-16-女王のお願い(了)
前代未聞の警察本部襲撃事件はニュースでも大きく報道され、警察は襲撃した犯人2名は死亡と発表した。
犯人たちは警察に恨みを持っており本部へのテロが目的だった...と、そう表向きの発表がされている。
事後処理などを終えた結良が1週間後、再び第6班の事務所を訪れて霧島が確保した瓶の写真をスクリーンに映し出す。
「きーくんが確保したのはre-200。第2の生命の試作200番台。ウロボロスメンバーはこれを日本に流通させるために準備していたの」
ウロボロスの長期間にわたる潜伏...それは全てこの薬品を日本で流通させるための計画。
日本は新体制になってから政府関係者との関係構築が難しく、賄賂を渡す機会もかなり少ない。
そんな中流通させるためには遠回りでもかなりの時間をかけてルートを確保する必要がある。
「えっと...結良警視監質問です」
事件の経緯を説明するとは聞いていたが、いきなり聞きなれない単語が出てきたため、尾長は恐る恐る手を上げて質問する。
「うん、いいよ」
「えっと...re-200。第2の生命って何ですか?」
「あ...そうだね。ごめん。この薬品...第2の生命は能力を向上させるドーピング剤よ」
結良の言葉にその場にいる全員が驚き空いた口がふさがらない。
能力は未解明な部分が多く、最新の研究でも全容が全く把握出来ていないもの。
そんな能力を向上させる薬が存在するというのは常識を完全に覆す大発明...
「外国ではずっと出所不明で流通してた。で、今回その提供先が判明....ウロボロスが生産して流通させてたことで間違いないわ」
「ウロボロスメンバーが持っていたことも...流通させるためと考えていいですが、生産までって何故確信出来るんですか?」
「....確認されている第2の生命は100番台までだから」
世界各国で確認されている第2の生命は110番台が最新のもの。
だがそれを遥かに上回る200番台の存在が確認されたのは今回が初めてだ。
この情報から警察上層部はウロボロスが第2の生命を生産していると結論を出した。
「成分分析は出来てる...でもなんでこれが能力に作用するのか分からない。おそらくこの薬品も能力で作られたものと判断してる」
「ウロボロスは日本でこの薬品を流通させて何を...」
早見が不安そうに質問すると、結良は薬品の写真に書かれているグラム数を指さす。
そこには10gと書いてあるが――
「200番台が10g....最新の110番台10gで数千万ドルだから...これ実際売ったらどれぐらいの値段になると思う?」
能力を向上させる...その規模は薬品の数字が増えるごとにどんどん向上している。
指から少し水を出すぐらいの能力者が、辺り一面を水没させられるぐらいにまで能力は向上する。
能力によっては億単位でお金を出しても回収できるぐらいになるため、この薬品は存在自体が世界を脅かしているまさに禁断の果実と言える。
「ウロボロスの拠点は全て潰したけど、薬品は見つからなかった。ただ――保管していた場所を考えると持ち込んで保管していた量はそう多くない...スーツケース一個分で多い方かな」
「それでも、末端価格だけで先進国の国家予算並みだけど」
羽ケ崎の補足に全員の顔が青ざめたところで、結良は今後の方針は伝える。
「企業連盟には今回のことで立ち入り検査を開始して、懸賞金関連から関係を洗ってる。既に数人逮捕予定だけど...ウロボロスとの繋がりは見えない。当分レイヴンメンバーも非常事態に動員予定だから...警察として不信な能力事件については特に力を入れて捜査してほしいの」
「能力規模が異常に大きいと...第2の生命が絡んでいる可能性が高いってことですか?」
「そうだね。2名...いや、1人は死亡したけど、ウロボロスメンバーも3人以上まだ捕まっていないわけだし」
爆発をしたクリスという男は即死で間違いないが、もう一人...カーメラルは死んでいないとみている。
戦闘面で常に負傷を気にしていない様子み見えたため、能力で他人の体を乗っ取り死んだとしても本人に害はないと判断している。
そのことについて直接戦った霧島は少し表情を暗くしてため息をつく。
「クリスという男も死んでいればいいんでずか」
「霧島さん、それは?」
羽ケ崎の質問に霧島は薬品の画像を見て答える。
「第2の生命の効果で大爆発...と考えにくいです。あの爆発規模は本人でも起こせた可能性が高い...すると、第2の生命で誰の能力を強化したのか...」
「...逃げた方?」
「そうですね。本人の能力が強化し、クリスという男にも適用出来たら...と思いまして」
