第48話『寂しがり屋と甘えん坊』
『暴君タイラントに続く獅子王リベリオンからの挑戦状。しかし現在、この件は保留にしているそうです』
『リリオデール国王様はこの挑戦状に受けて立つため、レヴァン選手とエクト選手を中心に学生たちの大幅な強化を計画しているとのことです。これには全面的に支援して力を注いでいきたいとも仰っていました』
『今回のソルシエル・ウォーは最大人数である50対50で行われるようです』
『軍人対学生で史上初の集団戦となる今回の戦いに勝算はあるのでしょうか?』
『ない! っと言いたいのですが、正直わかりません。あの暴君タイラントさえ破ったレヴァン選手とエクト選手が、この先どれだけ伸びるかに掛かっているかと思います』
『そうですね。戦士たる彼らにも期待ですが、彼らを影で支える二人の魔女にも注目です』
『はい。『ゼロ・インフィニティ』という『スターエレメント』を持った『奇跡の魔女』シャル・ロンティアと、たった四日で『魔法第二階層詞』を覚醒させた『最速の魔女』レニー・エスティマール。この二人の成長にも期待が重なります』
『四日で覚醒した魔女レニー・エスティマールが目立ちますが、実は魔女シャル・ロンティアもたったの八日で『魔法第二階層詞』を覚醒させているんですよねこれ』
『そこなんですよ。あの高名な魔女グラーティア様の記録を優に塗り替えているんですよこの二人は』
『可愛いだけでなく、かなりのポテンシャルを持った魔女二人。彼女らの美貌とスタイルに心折られるレヴァン選手とエクト選手の女性ファンが後を絶たないとか』
『ええ。私もその一人です‥‥‥』
『え!? あ、で、では次のニュースです! 先日――――』
――――なんか最近テレビで当たり前のように俺やシャルの名前が出てくる。
「ずいぶん有名人になったなぁ」
リモコンでテレビを消して、俺はリビングのソファーに横たわった。
シャルのいない寂しいリビングは静かで、両親を無くし、シャルと出会っていないあの頃を思い出しそうになる。
心の傷ってのは、なかなか消えないもんだな、と思った。
シャルと出会ってから、無能と言われようがなんだかんだ幸せに生きてきた。
シャルと一緒にいる間は過去を忘れていられる。
孤独だと、すぐこれだ。
弱いな俺は。
結局シャルがいないと何もできないんだ。
さみしがり屋は昔から治っちゃいない。
けれどいつか、早ければ今年。
シャルと結婚して子供を儲ければ、この弱さはなくなるような気がする。
意地でも守りたい者を手にすれば、男はきっと誰よりも強くなれる存在なのだと信じている。
だから早くシャルと結婚したい。
そこへ辿り着きたい。
家族という、世界で唯一無二の宝を手にしたい。
この強化合宿で、強くなってやる。
鬼神のシェムゾも、覇王グランヴェルトも越えてみせる。
ソファーに横たわらせた身体を起こして両の拳を握りしめた。
明日から強化合宿だから今日はゆっくりしようかと思っていたが、気分が上がってきたので走り込みでもしてこようか。
時計をチラリと見る。
まだ夕刻だし、行くか。
「ただいまぁ~」
絶妙なタイミングでシャルが帰って来た。
玄関からリビングに入ってくる。
「おかえり!」
ちょっと寂しかった先程の気分が後押しして声が弾んでしまった。
ご主人の帰りを心待ちにしていたペットか俺は。
もし俺が犬だったら、いま間違いなく尻尾振ってそうだ。
「どしたのレヴァン? 妙にテンション高いね」
「ん? そうか? 気のせいだろ」
「さては私がいなくて寂しかったんでしょ?」
当たってるよ。鋭いなこの子ってば。
「バーカ。たった二~三時間お前がいなかっただけで寂しがるわけねーだろ」
‥‥‥この、変なところで意地っ張りな面も昔から治ってないな俺は。
まだまだ子供ってことか。
まぁ子供だな。俺まだ16だし。
「素直じゃないなぁ」
と言いながらシャルもソファーに座って俺の隣に密着してきた。
外の風で少し冷めたシャルの体温が感じられた。
「例の作戦のことなんだけど、レイリーンさんとロミナさんに伝えてきたよ。なんとか協力してくれそうだよ」
「え!? あの生真面目そうなレイリーンさんが?」
「うん。ちょっと抵抗は感じてたみたいだけど、意外とあっさり了解してくれたよ。やっぱりレイリーンさんはマールさんに脈ありだね」
「なんで分かるんだ?」
「分かるよ。女の子はどうでもいい男や嫌いな男に尽くしたりしないよ。レイリーンさんに限定して言うなら、こんな一方的に女の子側が尽くす形になる企画を了承するなんて有り得ないよ。たまたま召喚された戦士の魔女だからってだけで尽くすのはちょっと無理があるからね」
あのレイリーンがこんな企画を了承したってことは、それをしてもいいだけの気持ちがマール先輩に対してあるってことをシャルは言いたいのだろう。
