16話「穏やかに生きてゆきます」
後日耳にした話によれば、オフフィードはあのまま破滅の道を辿ったそうだ。
王は怒る民たちの手で処刑。
死した後すら丁重に扱われることはなく、その亡骸は晒されていたらしい。
そして、偽りの聖女であったフレレヴィアもまた、民の怒りの矛先となったようで。すぐには殺められなかったものの、一時の拘束の後に処刑されたと聞く。また、フレレヴィアの実家の財産も民たちの手によって没収されたとか。
聞けば聞くほど恐ろしい話だ。
少しの過ちですべてが狂い、結果こんなことになってしまったのだから。
もし私があそこにいたら? 追放まではされていなかったとしたら? ……考えるだけでも恐ろしい。
一方、私はというと、マッチョ妖精たちやシャルテと共に、穏やかな日々を過ごしている。
最近は野菜売りの手伝いを始めた。のんびりしていることを周囲は許してくれていたが、自分としては何もしないのは申し訳なかったから。とはいえ、勤務時間が決まっているわけでもない、のんびりと取り組める仕事である。個人的には、その自由さが気に入っている。
生まれ変わったと思えば苦しさはない。
これからは聖女としてではなく、一人の人間として、オブベルとして生きる。
「オブベルさん、いつもごめんなさいねぇ」
「いえいえ。むしろ、いつも手伝わせていただきありがとうございます」
「まぁー、いつも可愛らしいわねぇ」
そのための第一歩が野菜売りの手伝い。
小さなことから始められるのは嬉しいことだ。
「そういえばシャルテさんとはどうなのぅ?」
「仲良くしています」
「うふふー。そう。それは良かったわぁ」
野菜売りもマッチョであると知った時は驚いたけれど、もうすっかり慣れてしまった。彼女の場合、女性でありマッチョでもあるのだが、その驚きもいつの間にか消え去ったように感じる。上下に分かれた小さい水着ももう見慣れた。
「こんにちは。オブベルさん」
「シャルテさん……!」
「最近は野菜売りの手伝いをなさっているそうですね。噂を聞いて、買いに来てしまいました」
「ありがとうございます!」
今の私はもう聖女なんて大層なものではないけれど、それ以上の穏やかさと幸せを手に入れた。
だから、この道を選んだことに後悔はない。
◆終わり◆