確かに薬品はクリスが持っていたが、クリスが使ったと断定は出来ない。
遺体の損傷は激しく、司法解剖でも何も判明出来なかった程。
カーメラルの能力は本人の体ではないため、いくらでも無茶が出来る。
それを利用して第2の生命の副作用を踏み倒し、強化効果のみを得て2人ともリスクなしで抜け出せるとすれば...あのめちゃくちゃな本部襲撃も理解が出来る。
「と、一旦経緯説明はここで終わりかな...詳しい方針は上層部でも固め中かな...」
「まあ、こんな大事すぐには動けないと思うし。こっちでも普段のパトロールの強化はするよ」
羽ケ崎は席を立ってプロジェクターの電源を切った。
そして部屋の電気をつけてじーっと結良を見つめる。
「ごほん...では私のわがままに付き合ってもらいました第6班の皆さまに特別報酬としまして...」
結良が後ろにいる霧島に手を伸ばすと、霧島は一枚の招待状を差し出した。
「みんなお肉が好きということで...今夜私が奢るから好きなもの食べていいよ」
高級店として名高いお店の予約証明書でもある招待状...皆が驚きと喜びではしゃいでいる中、羽ケ崎は手を叩いてメンバーを見つめる。
「勤務終了まであと3時間だから、みんなちゃんとお腹が減るように残りの仕事頑張ろう」
「はい!」
一旦会議は解散となり、資料を片付けるという名目で羽ケ崎と結良はその場に残った。
全員が退室すると、入り口付近で立っていた霧島が二人をみて頷く。
「遺族の方はなんて?」
「...正直殴られるぐらいはすると思ったのに。全然逆だった」
今回オフィスに居た警察官数名と制圧部隊の1名が犠牲となった。
結良は自分の作戦の影響で犠牲になった人の遺族に直接経緯の説明に向かった。
だが、どの遺族も「覚悟していた」と口にする。
「テロ事件も増えて...それでも警察官を続けたのは本人の意思...だからずっと覚悟はしてたから、本人がどういう仕事をしてたか、詳しく聞かれたぐらいだった」
3年前の国会テロ事件以降、警察官も大幅に人員が入れ替わっている。
テロの現場を見て怖気づいてしまい辞めたものは多く――だが、そこに何かを忘れてきてしまい、ずっと探しているものだけが、固い意志を持って残っている。
「失ったものは戻ってこない...でもそれを嘆いてる時間もこの国にはない...悔しいけど」
「雅ちゃんが信じた可能性は...私が絶対消させない。これからもずっと」
2人はあの日互いに誓った言葉を胸に再び前に進む決意を固める。
これ以上、理不尽な力に苦しむ人を増やしてはいけないと。
※※※
勤務終了後、更衣室で着替えていた羽ケ崎の元に霧島がやってくる。
「お疲れ様です。羽ケ崎先輩」
「お疲れ、何だかんだちゃんと挨拶出来てなかったね。霧島くん」
「こちらこそ...その、羽ケ崎先輩少し時間大丈夫ですか?」
「いいよ、みんな楽しみにしてる焼肉に遅れなければ」
羽ケ崎の言葉に霧島は笑顔を見せ、そして深く頭を下げる。
「結良を...守ってくれてありがとうございます」
「改まってどうしたの」
「羽ケ崎先輩に教わったんですよ。感謝の言葉はちゃんと口にした方がいいって」
「警察学校の時の話でしょう...それで?どうしたの改まって」
「....私にとって結良は全部なんです」
霧島は少し表情を暗くするが、真っ直ぐ羽ケ崎を見つめた。
彼女は人付き合いが苦手で、警察学校時代も協調性がないというレッテルを貼られていた。
結良と霧島の間に具体的にどんなことがあったのかは羽ケ崎も知らないが.,..それでも、霧島は自分の全てを捧げられる程、結良を大切にしている。
「羽ケ崎先輩と結良のおかげで私は今こうして頑張っていられます。ですから...今後とも結良をお願いします」
「...霧島くんはよろしくしなくてもいいの?」
「そ、それは...」
彼女はからかった羽ケ崎は、霧島に少し屈むように手招きする。
そして霧島の頭に手を置いてゆっくりと頭を撫でる。
「日葵は強引なこと多いし、自責も酷いから。私としても心配。だから...霧島くん、私の友達をよろしくね」
「はい!」
自分を慕ってくれる人も多いが、結良を信じている人も多く存在している。
お互い罪な女だと思いつつ、羽ケ崎はロッカーを閉めた。
「よし、それじゃあ行こうか。日葵の財布を空にしないといけないからね」
「羽ケ崎先輩...実は結構怒ってます?」
「さあ、どうかな?」
能力について深堀などをしたいと思いつつの章でした。
事件の探索要素が高い章のための準備という形で自分の中では考えてます。
ご愛読頂きありがとうございます。
また次回のお話でもよろしくお願いいたします。