確かに納得のいく話である。
「ちょっと心配なのはリエル姉さんとロミナさんかな?」
「ん? ああ確かに」
シグリー先輩とリエル先輩はパートナーだが、それ以上でもそれ以下でもない感じの繋がりだ。
ロミナ先輩に至っては、相手はあのロイグという兄貴なのだから大変だろう。
シャルが心配するのも頷けた。
「まぁそこは成り行きを見て判断するしかないだろ。『ブロークン・ハート』対策と言ってもみんながみんな防げるまで絆を強くできるわけじゃないだろうしな」
「そうだね。でもそれに関しては二重の手を考えてあるから大丈夫だよ。きっと上手くいくと思う」
まだ対策を考えてるのか。
この頃のシャルは頭の回転が凄まじい気がする。
頼りになるパートナーだ。
「最近のお前は凄いな。ゴルト将軍のときも『ウェポンズ・ブレイカー』に効果範囲があることを見破ってたし」
「あれ予想で言っただけだよ?」
「知ってるよ。あんな初見でそう予想できるのが凄いって言ってるんだ。おかげで勝てたしな」
「ん、魔女ってほら、安全圏にいるから、戦士よりずっと冷静でいられるんだよ」
確かに敵の攻撃を受けない魔女は、他より冷静なのは納得できる。
「なるほどな。でもお前の発想力には驚くよ。『ブロークン・ハート』対策に『最初から男子メロメロ作戦』とか考えたり」
作戦のネーミングセンスは酷いが、まぁ分かりやすい。
「私だって早くレヴァンと結婚したいもん。そのためには勝たないとダメだからね。そりゃあ考えますよ私もいろいろと」
その言葉を聞いて思わず笑いそうになった。
俺も数分前まで似たようなことを考えてたから。
「あとダンスと歌も考えてるんだ」
「ダンス? 歌? なんでよ?」
「一番大事なのは歌なんだよね。これが『ブロークン・ハート』に対する切り札になると思うよ」
よく分からんが、まぁこの辺のことはシャルに任せよう。
元より代案も出せないから、口出しするわけにもいかない。
「わかった。『ブロークン・ハート』の件についてはシャルに全部まかせる。俺は強くなることに集中する」
「うん。それでいいよレヴァン。どんなに対策しても力負けしてたら話にならないからね」
言い終えてシャルは時計を見た。
「思ったより早く帰ってきちゃったなぁ。レニーと一緒にお買い物でもすれば良かったかな?」
「すれば良かったのに。なんで早く帰ってきたんだ?」
寂しがってたくせにどの口が言うんだ?
そんな俺の心の声が聞こえたが、無視する。
「いやぁ何となくレヴァンが寂しがってるビジョンが脳に浮かんでさ。これは早く帰ってあげなきゃって思ったんだ。私の勘だね」
「なん!」
「でも帰ってきて見たらレヴァンってばテンション高くて、ぜんぜん寂しそうじゃなかったし、チェッてなったよ」
本当に、女の勘ってのは恐いな。
でも、俺のために早く帰ってきてくれたのは事実か。
「ありがとうなシャル」
「え?」
「俺のために早く帰ってきてくれたんだろ?」
「う、うん。そうなるけど」
「なら、ありがとう」
「‥‥‥言葉だけじゃなぁ~」
出たよ。
俺が寂しがり屋なら、シャルは甘えん坊だな。
いや、俺も似たようなもんか。
俺はシャルの冷えた身体を暖めてやるように肩を抱き、身体の密着度を上げた。
シャルは嬉しそうに俺の肩に顔を乗せてきた。
「やっぱりレヴァンって暖かい」
「シャルこそ」
二人で笑い、しばらくお互いの体温を楽しんだ。
「私ねレヴァン。正直に言うと、あの温泉の時に凄く安心したんだ」
「安心?」
「うん。あの時私とキスしてから興奮してくれたでしょ? あれが凄く嬉しかったんだ」
「な、なんでだよ‥‥‥」
あれは俺的には忘れたくても忘れられない甘く快感に満ちた時間だったが、同時に自分の理性の弱さが露呈して、自分に不甲斐なさを覚えた時間でもあるんだが。
「だってレヴァンは私に魅力を感じてくれたって事だよね?」
「いやその、魅力の限界を突破してしまってああなってしまったってのが正しい」
俺はいつだってシャルに魅力を感じているのだから。
「ふふ、レヴァンったら女に興味無いんじゃないかってくらい私に反応してくれなかったから、少し不安だったんだ。だってほら、本当に子作りするとき困るじゃん?」
「あのなぁ、俺は反応しないように堪えてるだけなの。男ってのはそういう生き物なの。むやみに発情するもんじゃないの。わかる?」
「わかってますよぉ~。また私に興奮しちゃったらお手伝いしまっせ旦那~?」
「‥‥‥俺はお前に対して興奮しない修行でも積んだ方が良いか?」
「いやいやいやいやいや! それ本当に本気で子作りするとき困るからホンットにやめて!」
シャルは本気で拒否してきた。
次回の更新は明日です。




