第16話 哀れなメドゥーサ(挿絵もあるよーう)
桃太郎からの ーー
さてと。
ペルセウスは、黄金の盾とヘルメスの剣を持ってメドゥーサの住む洞穴へと入っていきました。
メドゥーサさん、メドゥーサさん
鎖骨についた、そのお首
ひとつ、私にくださいな
「あたしの首より、こいつらの首を取ってってよ」
「は? 何言ってんだ、ババア」
「死ねよ、ババア」
「ケッ」
「そうだそうだ」
弱々しい嗄れ声が一つ。間髪入れず、美しい響きの怒鳴り声が複数。
ペルセウスは恐れをなし、桃太郎気取りの歌をやめて黄金の盾に身を隠しました。
「平気よ、勇者さん。こいつにはもう、金縛りの術を使えるほどの目ヂカラは残ってないんだから」
「うう、少し黙っーー」
「うっせえババア、てめえが黙れや」
「そうだそうだ」
物分かりの良いペルセウスは、口の悪いマドンナボイスを信用し、黄金の盾から顔を出しました。
「な……っ」
なんと美しい光景でしょう。
アフロディテから聞いていたとはいえ、あまりの神々(こうごう)しさに目を見開き、まるで石にされたように固まってしまうペルセウスでありました。
「……勇者が石になった?」
「このババア、まだそんな魔力を持ってやがったか」
「ざけんなババア」
「そうだそうだ」
「バカ言うんじゃないよ。あんたらの美貌に魅入っているだけさ」
「あ、なるほど」
「……ケッ」
はい。
物分かりの良い読者の皆さまであれば、もうおわかりでしょう。ヘラ女神に唆されたアフロディテがこのメドゥーサに与えた罰が、一体どういったものなのか。
シミだらけのブサイクヅラのうえに、密集した蛇の群れ。ーー これがメドゥーサの、アテナ女神からのかつての罰でございましたが、今度のアフロディテからの罰というのはさらに、蛇の顔が美女へと変わり、おまけに四六時中、シミだらけのブサイクヅラ、すなわちメドゥーサその人に向かって暴言を吐き続けるという、壮絶なものだったのでございました。
「ねえ勇者さん、早くこいつを懲らしめちゃってちょうだい」
「私たち、いつもこのおばあちゃんにいじめられるのよ」
「そうだそうだ」
「そりゃ逆 ーー」
「うっせえババア。首締めつけんぞ」
「ほっぺた噛みちぎられてえか、コラ」
「そうだそうだ」
やがてペルセウスは動き出し、美女たちに答えました。
「わかった。でも、このおばあちゃんの首を切ったらさ、君たちはどうなっちゃうの、ハニー」
「そうしたら私たち、自由になってどこへでも行けるのよ」
「まあ、宿主から寄生根を抜くことになるから、養分となる食料を自分で探さなきゃいけなくなっちゃうんだけどね」
「ケッ」
「なら、君たちの美貌はそのまんまなんだね」
「そりゃそうよ」
「女神さまに楯突かない限り」
「耳が痛えだろ、ババア」
「いっつも耳鳴りが ーー」
「ああ? 黙れババア」
「そうだそうだ」
「じゃあさ、僕がこのおばあちゃんの首を取ったら、君たち一人ひとりにキスさせてくれる?」
「……は?」
さすがはメドゥーサを苦しめる美女蛇の皆さん。息をピタリと合わせての「……は?」でございました。
そして、ここからはまた、口々に、
「ざけんな勇者」
「こいつと同じ目に遭いてえか」
「死ねよ、勇者」
「そうだそうだ」
「頼むよハニー、僕は君たちの口づけが ーー」
「なめんなよ勇者」
「そうだそうだ」
「血まみれになりてえか」
「上等じゃねえか」
「じゃあ、仕方がないね」
ペルセウスは剣を取り、実に勇者らしい、見事な剣さばきで、美女の首を一本残らず切り落としてしまいました。
そして、そのうちもっともペルセウス好みの美貌(彼女の顔はどことなく、アンドロメダに似ていたのでありました)を拾いあげ、ニコッと魅惑の笑みを浮かべると、意地悪くからかったのでした。
ーー ハハッ……、アハハハハッ……。どうしちゃったのかな。おめめを瞑ったりなんかして。ひょっとして、僕のことが怖いの? それでそんな、大理石みたいな顔になっちゃったわけ? ……君は僕の願いをきこうとしなかったよね。綺麗な顔をして、口汚く罵って。まるで真っ赤な蛇みたいに。あ、そういえば、君は本当に蛇だったか。僕はまだ息をしているけど、君はもう、息を引き取ったんだね。君はもう僕のものなんだから、好きにしていいってことだ。ヘルめっちに食わせても、アテナ女神に食わせても。でもね、安心して。僕は君が大好きだから。ハハハッ……
つづく……
ーー はい、こういう展開でした。




