えたの?」
俺の表情を読み取ったのか、シエスタが酒瓶を片手に俺に近づいてくる。
正直、コイツに話してもまたヘマをされる未来しか見えない。
「俺の鍛冶師スキルで道具を作れればの前提だけどな。あとは、火力さえ調整出来れば十分可能な気はする。」
俺はシエスタを無視して小声でつぶやきながら、考えをまとめていた。
うん、あとはライア達から了承さえ得ることが出来ればいい儲けになる気がする。
簡単な話、飲食店を出すだけだ。別に違法でも何でもない。前のアパート作戦とは話が違う。
「シエスタ。お前にも儲けを少し分けてやるから、俺が頼んだ食材を大量に仕入れて来い。俺は、今からライアに許可を取りに行くから。」
俺はそう言うと、立ち上がった。
シエスタは俺の言葉が理解出来ていないのか、首を傾げていた。-
-「いらっしゃい!いらっしゃい!キングアーケロンの足で作ったたこ焼きよー!安いわよー!!!」
陽ざしの強い炎天下の昼間にシエスタの声が響く。
俺は、即席で作ったテントの中で大量のタコ焼きを作っていく。
タコ焼き器は鉄を貰い、それを加工して作った。火力に関しては、とりあえず火属性魔法のファイアで威力を調整すれば何とかなっている。
ただ、いちいち加減を考えなければいけないのが面倒だ。
出来たら、電池とか作るなりして日本のタコ焼き器のような道具を作りたいのだがそちらはまだまだ要検討状態だ。
とりあえず、タコ焼きを作るだけならこのレベルの火力で何の問題もない。
「はーい!ありがとうございます!お代は100ベリーよ!」
シエスタが行列の出来ている列の1人1人に6個入りのパックに入ったタコ焼きを渡していく。
俺の隣ではユキネが生地を作ってくれている。
「大盛況ですね。」
エレナが声をかけて来た。隣にはライアもいた。
俺は首にかけていたタオルで汗を拭う。
「おう、おかげさまでな!これでタコも消費出来て一石二鳥だ。」
ついでに、いい小銭稼ぎにもなる。
タコの入手自体はほとんどタダと言ってもいい。加えて、生地の材料費も大して高くない。
1パック、100ベリーでもかなりの利益が見込める。
客側に飽きが来れば、味を変えてやればいい。多少、原価は上がるかもしれないがそれでも大したことはないだろう。
「しかし、これがお前の以前いた国で食べられていた料理なのか。真ん丸な形なのだな。」
ライアが不思議そうにタコ焼きを眺めている。
「この行列に並べば買えるぞ。流石に安くとかは出来ないけど、100ベリーだったら大した値段じゃないだろ?」
この世界の貨幣の単位はベリー、と言うらしい。1ベリーで日本の1円に相当する。
日本で100円でタコ焼きを売ったとしたら相当安いだろうなと思う。というか、原価考えても赤字は確実だろう。
これで利益がしっかり出ているのだから、異世界の物価は恐るべしである。
「そうだな。少しばかり並んでみようかな。」
ライアはそう言うと、エレナと共に列の最後尾に並ぼうと俺達の元を離れた。
「悪いな、ユキネ。手伝ってもらって。」
俺は横で生地作りに勤しむユキネに礼を言う。
「構いませんよ。ちょうど、暇をしていたので。」
ユキネが静かに答える。
本当はユキネに手伝ってもらう予定はなかったのだが、あまりにもシエスタが使えなさ過ぎて手伝ってもらうことにした。
ユキネも大概、不器用だが少なくとも頼んだことはそのまましてくれる。シエスタに関してはよく分からない調味料を勝手に混ぜ始めるので売り子に専念させてある。
「しかし、流石に数日も経つと混み具合も収まって来ているなー。」
俺は行列を見ながら、つぶやいた。
ここで出店のような形で店を構えてから、5日ほど経った。
初日から3日くらいにかけてはそれはそれは大盛況で休む暇もないほどだった。
しかし、流石に5日も過ぎると客側も飽きが来たのか客足が減っているように感じる。
そろそろ、何かしらの対策を講じる必要があるなと思った。
「どうも、買いに来ましたぜ。兄貴。」
そんなことを考えていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
俺は声の方向を見た。
そこには茶髪の少年が立っていた。確か、以前一緒に鰻退治をした警察隊にいたソルベとかいう名前だっただろうか。
「いらっしゃいませ!何個買いますか?」
俺は接客モードでソルベに言った。
ソルベはそれを聞くと、何個にするか少し考えていた。
この男は、初日から定期的に買いに来てくれる客であった。城で会う時も比較的好意的に接してくれている気がする。
「とりあえず、10個くらいで。しかし、だいぶ客足も収まりましたね。」
「まいどー!」
俺はそう言うと、シエスタに視線を送る。
10パック、袋に入れてソルベに渡してやれと。
「あら?この前いた失礼なクソガキじゃない?」
シエスタが袋にパックを詰めながら、ソルベに気づくと言った。
そういえば、初めて会った時にお互い喧嘩していたなと思い出した。
「何だ、虚言壁の女じゃねえか。兄貴に顎で使われているのか。」
フン、と鼻で笑いながらソルベがシエスタに言う。
シエスタが見上げるようにしてソルベに距離を詰めると、睨みながら言い返した。
