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生活保護課長・森山直樹2  作者: 泉北亭南風
12/24

12 田原本さんがスナックで働いている

 徳山さんのシンナー騒動が収まった直後、また新たな火種が発生した。


 「森山課長。民生委員の葛山さんからお電話です」


 就労支援員の古田さんが、電話を取り次いでくれた。


 「森山課長。ちょっとご報告がありましてねぇ…」


 葛山民生委員の口調から、ロクな話ではないと直感した。


 「葛山さん、先日の大村さんの件では本当にお世話になりました。ありがとうございました。大村さん、何かやらかしましたかね?」


 「いやいや違うんよ。大村さんは真面目に生活してるよ。今回は別の話。昨日、地区の民生委員の集まりがあってね、二次会で泉州市の「なごみ」っていうスナックに行ったんよ。そしたら、田原本怜奈らしき女性が働いてたんよ。『舞』とかいう源氏名使ってたけど、あれは田原本怜奈本人やと思うよ。一度調べてみて!」


 田原本怜奈さん…単身の24歳の女性である。2年前に夫のDVが原因で離婚し、離婚のストレスに起因する「自律神経失調症」で心療内科に通っている。4歳になる息子・大河君は、「病気で育てることが出来ない」という理由で、児童養護施設の青葉学園に入所している。現在無職であるが、主治医の見立てでは、「軽労働可」となっているため、就労支援員の古田さんが、月に2回カウンセリングを行っている。担当ケースワーカーは岩本主査である。


 「岩本主査。古田さん。ちょっといいですか? 田原本怜奈さんの件で、民生委員の葛山さんから情報がありました。泉州市の『和』というスナックで働いてるんじゃないかと…」


 「田原本さんからは収入申告は上がってませんし、課税調査も特段問題ありませんでしたが…」


 と岩本主査。


 「田原本さんなら、1週間ほど前にカウンセリングに来たけれど、スナックで働いている人のような雰囲気はないけどねぇ…。美人だけれど化粧っ気もないし、もう少し身なりに気を遣ったら? という話をさせてもらったところですわ」


 と古田さん。


 「では、人違いなんでしょうかねぇ…。葛山さん、酔っ払ってて他人の空似で見間違えたんでしょうか?」


 私がそう言うと…


 「葛山さんの観察力は鋭いですよ。私は信憑性があると思いますが…」


 と阿部主査が応じた。


 「古田さん。ちょっと今夜にでも行ってみましょうか? 今日は金曜日ですし、もしガセネタなら、一杯引っ掛けて帰ってくればいいですしね」


 「あーっ! 職権乱用!」


 玉城さんが笑っている。


 「玉城さんも一緒に来ますか?」


 「いやいや、私は嫁が怖いので…」


 一同大爆笑である。ウチの生活保護課のこういう空気…私は大好きである。


 その日の夜、私と古田さんは、「和」というスナックに乗り込んだ。ドアを開けると、若い艶やかな女性が出迎えてくれた。


 「おかえりなさ…い」


 という言葉が出終わるまでに、女性の表情が凍りついた。いつも温和な古田さんの目が怒りに満ちている。


 「田原本さん。あなたこんなところで何やってるんですか!」


 古田さんは肩を震わせて怒っている。騒ぎを聞きつけたママが、奥からひょこひょこと出てきた。


 「こんなところで悪かったわね! ここでは何なので、ちょっと中に入りませんか? 今お客さんもいないし…」


 私と古田さんは、ママに促されるままに店内に入った。

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