第74話 明かされる驚愕の真実 伝説の名医の誕生
アスラはキーガンの胸倉を掴み真実を話す。
アスラ「お前は確かに神の腕、ドイツの医学の奇跡と呼ばれていた。それは紛れもない事実だ。だがお前はドイツの病院で初歩的な手術に失敗し、そこから自信を失い、地位と名声は地のどん底に落ちて行ったのだ」
キーガン「う、嘘だ・・・わ、私は実力を買われてドイツの病院で引っ張りだこに・・・」
アスラ「違う。手術を失敗し続けるお前は病院を追われ、ドイツの病院をあちこちと転々としていたのだ。だがどこへ行っても失った自信を取り戻せず失敗続き、見兼ねた院長が知り合いのツテで日本の病院を紹介した」
キーガン「ち、違いマス!!私はドイツを代表して日本に最新医療を教えるために!!」
アスラ「お前は日本で『整形外科』ではなく『整形内科』の方へ転科させられた。まぁそれも相当な努力が必要だったみたいだが持ち前の努力で見事に転科を果たした。だが、かつての栄光が忘れられないお前は、今の自分の姿に耐えられなくなった」
キーガン「ち、違う・・・わ、私は・・・」
アスラ「そして精神崩壊を起こして東京の病院から姿を消し、自殺しにここへ来たのだ」
キーガン「あ、ああ、ああああ」
どんどん蘇るキーガンの過去の記憶。
栄光からの大きな挫折とそれにより変貌する周りの評価。
落ちぶれていく自分をあざ笑う元同僚の嫌味や陰口。
別の病院に転院しても消えることのない悪夢。
頭を押さえキーガンは、小さくなりながらガクガク震える。
アスラ「これが事の顛末だ。ここへ自殺しに来る間に自分の都合のいいようにお前は記憶を書き換えたようだがそんなのは無駄な悪あがきだ。事実は変えられない」
キーガン「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突如立ち上がったキーガンは木に向かって何度も何度も頭突きする。
キーガン「私は天才だ!!ドイツ医学の奇跡だ!!神の腕を持っているんだぁぁぁぁぁぁ!!」
完全に精神が崩壊したキーガンの様子をアスラはただ黙って見ていた。
キーガン「私はできる・・・手術できるだよ・・・上手いんだよ・・・もう一度手術させてくれよ・・・」
焦点が合っていない目でアスラに近づくキーガン。
アスラは臆せず、キーガンの目を見て言った。
アスラ「ようやく本来の記憶が戻り、あるべき姿に戻ったようだな」
キーガン「ふ、ふふふふ。ふひひひひ」
アスラ「しかし、お前はオレの手となり足となり働いてもらう。当然外科医で手術をしてもらうつもりだ」
キーガン「え?」
思わぬ言葉にキーガンが呆気に取られた顔をする。
アスラ「お前の腕が確かなのは間違いない。お前に合った環境さえ整えてやれば十分な働きができるはずだ。オレの配下になった以上、精神崩壊させたまま終わらせるわけがないだろう」
狂気に満ちた目がみるみる消えて行き正気に戻るキーガン。
キーガン「へ、ヘル・アスラ・・・」
キーガンの目から涙が溢れる。
アスラ「お前の対策はすでに考えてある。ついて来い」
キーガンは涙を流しながら何度も頷き、アスラの後に付いて行く。
いつの間にか森から抜けており着いた先は松山病院だった。
キーガン「ここは?」
アスラ「オレの配下が仕切ってる病院だ。お前のことはすべて話してある。お前はこれから性格の悪い最低の医師として生まれ変わるのだ」
キーガン「せ、性格の悪い最低の医師?」
アスラ「穏やかなお人好しの医者になってしまうとお前の苦手な簡単で初歩的な治療まで頼んでくる恐れがある。それに人間的な評価が高いと断り辛くなるはずだ。だが性格の悪い医師を演じておけば患者がすがってきても簡単に断ることができる。お前には難題な治療案件しか来ないように配慮させてある」
