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第50話『自由のその先は』

 バスの窓から見える風景がビル群から平べったい田んぼの絨毯に変わった。

バスに乗ってからすでに1時間を経過していたが『ローズベル』に着くまでまだ時間はかかる。

シャルとベチャクチャ雑談していたら。


『あれ? エクトくん寝ちゃってない?』


俺の中で気づいたシャルが言うので、隣に座るエクトを見た。

うつむいて、器用に腕を組んでスースー寝ている。


全然喋らないと思ったら、いつの間に寝てやがる。

そう言えばレニーもさっきから一言も喋らない。


耳を澄ませると、微かにレニーの寝息が聞き取れた。


「レニーも寝てるな」


俺は言った。

後部の座席群ではまだ他の生徒達が楽しくワイワイとトークに華を咲かせている。

このうるさい中でよく寝れるもんだ。


『レニーも寝てるんだ。ならソールブレイバー特有の感応現象が起きるかもしれないね』


「感応現象?」


『うん。リンクしたままお互いに寝ちゃうと、戦士の見ている夢を魔女が見ちゃうっていう現象が極稀に起きるらしいよ。それを感応現象って呼ぶんだって』


「へぇ。じゃあ今もしかしたらエクトの夢をレニーが見てるかもしれないってことか」


『極稀にだからわかんないけど可能性はあるね。エクトくんがエッチな夢見てたら大変だね』


「エクトに限ってそれはないだろう?」


『そうかな?』


「そうだよ」


お前じゃないんだから、とはさすがに怒られそうなので言わなかった。



『エクトちゃ~ん! お帰りなさい!』


『母さん! 帰ってくるたんびに抱きついてくるなって何度も言ってるだろうが!』


『んもぉ。昔はほっぺにチューしても怒らなかったのに。エクトちゃんったら照れ屋さん』


『いい加減に子離れしろってんだ!』


『うふふ。努力します』


『それより明日から強化合宿だから、しばらく帰ってこねーからな』


『お母さん寂しいわぁ~エクトちゃんと会えないなんて』


『オヤジとイチャついてればいいだろうが』


『エクトちゃんは、まだお父さんが嫌い?』


『嫌いだね』


『まだ会社を継ぐ気にはなれない?』


『ならない』


『そっか』


『‥‥‥』


『あのねエクトちゃん。ここだけの話、お父さんは身体の具合が良くないの』


『え?』


『心臓にちょっとね。まだそんな深刻な状態じゃないんだけど』


『あのオヤジが病気? 嘘だろう?』


『‥‥‥ねぇエクトちゃん。お母さんからのお願いなんだけど、お父さんを助けてあげて?』


『いや、でも、オレは‥‥‥』


『今すぐに返事を出さなくていいの。ただ真剣に考えておいてほしいだけ』


『真剣もなにも、オレはそれが嫌で全国制覇を目指してるんだぞ。オヤジとオレの約束の事は母さんも知ってるだろ』


『うん、聞いてるわ。でもねエクトちゃん』


『なんだよ』


『会社を継がずに、あなたは何を成したいの?』


『っ! ‥‥‥オレは! ‥‥‥オレは‥‥‥』



「エクト!」


「はっ!?」


レヴァンの高い声でエクトは全身を強ばらせて跳ね起きた。 辺りを見渡すと、バスが止まっていた。


着いたのか『ローズベル』に?

いや、なんか公園みたいな場所に停まってるな。


「起きたか。トイレ休憩だってよ。お前は大丈夫か?」


エメラルドグリーンの瞳が真っ直ぐエクトを見据えていた。

レヴァンの迷いのない澄んだ瞳だ。


「オレはいい」


とくに用を足したい気分でもなかったからそう答えた。


「そうか。なら俺とシャルはちょっと行ってくる」


「ああ。‥‥‥レニーはトイレ大丈夫か?」


返事がなかった。

寝てるのか?


レヴァンはそのままバスから降りて行った。

背もたれに寄りかかり、エクトは大きな溜め息を吐いた。


昨日の今日でこの夢を見るとは。

やってられないな。


『あなたは何を成したいの?』


胸を抉る母の言葉が過った。


オレは、親に勝手に決められた人生を歩むのが嫌で‥‥‥、ただそれだけで‥‥‥何も‥‥‥。


『エクト』


囁くように小さいレニーの声が聞こえた。

さっき返事がなかったから寝ているとばかり思っていたが。


「起きてたのかよ。なんでさっき返事しなかったんだ?」


『ごめん。本当に今起きたの』


「そうか」


『‥‥‥ねぇ、エクト』


「なんだ?」


『‥‥‥ううん。なんでもないわ。ごめんなさい』


「?」


レニーが口を濁す理由がわからず、エクトはただ首を傾げるしかなかった。


次回の更新は明日の16時です。

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