Ⅴ 私と。
【まえがき】
みんな喜べ文化祭だ。
という前哨戦です。
どうぞ。
「やぁリズ。僕……じゃなくて、俺が来たよハニー」
「ぉぅぇ」
急にそれは酷くないかいとかなんとか抜かしていたけど、正直どうでもいい。今、気になるのはめんどくさいクラスメイトよりも、生徒会室にも体育館にも見当たらないルーだ。
すでにリハ中の教室から、別のクラスが出し物(クイズ大会かなんか?)をしている体育館、ものすごい人込みになっている校庭屋台、休憩スペースになっている屋上、一番怪しい生徒会室までくまなく探して、また体育館に舞い戻ったところなんだけど。
そして、なんか知らんがアレンに会った。
顔も見たくないって言うのも正論だけど、今は会いたい人に会えないことに嘔吐きたくなる。
「ごめんアレン」
「えっ!? なにっ!? 会ってそうそう破局したの僕っ!? じゃなくて、俺」
「破局も何も付き合ってすらいないから。前も言ったけど、私、劇に出るから、一人で回ってね。あと、絶対に劇の邪魔しないでよ」
「し、しないよ! するわけないって!」
「あっそ。じゃ、私行くから」
「うん、わかったよ……って、えっ? ちょっと――」
そうして背中に浴びた言葉は、いつ頃終わるんだいとかどこで待ち合わせだいとか、やっぱりどうでもいい内容ばっかりだった。
まぁ、悪いと思わなくはないけど、劇の方が大事なのも確かだ。
私は超満員の人込みを切り分けて、その場を後にする……つもりだったけど、出入り口付近は入る流れと出る流れが乱立してるせいで、出ようにも出られない。
せっかく昨日、劇をすべて壊しかねないような無謀な提案を皆に承諾してもらえたんだ。ルーのためにも自分のためにも、今日は失敗するわけにはいかない。
元よりルーがいないと劇は始められないし、昨日私がした無謀な提案も、やっぱりルーがいないと始まらない。でも、少なくとも私の案なら、王子様の演技を完璧に仕上げたルーじゃなくてもちゃんと劇になる。
どうだすごい提案だろー。……じゃなくて。結局、ルーがいないとダメなのに変わりはない。
大事な事だから何度も言うけど、「ルーがいないとダメなの」。
そんなこんなを逡巡していたら、ストーキングされてることに気付かなかった。不服。
「ちょ、ちょっと待ってってば……」
軽く肩口を掴まれて、びっくりして振り返る。
「おっ、脅かさないでよ。キモいなぁ……。それで、なに?」
同じように人込みを掻き分けてきたんだろうけど、アレンぐらい長身で体格がしっかりしてると流されたりしないもんなのか。不思議と、観客が私とアレンを避けて通っていく。なんだか、川の真ん中にある大きい石になった気分。全然風流じゃない。
全然風流じゃない男は、私の耳に顔を近づけて、息を吹きかけるみたいに喋る。
「十一時になったら、教室で最終打ち合わせやるみたいだから、それまでには教室に戻ってないとだから。気を付けて」
「そんなのわかって……ん? なんであんたが知ってんの」
「僕、いや俺は、リズのことなら何でも知ってるからなぁ」
「そっか。じゃあ私の嫌いな人もわかるよね」
「な、なんでそんなに僕を、じゃなくて俺を睨んでるのかなっ!?」
それにしたって、私に関しての情報収集に抜かりが無いにもほどがあるぞ。
あと、色々知ってて当然みたいな顔で言うんじゃないよ。腹立つなあ。
「で。どこで聞いたの」
「あ、ああ。ついさっき、姉と……会ってさ」
「ああ。なるほど」
そう言えば、アレンのお姉さんは文化祭の役員だって言ってたな。
けど、変だな。
アレンのお姉さんって確か、相手校っつってたよね。カシミーヤ校の文化祭実行委員には何回も会ってるし、顔も覚えてる。でも、相手校の文化祭役員なんて一回も会ったことない。今日の最終打ち合わせを知ってるってことは、少なからず劇の制作に関わってなきゃおかしいんだけど。
「お姉さんとはどこで会ったの」
「生徒会室だけど……って、まさか!?」
「会ってみたい。レーアさんっつったっけ。名前」