キーガン「ヘル・アスラ・・・私の為にそこまで」
アスラ「オレの手となり足となり働く配下だ。これぐらいのことはしてやる。せいぜいオレの期待を裏切らんようにな」
キーガンは涙を流しながらアスラに土下座した。
キーガン「このご恩は一生忘れまセン!!手となり足となり懸命に働かせていただきマス!!」
アスラ「ああ。頼んだぞ」
こうして、表向きには存在しない伝説の名医キーガン・ハヴェルツが誕生した。
キーガンとアスラの過去の話を聞き、河西は目を丸くする。
河西「そ、そんなことがお2人の間に・・・ではキーガン先生はわざとあのような態度を?」
アスラ「そういうことだ。これですべて話したぞ」
アスラが部屋から出ようとすると河西はアスラの腕を掴む。
アスラ「今度はなんだ?」
河西「あの・・・えっと・・・」
河西はチラリと同室にいる女の子を見る。
女の子は河西と同い年くらいの子で母親と一緒に病院に泊るようだった。
河西は視線を逸らしながら話す。
河西「そ、その・・・わ、私・・・今日1人ですの・・・」
アスラ「そのようだな。だからどうしたというのだ?」
河西は頬を赤らめ、ソワソワした様子で話す。
河西「ま、間違いなく治るとお墨付きを頂いていますけど・・・や、やっぱりその・・・怖いのです。で、ですからアスラお兄様には、そ、傍に居て頂きたくて・・・。アスラお兄様が居てくれたら私・・・心が安らぐというか安心できますの」
アスラ「オレが近くにいて安らぐとは思えんが・・・。しかし、お前の傍に居たとしてオレにとって何か良いことでもあるのか?」
河西「え?」
アスラ「オレにとって良いことが無いのならここに留まる理由がない。オレは誰かのために行動することはしないのでな」
アスラの行動理念を聞いた河西はふふっと笑った。
河西「(なるほど・・・アスラお兄様は見返りを求める方ですのね。それなら・・・)」
河西「では私が眠るまででいいのでこの本を読んでくださいませんか?」
河西が渡したのは1冊の漫画の本だった。
アスラ「何だこれは?」
河西「漫画の本ですわ。その本はとある精神障害者の方が無差別に大量殺人を犯すというものですの。この本を読んでアスラお兄様の今後に役立てれば良いかと思いまして」
アスラ「ほう・・・これを読めばオレの今後に役立つのだな?」
河西「ええ、間違いなく」
アスラ「よし、ならばお前が眠るまでここで座っててやる」
河西「あの・・・出来れば手を握ってて頂くと助かるのですが・・・」
アスラ「いいだろう」
アスラは河西の手をギュッと握る。
河西はニッコリと微笑み、アスラの手を握り返す。
河西は安心したのか、すぐ眠りに落ちた。
その寝顔は幸せそうで年相応のものであった。
アスラは本に夢中になっていたため河西が眠った後も、ずっとそばで手を握っていた。
この本が後の命懸けの特訓のヒントとして使われていることをこの時は誰もしらない。
そして4日後・・・
手術は無事成功し、河西が退院してくる日を迎えた。
全員いつも通り河川敷に集まり河西が来るのを待つ。
まるで転校生が来るかのような騒ぎようだった。
河西「お待たせしましたわ」
真後ろから声がかかり、全員が後ろを振り返る。
全員「!?」
河西の変化にそれぞれ顔を見合わせた。
全員「えっと・・・誰?」
背中まで伸びていた髪をバッサリ切り、前髪も短くなり、まるで別人のように変わっていた。
全員が河西をマジマジと見て、おぉぉぉと歓声をあげた。
黒崎「へぇ、短い方が案外似合ってるんじゃない?」
