アイドルの価値14
【みなさん さようなら★ の巻】
そしてゆっくりノブを回し扉を開ける。
【バシューッ】密閉された扉が開放される音
【ガッガガーザザァー】
カメラの画像が一瞬乱れる。
突然、犯人らしき3人が迫って来たのだ。
その3人の風貌を見て藤原紀子は声も出せない。
メタル系の衣服をまとった彼らの顔は
人間とは似ても似つかぬ軟体動物系の顔だったからだ。
そして
軟体動物系の生物が藤原紀子の方に近づいてくる
すると
カメラの枠内に辛うじて映っているドトールの袋を
その生き物に取り上げられてしまう。
軟体動物系の顔をした人間は、どちらかというとタコ形の顔をしていた。
タコ顔の人間は、ごそごそと袋を開け取り出したアイスコーヒーの1つを
後方に佇む星野愛に手渡す。
「ありがとう」そう言って星野さんはアイスコーヒーを一口
「あ〜美味しい、地球を後にする前に最後に飲みたかったのよね★」
得体の知れないタコ形の生き物も、器用にストローを使い飲みだし
妙なうめき声を上げるしまつ
「なっ何なんだぁ あの生き物は?」
物凄いテンションで実況していた梨木の声のトーンが少し下がってしまう。
「星野愛の誘拐犯が化けているのか・・・・」
カメラ越しでも実にリアル感があり、キグルミを着てる様には見えない。
画面中央に映る 星野愛が落ち着いた口調でゆっくりと話し始めた。
「梨木リポーターならびにTV局関連の皆様、そして私のとても大切なファンの皆様
私は誘拐された訳ではありません。」
3体の生き物の1体が、画面後ろに映っている円盤型の乗り物の扉を開ける。
「私の故郷から自分の星に帰るようにと、3人の王族チューコッタが迎えに来たのです。」
星野さんがそう言うと両サイドにいる2体の生き物が「うおっうぉっ」と唸りながら歌い始める。
「ブーッ 星野さんって宇宙人だったのぉ?」
飲みかけのジュースを噴出し鈴原がTVの前で仰け反る。
(迎えに来た王族のチューコッタって、何で星野さんと違う容姿なのよぉ ヘンなのぉ・・・)
「でも、あの両脇のチューコッタの声 どっかで聞いたことがあるわね☆」
(何度も聞いたことがあるような声だわねぇ・・・・・)
解りかけるがTVに映るチューコッタという生物の不気味さが先にたち答えが出ない。
「ラリラリラーラー・ラリラーラー」
今度はチューコッタが歌いながら踊り始める。何故か応援団の様な踊りだ。
「私の大切のファンの皆様に、こんなカタチでさよならする事になってしまって本当に御免なさい・・・何時の日か 私のハートを皆に届ける事が出来るといいのだけれど・・・・・・」
星野愛の瞳からは一筋の涙が流れ、両脇のチューコッタは床にひれ伏す。
「ちょっとぉ・・・これって・・本当の話だったりするのぉ?」
鈴原がそう口走った瞬間
「んっ?! チューコッタの踊りって うちの学校の応援団がやってるヤツじゃん?!」
(それって どう言うこと・・・・・)
鈴原はテレビ画面に映るチューコッタと言う生き物をマジマジと確認しだした。
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種子島宇宙センターでは
センターの外にいる報道陣と野次馬たちが
門の外に設置されたモニターから映し出される星野愛の発言を観てどよめいていた。
「何わけのわからないことを言い出すんだ!!」
梨木は、そう言って怒り出す。
モニターの中で、星野愛が笑顔で手を振っている。
「私は故郷の火星に帰る旅に出ます、長い間応援してくれて ありがとう!! そして、みなさん さようなら★」
星野愛と3人のチューコッタと呼ばれる生物は
後ろにある円盤型の宇宙船に、備え付けられたタラップから乗り込む。
それを見た梨木は無線で藤原紀子に指示を入れる。
「藤原ちゃん!! 星野君を解放しない様なら約束が違うっ 星野君を引き止めてくれっ!!」
「・・・・・・。」
「藤原ちゃん?」
「・・・・・・。」
「藤原ぁぁぁ応答しろっ!!」
「・・・・・・。」
「くそっ!!」
梨木は予備の中継用のカメラを担ぎ
宇宙センターの中に駆け出した。
応答しない藤原紀子の映すカメラでは
宇宙船に乗り込んだ後にハッチが閉められ、機体下部からモクモクと煙が噴出
【ゴッゴゴゴォー】
轟音が響いたかと思うと、画面いっぱいに閃光がキラメキ
一瞬 画像が真っ白に
そして
宇宙センターの建物上部からは、花火の様な光の玉が上空へ一直線に上がって行く
「どっどうなった? 状況を教えてくれ!!」
無線で外部にいる坂本あけみに状況を確認する 梨木
『センター上空に宇宙船が消えました。』
「なっなんだとぉ? 本当に行ってしまったのか・・・」梨木はロケット発射台に急ぐ
外の報道陣と野次馬は突然の出来事に呆気にとられている。
坂本あけみを含め、センター上空へ飛び去った宇宙船の事が信じられないらしい。
【バタッ バタッ バタッ バシュー】
「ふっ 藤原ちゃんっ!!」
ロケット発射台の扉を開けると、藤原紀子が倒れていた。
「あっあ・・・すっスッポンの梨木・・・」
「良かったっ気がついたか・・無事だったんだなっ」梨木は藤原紀子を抱き起こす。
「ごっ御免なさい・・わたし・・・」藤原が力なく梨木に誤る。
「・・・まあ・・いい・・カメラはしっかり映してくれていたよ・・・」
藤原が持ち込んだ中継カメラは入り口に入って直ぐの作業パネルに置かれ
撮影を続けていた様だった。
発射台脇に置かれたドトールのアイスコーヒーも全て飲まれている様子
「数秒前までここに居たのか・・・こんな事になるなら、ワシが強引にでも中継役になるんだったわい」
ロケット整備用パネル横にある椅子に力なく座り込む梨木
このとき梨木は藤原紀子の口から香るドトールのアイスコーヒーの匂いを見落としていた。