アレンがこの顔で、昔の写真があんな感じだから、今頃きっとお姉さんは美人だ。美人に違いない。昔フットサルをやっていたとか前に言ってたし、今はショートの反動でロングかな。片手間気味に気になる。
「よ、用事があるって言ってたし、もう帰ったんじゃないかなあ……!」
「よかった。まだ帰ってないのね。生徒会室ね。行ってみるわー」
「うわーっ! ま、待ってくれー!」
どうしてそんなに頑なにシスコンなのか甚だ気持ち悪いの極みだったけど、今はそんなことよりもお姉さんだ。……自分で言ってて「何言ってんだ」って笑えてくるよね。
けど、生徒会役員だったらルーの居場所を知っているかもしれないって大義名分もある。
「ふぅ。やっと出れた……」
先を急ごう。
アレンは気持ち悪いストーカーだけど、嘘はつかないからな。
体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下をトコトコ歩いて校舎に入る。校舎内の飾りつけは、これでもかってくらいに力が入っていて、目がちかちかする。白壁には目まぐるしい数の出し物ポスターが隙間なく貼られて、天井からは何かよくわからない物体がぶら下がっている。まさに、異文化交流の祭典。
校舎に入ってすぐ見えてきたのは、もはや定番のお化け屋敷。なんでも、クオリティが商業顔負けらしくて、人だかりができていた。……と、思えば、そんな人だかりは幾つも、至る所に蔓延っていて、なんかもうわけがわかんなかった。
廊下も階段も体育館の出入り口程じゃないにせよ、ひどく混雑してるせいで何となく酸素が薄いような。
そんなわけで、空気を求めて階段を上がって、屋上に出た。
一応、屋上庭園はレストスペースに指定されているみたいだけど、存外眺めが良いという噂でも広がったのか、こんな僻地にも関わらず、うじゃうじゃ人がいる。欄干にずらっと人が並んでいて、電線に集る雀を思わせた。
今朝、ルーを探しに来た時よりも、確実に人が増えている。
あの欄干から、屋台が出ている校庭なんかを眺めたらきっと、想像を絶するような人の海を見ることができるんだろう。
屋台は夜通し営業しているみたいだし、夜になれば大玉花火が上がるなんて話も聞く。どんだけ金賭けてんだよってツッコみたくなるのと同時に、これだけの人が集まる理由に頷ける。頷くどころか、頷きすぎて脱帽しそう。
まぁでも、今はそんなことに感服している場合じゃない。
逆に、この大勢の人たちを感服させなくちゃいけないんだから。
足早に庭園を後に、屋上渡り廊下を伝って生徒会室に向かう。
事務棟には出し物があまりないし、庭園みたいにベンチが置いてあるわけじゃないからか、こっちにはあまり人がいなかった。おかげで、事務棟まではスムーズに移動できた。
この部屋も結構見慣れたなぁ……、なんてことを私が言うのも変な話だけど、実際かなり来てるな。こんな縁日にまで来るくらいだ。余程生徒会室好きなんだなぁ、私は。
「失礼しまーす。入りますー」
コンコンコンと、ノックも中ほどに、多少食い気味でドアを開けるのが私流。
「あ。昨日のおにーさん」
「やぁ。リズさん……で、よかったよね。どうしたんだい? まだ打ち合わせまで時間があるけど」
生徒会室の中はいつも通り、程よく片付いていて文化祭っぽさが無かった。奥の大きめのデスクには見覚えのあるお兄さんが座っていて、急な来客に目をパチパチしていた。
眼鏡をかけていたから、一瞬誰かわからなかったけど、この形容しがたい雰囲気は、間違いなくその人のものだ。物腰柔らかで、しかもなよなよで、それなのに荘厳。一挙手一投足、体中から漂う『ただの男』じゃない感。でも、どこか弄りやすい面持ち。
レールって言ったっけ。やっぱり誰かに似てるんだよなー。やっぱルーかなぁ。でも、なんか微妙に違うんだよなー。
ま、いいや。
「ルー見てない?」
「ルートさん? そっか……リズさん、諦めないんだね」
「悪いの?」
「いやいや、そう言うつもりじゃないよ。ただ単に、一人の男として負けたんだなって、しみじみ語ってみただけさ」
「そうなの」
そういう気障なところがルーには無いから、何となく似てない感じがするのかもしれない。