「あらあら?手伝ってあげてるの。この男のためにね。ちゃんと、バイト代も出ているから稼いでいるのよ。」
「仮にも警察の俺に稼ぎで自慢して来るとか立場を弁えろよ。」
そう言うと、再びシエスタを鼻で笑う。
「キ――!この男、許さないわ!」
我慢の限界とばかりに、シエスタが飛びかかる。
「お前は客と喧嘩する前に、商品を捌け!バイト代出さねえぞ!」
仮にも買いに来た客と喧嘩をするとか言う日本なら即クビになりそうな行動を平気でするアホ女神を殴ると、俺は客の方を指さした。
シエスタは痛そうに頭を擦ると、悔しそうにソルベの方を睨んでいた。
俺はそんなシエスタを無視して、タコ焼き作りに勤しむ。しかし、本当に客足が収まりつつある。
何か対策を考えないといけない。真剣に俺は考え始めていた。-
-それから、1週間が過ぎただろうか。
あれほど城の冷蔵庫にストックされたタコ足もほぼ完全になくなっていた。
そろそろ店も終わりかなと思った。
それなりに稼げたのでいい商売になったと思う。
そんなことを思いながら、ここ数日働きづめだった疲れを癒すために俺は自室のベットの上で寝転んでいた。
「ちょっと!クソオタク!いるかしら!」
バン、と部屋のドアが開かれるとシエスタが勢いよく入ってきた。
後ろにはライアとエレナ、そしてユキネもいた。
4人とも顔が険しかった。
「1つ聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
シエスタが寝転んでいる俺に尋ねてきた。
俺は嫌な予感がして起き上がった。
「何だよ、いきなり?」
俺が聞き返すと、シエスタが1枚の写真を見せてきた。
俺はその写真を見た。その写真は以前、海に行った際に水着姿になっていたシエスタの写真だった。
「何だよ、この写真?」
「この写真に見覚えがないかしら?」
ずいっとシエスタが俺に近づけて来る。
ライア達3人も同じように冷たい視線を向けて来る。
「…見覚えはないな。」
「あら、そう?あんたが売ってたタコ焼きの特典に付いていたらしいのよ。それも男性限定で。こんな写真、撮っているとしたらあんたくらいしか思いつかないんだけど。」
俺はその言葉を聞くと同時に、窓の外から逃げ出そうとした。
確かここは2階のはず。飛び降りても大怪我はしないはずだ。
俺が窓を開けて、飛び出そうとした時だった。
下の庭にはずらりと兵士達が待ち構えていた。
「さて、ヒロト。話を聞こうか?」
ライアが以前聞いたことの冷たい声で俺に問いかけてきた。
事情は簡単だ。客足が減って、売り上げは減りつつあった俺はタコ焼きに付加価値を付けようとしたのだ。
それは、以前に海に行った際にコッソリと撮ったライア達4人の水着姿の写真が確率で当たります、という広告を男性の購入者限定でコッソリと入れておいたのだ。
そこからは、何としてでもその写真をゲットしようと男の購入者が激増したのは言うまでもなかった。
初日と2日目を超えるレベルの売り上げを記録して、瞬く間に完売するという偉業を成し遂げた。
「なるほど、ガチャシステムね。よく考えつくモノね、そんなこと。」
シエスタが腕を組みながら正座をさせられて地面に座っている俺に言う。
「一体、いつこんな写真を撮っていたのとかどうやって男の方限定に売っていたのとか色々と聞きたいことはたくさんありますけどね…。」
エレナが同じように自身の水着の写真を見ながら俺に言う。
しかし、どうしてバレたのだろうか。今回はシエスタには言っていなかったはずだ。
「どうして、バレたのかって不思議そうな顔をしていますね。」
ユキネが静かに俺の考えを読み取って言った。
その後、ユキネからどうしてバレたのかの話を知った。
そもそも、5日目以降から急に客足が増え始めたことに違和感は感じていたという。
そこで、コッソリと男性の購入者達の話を盗み聞きしていたらしい。
すると、集団で購入して当たりが出るまで買い続けるという転売屋集団みたいなモノの存在を知り、事情を知ったという話である。
「で、言い訳したいことはあるか?」
ライアが俺を見下ろしながら、先程の冷たい視線を変えずに言う。
俺としては逃げる場所もないので、そのまま黙っているだけだった。
「まあ、いいわ。私達の水着写真を売っていたのは。しょうがないわよね。美しい私にみんなが欲情しちゃうのは仕方がないことだもの。」
ライア達の前に出てきたシエスタが突然そんなことを言い出した。
すると、シエスタは怒りだしたかのように声を大きくして騒ぎ始めた。
「許せないのは、私に黙って儲けを独占していたことよ!あんた、私のバイト代そのままで自分だけ着服していたのね!」
「おい!シエスタ!違う、そういう話じゃない!というか、論点がすり変わっている!」
シエスタが想定外のことで怒りだして、ライアが慌てたようにシエスタを止めようとする。
そして、再び俺の方に視線を戻す。
「とりあえず、この写真は没収とする。そして、この写真を売り出して以降の儲けは全てこちらで回収だ。」
残酷な一言を俺に放ってきた。
こうして、俺の1週間の儲けは半分以下となってしまった…。