マリー「まっ、そっちの方がスポーツする上ではいいと思うわ」
森「髪短くしただけでこんなに変われるんかいな」
真野「すっごく可愛いよ!!」
河西のヘアスタイルはかなりの好評だった。
そこへアスラがやって来る。
アスラ「ずいぶん騒がしいな。一体どうしたというんだ?」
アスラの登場に先程までの賑やかな雰囲気が消え、そわそわし始める。
アスラの性格を考えると持ち前のズレた論点で河西を傷つけるようなことを平気で言う恐れがあるからだ。
風谷「い、いやぁ・・・それがよ」
黒崎「優希の髪型がす、すごく似合ってるって話をしてて・・・」
真野「す、すごく似合ってますよね?可愛いですよね?」
森「似合ってるやろ?そうやろ?」
とにかく似合っていると言って欲しいため執拗に似合ってるという言葉を強調する。
河西「ど、どうかしら?アスラお兄様」
恥ずかしがりながら視線を落としアスラに感想を促す河西。
アスラはジッと河西を観察する。
嫌な予感がしながらも全員がアスラの言葉を待つ。
アスラはう~んと少し首をひねった。
あっ・・・と全員が覚悟する。
アスラ「ハッキリ言って賢い選択とは思えんな」
分かっていたが実際に言われると場が一気に凍り付く。
河西「そ、そうですか・・・似合っていませんでしたか」
かなり河西が落胆した様子を見せる。
追い打ちをかけるようにアスラは河西に向かって問いかけた。
アスラ「なぜそんな髪型にしようと思ったのだ?」
河西「そ、そんな髪型!?」
グサリという音が聞こえそうなぐらいの河西の反応に全員がムンクの叫びのような顔になる。
河西「そ、それは・・・」
アスラ「その髪型をどう生かそうと思ったのだ?」
河西「え?か、髪型を生かす?」
アスラの質問の意味が理解できず、困惑する河西。
アスラ「まさか何も考えず髪型を変えたわけではあるまい?」
全員「(もうそれ以上傷口を広げるのはダメェェェェェ!!)」
河西「その・・・一から再出発するという意味を含めて・・・」
アスラ「なるほど・・・そういう考え方もあるか」
感心したように頷くアスラに苛立ったマリーが問いかける。
マリー「で?結局答えは何なのよ?女の子の髪型にケチを付けるんだからそれ相応の意味があるんでしょうね?」
アスラ「ああ。というより誰もが思うことだがな」
アスラは自信に満ちた顔でマリーに言った。
アスラ「もしオレが河西の立場だったら髪の毛を切るなら前髪だけにする。長い髪の方が何かと相手の視界を防ぐのに使えることがあるからな。現にオレもそれで一瞬視界が塞がれた経験がある」
全員「は?」
アスラ「長い髪が必ずしも有利に働くという訳ではないが、誰かに襲われ髪を掴まれた時は切り落とせばいい。だからわざわざ窮地に立たされた訳でもないのに髪を切った意味が理解できなかっただけだ」
アンタの言ってる意味の方が理解できないよと全員が心の中で突っ込む。
しかし、河西は突如ふふっと笑い出した。
河西「面白い方ですわね。そんなこと考えて髪型を否定した方なんて聞いたことがありませんわ」
アスラ「その言葉はそっくり返そう。自分に気合を入れる形で髪型を変えるという方が聞いたことがない。だが考え方は理解できる。思わぬ発想力を持つお前の方がかなり面白い存在だ」
面白いんじゃなくてアンタが変なだけなんだよ・・・と河西以外の全員がアスラを白い目で見る。
アスラ「さてそれはそうと山登りの最終試験を行う。今日から最終試験までは全員単独で動いてもらう。これからは山登りに関しての情報共有はなしだ。破った場合はソイツを除名処分にする」
いきなりの発言に雰囲気が一気に緊張感に包まれる。
山登りの最終試験の日が目前に迫る。