気取るっていうのは、要するに、自分の長所を周りにひけらかすことだから、良く言っちゃえば『自分のことをよく知っている』ってことだ。良い所も、悪い所も。
ルーは、良くも悪くも、自分のことなんて気にかけない。いつも他人優先で、自分は後回し。誰かが幸せになる選択なら、自分の順番を後にしてでも、それを選ぶのがルー。だから、何かの勝ち負けを気にしたりもしないし、結果論に泣くことも無い。
もし仮に、涙を流す理由があるとするならば、それは他人のためか、あるいは自分じゃない“自分”を知った時じゃないだろうか。簡単に言うと、『本当の気持ち』めいたものを感じてしまった時。溜め込んでいたものが、一気に崩壊する時。
もしかしたら今が、“その時”なんじゃないかな。
「それならいいや。別の場所探してくる」
「そうかい。それじゃあ、あまり遅くならないようにお願いするよ。こんなでも、今日は僕が王子様だから。戻って来てくれよ」
適当に返事をしてさっさと帰ろうと思った矢先、用件を一つ思い出してしまったから、「はーい」という返答が拍子抜けで、若干空気が浮ついた。
「そういえば、ここにレーアさんって人がいたらしいんだけど」
「レーア……? どこでその名前を?」
「クラスの男子から聞いたの。その人のお姉ちゃんがレーアって言って、今回の文化祭の役員らしいの。さっきまでここに居たって聞いたから」
「クラスメイト……。ああ、そういうことか」
何か思い当たる節があったのか、酷く落ち着いた笑みを浮かべている。どことなく、引き攣っているような、作られたような、わざとらしい笑みっぽくて不気味だった。
「レーアさんのこと、知ってるの?」
「まぁ、知っているよ。でも、もう、ここには来ないよ」
「もう帰っちゃったかー。ちょっと見てみたかったんだけど、仕方ないか」
うんうん頷いていたレール会長さんは、なんとなく安堵しているようにも見えた。アレンにしろこの人にしろ、皆してレーアさんを隠したがるのには、何か良くない秘密でもあるんだろうか。美人ほど隠したくなるとは聞いたことがあるけど、そんなになのか。
気がかりだけど、今はそれどころじゃない。ルーを探さなきゃ。
朝は一緒に出てきたし、昇降口前までは隣にいたんだ。生徒会室に来ていないとなると、別の場所に潜伏してるんだな。ルーのことだから、絶対帰ったりはしてないはずだ。
「じゃあ、探しに行くから」
「戻って来ておくれよ。お願いだから」
「気は進まないけど」
「その時は、レーアに会わせてあげるから」
そんな取引みたいなやり方は気に食わなかったから、無視して回れ右してやった。
生徒会室を出ると、息つく暇も無く人に出くわす。今日は登場人物が矢継ぎ早に出てくるなー。なんかの総集編みたい。
「おっ。リズちゃんだ」
「ルリお姉さん」
「お、お姉さん……っ! お姉さんの破壊力凄い……っ! ぐっ、死ぬ……」
心臓を射抜かれたみたいなリアクションをとってその場に倒れ込んでしまった。なんだかめんどくさい空気だったけど、とりあえず、「大丈夫ですか?」と肩を貸してあげた。「大丈夫大丈夫」とか言いながら起き上がったけど、息遣いは正常者のそれじゃなかった。
アカデミーって、やっぱり変な人ばっかりだなー。
「はぁ、はぁ……。……どうしたの。生徒会室に用でもあった?」
「えっと。ちょっとだけ、です」
私が生徒会室の扉の前に立っていたせいで、ルリ姉さんの進路を妨げてるみたいになっていた。なので、半歩ほど横に移動してさりげなく道を開けてみる。そしたら、ルリ姉さんも私と同じ方向にずれてきた。意味無いじゃん。
駄弁る時は向き合って、みたいな一家言でもあるのかな。
「そっかー……あ。もしかして、ルートくん?」
「え?」
生徒会室に来てただけなのにどうしてそうなるんだろうなって、単純に不思議だった。
「あれ? 違う?」
「うぅん。そう。けど、なんでわかったの?」
「リズちゃん、いっつもルートくんのこと気にしてるっぽいから。リズちゃん、ルートくんのこと大好きだもんねー」
「そ、そんなんじゃないもん」
「可愛いなー。リズちゃん。構いたくなるなー。うちに欲しいなー」
熱くなったほっぺを指でつっつかれる。なんか珍しい生き物をつつくみたいな感じで。お母さんの友達に撮まれたりすることはあったけど、初めてやられたよそれは。
「行かないですー」
「あぁん冷たい。ルートくんと同じくらいワタシのことも気にかけてー」
まぁ、ルリ姉さんの言う通り大好きで、気にかけてるのは確かなんだよな。そんなに顔に出してたつもりはないけどなぁ。でも、考えてみれば、しょっちゅうルールー言ってた気もするな。
そんなに求めてたんだなぁ、私。ちょっと恥ずかしい。
「あ。それなんですけど。実はルー、いなかったんです。ルリお姉さん、何か知らない?」
「うぐっ……。お姉さんの破――」
「え。まだやるの?」
また変なリアクションに入りそうだったから、直前で止めた。丁寧語を考えている暇が無かったおかげで、ぶっきらぼうになったけど、あれ見てるの、結構時間かかるんだよね。
「ちょ、そんな目で見ないで! しょうがないじゃん! 結構ね、こう、来るものがあるんだよ! ……ああ、ますます憐れみの目に……!」
「だってー……」
「わかったよ! お姉ちゃん、我慢するから!」
「わ、わーい?」
よくわかんないけど、喜ぶところなのかな。
「ルートくんとは、今朝、生徒会室で会ってそれっきりだなー。やっぱり、本番前で緊張してるみたいで、表情が強張ってたから、マッサージをちょちょっとね……」
「そしたら?」
「痛がって出て行っちゃったんだよねー」
「んもー! それじゃ、ルリお姉さんが悪いんじゃん!」
「待って待って! まだ続きがあるんだよ! 出て行っちゃったんだけど、すぐ戻って来たんだよ。ホントすぐだよ。もうね、七秒くらい」
「早いですね。何かあったんですか」
「レイル君が廊下にいたらしくて。レイル君がルートくんに用事あるからって言って、一緒にすぐ戻って来たよ。あ。レイル君って、私の彼――」
「生徒会長さんだよね。それくらいは知ってるよ」
あれ? この前自己紹介みたいなことしたような気が……ああ。そう言えばルリ姉さん、気絶してたっけ。なんで気絶したんだろう。溢れ出る私の魅力に心を奪われたのか。
……ふぅ。まぁいいや。
「それで。それからルーは生徒会室にいたんですか?」
「そうだよ。ワタシがついさっき職員室に出かけるまではいた。ルートくんがどこか行ったとしたら、その間だね」
まぁ、代役候補の人と同室なんて気まずいもんね。ルリ姉さんが席を外してからというタイミングも、なんかルーらしい感じがする。ルリ姉さんに気を遣わせるのも良くないとでも考えたんじゃないかな。
良かった。それなら、まだその辺をうろついてるかもしれないね。表情が強張ってたらしいし、人のいない所で考え事でもしてそう。……あー。思い浮かぶなー。
でも、文化祭中でも人のいない場所。どこかあるかな。来訪者みたいな外部の人は勿論、この学校の生徒でも知らないような、隠れ休憩所みたいななんかそういうアレは。
「ルリお姉さん。人が少なそうな場所ってありますか?」
「人が少なそうな場所? 今日? うーん、そうだなぁ……。学校のほとんどの教室を解放してるし、お客さんも二万人くらいは来てるみたいだからなぁ……」
「ほとんどってことは、空いてない教室もあるの?」
「教室は、職員室と校長室、出し物準備部屋、そしてここ生徒会室以外はフルオープンだよー。保健室も、今日だけ増員して医務室として稼働してるね。あと、教室じゃないけど、体育館のギャラリーと、屋上庭園下の渡り廊下は立ち入り禁止にしてあるよ。そっちはいつも立ち入り禁止だけどね」
「屋上庭園……? あ。あそこって立ち入り禁止だったんですね。ポスターとか色々貼ってあったから、普通に入っていいと思ってましたー。あははは!」
「ははははっ! そっかそっかー…………ああ!? ポスターだと!? 聞き捨てならん! あそこは平常時から立ち入り禁止のはずだぞー!」
なんか急に怒り出したぞ。腐っても生徒会長は生徒会長なんだなぁ。
一回だけぷんすこー、って地団駄を踏んだと思ったら、私の横を通ってどこかに行こうとしていた。
「あ。ルリお姉さん。どこ行くの?」
「行って確かめてくる。校則違反は許されんのだよ」
「私も行くー」
「そうかそうか。なればついてくるがよい」
ルリお姉さんって、一個一個のネタが長いよね。私は同じボケをずっと続けるなんて怖くてできないよ。みんなも飽きちゃうしさー。そういうところは尊敬するなー。
それはおいといて。
屋上庭園の下のとこか。確かにあそこは知る人ぞ知るって雰囲気出てるし、まさにルーが好きそうな廃墟感。それは偏見か。
生徒会室からなら、屋上渡り廊下を伝ってアーティス棟に直通なので、割と遠くない。ただ、休憩してる人たちの目につかないようにするのに、一度屋上庭園からアーティス棟に入って、それから階段の踊り場の隠し扉を抜ける手順を踏んだ。
「うわっ。マジか。かなり貼ってあるなー……。立ち入り禁止って書いてあんだけどなー。これは管理体制見直さないといけないなー」
「…………」
ポスターだけじゃなくて、文化祭の道具の片鱗的な何かも床に散在してる感じからして、立ち入り禁止の意識は相当低いみたい。私が前に来た時よりもポスター増えてるし。
「しかし……。宣伝ポスターを貼るとは、愚かよのう。クラスが丸わかりではないか! ふははははっ! さっそく剥がしてやっか! ちょっと手伝ってくれるかな、リズちゃん」
「…………」
私は別にポスターを探しに来たわけじゃないんだけど。
「リズちゃん……?」
「ルリお姉さぁん……」
「えっ? なになにどうしたのー。よしよーし」
別に泣くつもりなんてなかったけど、なんか色々溢れてきて。任された大役を担えそうもない事とか、大好きな人に裏切られたこととか、思い通りにならない事とか、ホント色々。
ここにならいてくれると思ったのにいない。ここしかないと思っていたのに、いなかった。
私の妹としての自負が、全部勘違いで終わってしまうようで、捨てられてしまうみたいで、怖かった。どうしていいかわからなくて、近くにあった適当なものにしがみついてしまった。
「お姉ちゃーん……」
「あぁ可愛い……っ!! やばいなこれ。なんか良い匂いするし。はっ! ワタシってまさか、そっちの人!? 待て待て待て。私はちゃんと、レイル君が好きだぞ。……でも、それって、顔が良いから、『かっこいい!』ってなってるだけで、『かわいい!』ってなるのと本質的には同じなんじゃ……?」
不意に縋った小枝は頼りないかもしれないけど、それでもいてくれると落ち着くし、私の心の支えにはなってくれる。たとえ偽物のそれだとしても、私のために萎れてくれることなんてきっとない。
代わりの利かない本物ほど儚いものなんてない。
それは一人の人間の夢も同じなんだ。
私はそれが壊れる瞬間を、目の前で、見たことがある。そうして人は泣くし、変わる。変わるための綺麗な涙なんだって、そう言って立ち直る人も、きっといる。誰かが笑ってくれているならって、そう言って逃げる人もいる。
でも、痛いよ。痛いんだよ。私だって。償いの形を考える人生なんて、嫌だよ。
だってそんなの、好きになっちゃうに決まってるじゃん。
もっとちゃんと好きになりたかったよ。間違ってもいいから。
もっとちゃんと、好きになって欲しかったよ。正しくなんか、なくていいから。
「お姉ちゃん……」
【あとがき】
人は誰かを傷つける時、その人のことを考えます。
人は誰かに謝る時、その人のことを考えます。
人は誰かを好きになる時、その人のことを考えます。
きっと、そういう感情には色々似ているところがあって、それでいて少しだけ違う感情なのだと思います。そういう意味では、感情って、どこかDNAとかの繋がりと似てます。
DNAには間違いなんてないけれど、やっぱりマジョリティとマイノリティがあります。あることができる人とできない人がいますからね。
でも、それでいいんだと思います。
べたですけど、支え合うことができるのって、みんなが同じ「DNA」とか「気持ち(量的な)」を持っているからなんだと思うんです。
そんなことを考えながら、物語はクライマックスへ向かいます。
次回です。




